ミッコクゲェム。 −29−  2009/3/9

結局のところ、沖の考えは正しかったのだ。




……栄口は沖と並んで円陣に加わった。

「……えーと。どこから話せばいい?」
「化学室から脱出した後、じゃない?」
「んと……あのときは確か、巣山に見つかったんだよね。で、北側階段から降りて、階段裏に回ったんだ」
「階段裏って……あの狭いスペースかよ?」

巣山が口を挟んだ。
そこは確か、一度見た覚えがある。

「そうそう、用具入れあるトコね。で、階段裏に回ったら黒い箱があった」
「黒い箱?」
「あ、」
「……マジで?」

西広がぽかんと口を開け、阿部が目を見開いた。

「え、うん。なんで?」
「……中身、これか?」

阿部が双眼鏡を差し出す。
栄口はきょとんとして首を振った。

「違うよ。てか阿部これどーしたの」
「俺らはこれ、部室で見つけたんだよ」
「注意書きも入ってたねー」
「あ、だから阿部、双眼鏡なんて持ってたんだ」

訊くのすっかり忘れてた、と水谷が手を打つ。

「双眼鏡かー……でも俺があの場所で双眼鏡もらってもあんまり意味なかったんじゃないかなあ」
「じゃあ何入ってたんだよ?」
「んとね、これ」

べろん、と銀色のシートをポケットから引っ張り出す栄口。
ぺらぺらの薄さで、ちょっと折り目がついていたりする。
広げてみると30センチ四方くらいの大きさで、ある程度硬いのがわかった。

「……何これ」
「いや、俺もわかんないんだ。なんだろね。カントクー、これ何ですかー?」
「それね、アルミ。アルミ板0.05ミリ」
「…………板ァ?」
「アルミはアルミでも、これじゃむしろホイル……」
「だよね……でもやっぱりホイルよりは硬いよなあ」
「……で、これがどーしたんだよ」
「これね、裏側に粘着テープついてたんだ」
「え、まさか……鏡の代わりに、ってこと?」
「なんだと、思う」
「でもこれ……映り良くないんじゃない?」
「ん、でもさ、俺たちのゼッケンの数字って結構大きかったじゃん? 鮮明じゃなくてもいいなら、ちゃんと見えるんじゃないかと思って」
「……俺が見たのはそれか」

ぽつりと呟く田島。
栄口が田島を密告した後、背後を振り向いた田島は、南校舎の壁に一ヶ所異変を見つけていた。
それが何かを確かめる前に脱落、移動になってしまったのだが。

「そだね。三橋がオチて、田島と電話した後で南校舎に仕掛けたんだ。気付かれるかもっては思ってたけど……気付かなかったね、田島」
「気付かなかったあああ!! つーか栄口しか見えてねかったもん!」
「で、俺は運良く田島の番号見れた、ってこと」
「よくわかったね、田島がどこから来るかって」
「あ、そーだよ! 俺北階段のトコにいるって言ったはずじゃん! なんで『南校舎に』仕掛けたんだよ?」
「田島が北階段にいるって言ったから、南階段から来ると思ったんだよ」
「……何その理屈」
「…………そんじゃふつーに北校舎行きゃ良かった…………」
「読まれまくってるね、田島」
「……あれ、化学室から出た後の話してたはずなのになんで最終戦の話になってンの?」
「…………あれ?」
「んと……化学室出て階段降りて、階段裏でこれ見つけた、ってとこまで聞いたんだったよね」
「で、これ見つけた後はー?」
「その後?」

栄口が困ったように笑う。

「あとはね、隠れてた。あ、田島と巣山から一度ずつ電話入ったっけ」
「隠れてたってどこに?」
「えとその……、……用具入れ」
「……え?」
「だからね、用具入れ。北側階段の裏にあるの。知らない?」
「……………………あ」

小さく声を漏らした巣山に、栄口が苦笑したまま目を向けた。

「巣山は知ってるよね」
「勿論……うわでもマジでか……!」

巣山の中で一気に何かが開けた。
探せど探せど見つからなかった栄口。
自分が密告されたタイミング。
ちゃんと閉まらない掃除用具入れ。
そしてその、サイズ。
中に入ろうと思えば、入れないこともない。決して広くはないが。

「……やられた……!」

今更ながらに頭を抱える。
そうして、気付いたことがもう一つ。

「俺が電話掛けたとき、コール1回で繋がったのもか……!」
「あ、うんそだね。着信音で居場所バレたりなんかしたらオシマイだもん。もー電話もメールも、速攻で音止めたもんね」

ふふ、と笑う栄口。

「びっくりしたよー? 巣山から電話掛かってきたと思ったら、用具入れの戸の隙間から巣山いるの見えたんだもん」
「……で、そんときにゼッケン見たと」
「そゆことー」

巣山ががくりと肩を落として泉に凭れかかる。
泉は苦笑しながらその頭をぽんぽん叩いた。

「……どこにいるんだかわかんねェわけだよな」
「そりゃね。あそこに用具入れあるなんて知らなかった人挙手ー」

阿部と西広の呟きに、数名が手を挙げた。
さもありなん。

「それが巣山を密告したときの話。そのあとは……これといったことなかったかな、2回目の封鎖通知まで。何回か用具入れから出て周りのチェックはしてたけど」
「なんで封鎖通知?」
「メール見て、封鎖が解けたらすぐに校舎2階に行かなきゃって思ったんだよね。これ、仕掛けなきゃないから」

例のアルミ板をひらひらと振る。

「ああ、そっか先に仕掛けておかないと意味ないもんね」
「どー考えても待ち伏せ用のアイテムだもんね、それ」

沖が頷く。
そうして、三橋がはっとした顔をした。

(……俺が見たの、は……そのとき、か)

声には出さない。
田島と一緒に校舎に来て、別れて、その後田島に声をかけられる直前に見えた栄口。
あのとき栄口は2階に行こうとしていたのかと思う。
もっとも、それがわかったからどうだという話でもないし、三橋は何も言わなかった。
花井が「そんで?」と続きを促す。

「あとは校舎の2階に行って、このシートをどこに仕掛けるかずっと考えてた。そしたらちょうど三橋がオチたってメールがきたから、情報収集も兼ねて田島に電話したの」
「……で、さっきの話に戻るってことか」
「そーなるね」

栄口が頷く。次いで笑った。

「以上、解説終わり。多分ね」
「何その多分って」
「え、なんか忘れてることあるかもしんないから」
「……締まらねえなあ」
「…………そだね」

花井の呟きに苦笑し、栄口はモモカンに首を向けた。

「……以上、です」
「うん、ありがと。今回は栄口くんの作戦勝ちみたいだね」
「運もかなり良かったとは自分でも思います」
「そうかもね。でもまあ、運も実力の内、って言うし」

モモカンが頷いたところで、田島が「あー!」と声を上げた。

「カントクー! そーいえば賞品あるって聞いてたんスけど、それってなんだったんですかー!?」
「……おお。そういやあったなそんな話」
「よく覚えてたね田島……」
「賞品か、それはねー、」

モモカンが笑う。

「おにぎりの具のリクエスト権1週間分。練習の結果如何に関わらず」
「おにぎりリク権……」
「じ、地味に羨ましいなそれ」
「いいなー、1週間ずっと焼肉とかできんのかー」
「うわそれいいな」
「天むすとか食いたいなー俺」
「お前勝ってねえじゃん」
「……いや、そーだけど」

周囲の言葉を聞きながら、沖と栄口は互いに目配せをして小さく親指を立てた。
これはこれで、オイシイ。
そんなざわめきの中、モモカンがさらりと言葉を発した。

「それにしても、次に向けて改善点いっぱいありそうだね」

ぴたり、と全員の口が止まる。
    ......
「……かいぜんてん……?」

モモカンの言葉を反芻した栄口の背筋が冷えた。
それは同時に部員全員に伝播する。
ちょっと待て。それはまさか、

「いろいろルールとか変えて、またやってみようかなって思って。面白かったでしょ?」

笑顔を浮かべ、さらりと爆弾発言をするモモカン。
10人は円陣内で顔を見合わせた。
三橋と沖は既に半泣き、巣山と水谷と花井の顔は引きつり、阿部と田島と泉はいやでももっかいやってもらえたらいろいろ借り返せるんじゃね? とか考え、栄口と西広は笑みを浮かべてはいるがやはり口元は引きつっている。
全員が同時に同じことを考えた。

カントク、どこまで本気なんですか。



本当にやるのかどうかはとりあえず謎である。
どっとはらい。



― ― ― ― ― ― ―

伏線放置してるのありそうで怖い怖い。
でも栄口に関する物以外は大体直後に種明かししてるし大丈夫……なのか?

本編はここまでです。30話の代わりの裏話を近々アップしますので。









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