三歩進まず二歩下がる(争奪戦組 発端2)  2009/4/12

あの一言で、全て知ってしまった。
彼の気持ちも。
彼らの考えも。
それから、
自分の想いも。



巣山にとって、あの2人が一歩分だけ特別な位置にいること。
2人はそれに気付かず、おそらくは協定を結んで、あえて巣山から距離を取っていること。
その二つに気付き、次に起こった感情は『悔しい』だった。
一瞬自分でそのことに違和感を抱いたが、それはすぐに払拭された。

(ああ、そうか、)

俺も巣山が好きだったんだ。
その答えは、ひどくしっくりと胸の中に落ちてきた。



「栄口ー、俺9組行くけど一緒行くかー?」
「え、……9組? 珍しいね」
「なんか、昨日行ったら今日も呼ばれてさ」

昼休みに入った直後。
巣山は弁当片手に栄口に声をかけていた。

「呼ばれたんだ?」
「3時間目終わったら、4通同時にメールきたんだよ。誰だと思ったら9組の4人だった」
「……示し合わせた、んだろうねえ」
「間違いなく、な。そんなん呼ばれてるんなら、まあ行くかなって。断る理由も別にねえし」
「昨日、って……皆いたの? 9組」
「いたよ。……ああ、なんか途中で泉が出てったけど」
「……そう」
「どーする? 行くか?」
「んー、……今日はいいや。次の時間の課題、まだ終わってないし」
「マジで? 珍しいな」
「昨日寝ちゃってさー」
「ま、終わんなかったら手伝うって」
「ありがと。……行ってらっしゃい」
「おーう。んじゃな」

教室を出ていく巣山を見送り、栄口はそのまま机に突っ伏した。
どうしよう。
どうすればいい?

(……ねえ、水谷、)

俺たちもしかして間違ってたのかな、と、小さく呟いた。



からり、と9組教室のドアを開ける。
探そうとするより早く、田島と目が合った。

「おー! 来たー!」
「来た、って……お前らが呼んだんじゃねえか」
「う、お、ごっ、ごめっ、」
「いや、三橋、怒ってない怒ってない大丈夫だから」
「そ、そお?」

そんなやり取りをしながら4人の元に向かう巣山。
昨日と同様に、手近な椅子を借りて腰掛けた。

「つーかお前ら、ヒト呼んどいてあの反応はねえだろーよ」
「だってホントに来るかわかんなかったしー!」
「そりゃそうだけど」
「でもさ、」

浜田が笑う。

「蹴ることだって勿論できたわけだろ?」
「それは、まあ」
「うん。だからさ、俺らとしては来てくれて嬉しいわけだよ」
「……そんなもんですか」
「そんなもんだよ。なあ?」

浜田が目を向けた先で、3人が頷く。

「俺は人数多い方がたのしーもん!」
「うお、俺っ、も!」
「だから言っただろ、」

俺らは待ってるって。
泉が声にしなかった言葉を、巣山は確かに聞いた気がした。



「――栄口、」

自分を呼ぶ声が聞こえて顔を上げる。
目の前に、水谷がいた。

「あれ、……どしたの」
「巣山は?」
「9組行っちゃった」
「……泉?」
「いや、4人とも」

ひどく少ない言葉のやり取り。
栄口の言葉に、水谷が頭を掻く。

「やっぱりそーなんだー。さっきね、巣山が1人でうちのクラスの前通ったから、あれ、って思ってさ」
「9組の4人からメール来たんだって。一緒来るかって言われたけど、やめといた」
「一緒行けば良かったのに」
「……そう?」

そーかなー、と呟き、栄口は小さく溜息をついた。
主のいない席に、水谷が腰を下ろす。

「……行きづらいじゃん。俺呼ばれてないのに」
「そんなの誰も気にしないと思うけど」
「三橋たちはそうかもしれないけど……泉はそうはいかないじゃんか」
「……そーかなー」

栄口の言葉をそのまま返し、首を傾げる水谷。

「別に喧嘩売るわけじゃないって言ってたし……それに、三橋たちがいるとこでは、逆に何もしないんじゃない?」
「あー……それはそーかも」
「それに、」

水谷が困ったように笑う。

「そこで栄口が巣山と一緒に9組行ってても、俺は別に抜け駆けだなんて言わないから大丈夫だよ」
「……うん。ありがと」

水谷に笑い返しながらも、栄口は自分の中のどこかが声を上げていることを自覚していた。
それでもやっぱり、わかんないんだ、と。



予鈴が鳴り、9組から戻ってきた巣山は教室の入口で足を止めた。

(……水谷?)

栄口の前の席、つまりは巣山の席に、水谷がいる。

(ああ、くそ、)

思い出させないでくれ。
昨日気付いたこの痛みを。
  .......
(なんでいるんだ)

どうして2人でここにいるんだ。
単純明快に考えれば、答えは一つしかない。
それに気付かされたのが、昨日。

(……泉、)

泉は多分全部知っている。
栄口と水谷の行動に対して、巣山が何を思ったのか。
そうでなければ、昨日のあの言葉はないはずだった。
あの一言で、少なくともその瞬間、巣山は救われた気になったのだから。

(――助けてくれ)

右の手のひらが、ぴりぴりと痛んでいた。



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席の配置が捏造ですみません。あとなんかありがちな展開やっててさらにすみません……orz ホントどこまで続くんだろう……。









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