Holiday 昼
2013/6/20
……失敗したかなあ、と、バッツはちょっと考えている。
食事の後、さて何したい、とフリオニールに訊いたら、彼はしばらく考えてから、
「……あ、武器の手入れしたい。時間もあるし、バッツに手伝ってもらえたらはかどるし」
なんぞと言った。
せっかくだからと屋敷の庭に連れ出しはしたが、つい先ほどまでやっていたことは装備の手入れ。
確かに大事なことだ。時間もかかる。
だがこれはちょっと、
(……欲、無さすぎじゃね?)
確かにバッツが望んだ通りフリオニールは上機嫌だ。
それは本当に良いことではあるが。
(なんつーか、……うん、そうだ、甘さが足りない)
仮にもコイビトにわざわざ強請ることだろうかと思うのだ。
愚痴を言いそうになってしまったところをぐっと堪え、片付けをしているフリオニールの背中にべたりと引っ付く。
「あとなんかないの?」
「なんかって?」
「おれにさせたいこと」
「させたいこと、」
フリオニールはまた考え込んだ。
「……普段そんなこと考えないからなあ」
「キスして欲しいとか言ってくれたらいくらでもするのにー」
「いつだってそうだろお前……」
「じゃあええと、おれがしたいのでキスしていーですか」
「…………どーぞ」
ちょっと頬を染めながらもフリオニールはあっさり頷いた。
作業に付き合っていた甲斐は、一応あったらしい。
膝立ちになってフリオニールの顔を上向かせる。
上下反対のまま、一度だけ口付けた。
顔を離したらフリオニールの表情がわずかに歪んだ気がした。
あれ、と思う間にフリオニールが身体ごと振り向く。
腰のあたりに抱きつかれた。
「……フリオ?」
腕の力がきつい。
そうっと髪を撫でてやると顔をぐりぐり押し付けてきた。
「……ごめん、やだった?」
違う、という小さな声と共に首を振られる。
「違う……違うんだ、そうじゃ、なくて」
抱きつかれたまま腰を落とした。
一度身体を離したフリオニールの腕が、今度は首に回される。
そのまま口付けられた。
ついさっき自分でしたのとは大違いだとバッツは思う。
あつい。
フリオニールにしては珍しい、貪るようなそれに、バッツの中で何かが溢れた気がした。
唇が離される。
「バッツ、」
耳元で囁く声もあつい。
「 」
零された言葉は舌足らずでひどく幼く聞こえた。
熱に浮かされているようだ。
その声音に、バッツの背がわずかに震えた。
(……まずい、)
自制していたはずのこちらが流されそうだ。
……ああ、でも、
(フリオがしたいんなら、いいのか)
それなら全く問題ないのだ。
小さく笑って、それからフリオニールの身体を抱きしめる。
意識してそうしたのは久しぶりだなと思った。
昨夜は引っ付いた直後にお互い寝落ちている。
ちょっと見てない間に少し痩せたかなあ、とか思っていたら微かな声がした。
「…………バッツ」
「うん」
「……なんかごめん……」
苦笑するバッツ。
フリオニールの声から、先ほどまでの熱は消えていた。
我に返ったというところか。
バッツはくつくつ笑う。
「珍しいもん見た」
「頼むから早いところ忘れてくれ……」
「いくら今日のフリオの頼みでもそれは無理」
バッツとしては、忘れられるはずなどなかった。
「フリオもあんなこと言うようになったんだなあ」
しかもあんな声で。
そう続けたら変な呻き声がした。
フリオニールが身体を離そうとするのに先んじて腕に力をこめる。
「もっかいキスしてよ。そしたら離してあげる」
半分は嘘だ。
もしフリオニールが一言「離せ」と言えば、今度は抗うつもりはない。
だが。
「……だったら力緩めてくれ」
少々意外にもフリオニールはそう言った。
言われた通りにすると、互いの顔が見える位置まで距離を取られる。
暫し見つめ合った後、ひどくゆっくりと唇が触れた。
目を伏せたまま、フリオニールが小さく声を落とす。
「……バッツ、」
わずかな躊躇の後、頼みごとが一つ紡がれた。
――好きだ、って、言って。