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風の森に伏す怪物・後



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「そこのあなた」

「 !? 」

リンゴは声に反応し辺りを見回す。しかし、人がいる様子はない。


「誰なの!? 姿を現しなさい!」

「私はここの森の守り人よ。あなた、その女の子と男の子二人をどかしなさい」

「どかすって……あたし一人でやらせるつもり!?」

「いいからやりなさい。敵に見えないようにしてくれればいいから」

「……そうね。あの怪物が起きる前に」

敵に見えない場所――! あの茂みがいいわ! リンゴはなるべく急いで三人を茂みに隠した。


「これでいいかしら?」

「ありがとう。あなたはそこで大人しくしていなさい。絶対に顔を出さないのよ」

この声の後すぐ、リンゴの真上の木の葉が揺れたかと思うと、物音がし始めた。風で森が揺れ、雷鳴が轟き、重量感のある鈍い音と共に、何度も地面が響いた。



「……ん、んー」

「 !! マルー! 目を覚ましたのね!」

「……あれ!? あの怪物は?」

「森のなんたらかが戦ってるわ」

「守り人さん!?」

「そんなカンジね。その人、マルーがやられそうなところを助けたのよ。今向こうで怪物と戦ってるわ」

「そうなんだ……」
マルーは少し静止したかと思いきや、さっと飛び起きた。


「私も行く!」

「ダメよマルー! 顔を出しちゃダメって、森の守り人に言われているのよ!」

「じゃあ、茂みの間から覗く!」

「……マルーったら、そんなに気になるの?」

「あれ? 守り人さん、いないみたいだよ?」

「えっ?」

結果、二人で茂みの間から覗く形になった。


「確かにいないわね。まさかやられたんじゃ……」

と、思ったのも束の間、威勢の良い掛け声と共に、一人の女性が草むらから飛び出し、刃の先が膨らんだ大きめの剣で切りかかっていった。


「来た! あの声、間違いないよ守り人さんだ!」

「守り人……の服装、明らかにＯＬさんよね? スカートが真っピンクとか――」

「でもカッコいいよ!? ほら、指先から雷!」

「えーっ!?」

「 !! ダメだよ立っちゃ!」

マルーはすぐにリンゴの頭を下げた。


「何してるのさ」

「ごめんなさい。ついビックリしちゃって……あの怪物にバレていないかしら?」

「どうだろう……とにかく大人しくしてよ? 今は守り人さんの方が優勢みたいだから」

「ええ」



「(あの子たち何やってるのよ……まぁいいわ。あのオオバナシロにはバレてなさそうだし)」

こう守り人は思いながらも、怪物「オオバナシロ」に果敢に立ち向かう。


剣と雷と風を巧みに操る、ＯＬのような守り人。一方、植物の怪物“オオバナシロ”は、太い根を使った重量感ある打撃攻撃を放ち続けていた。

「(困ったわ。動きは単調だけど、タフな相手だからさすがに私の疲労が……そろそろ決着をつけないといけないわね)」


守り人は一度怪物と距離を置き、なにやらブツブツと唱え始めた。


「あら? 守り人さんの動きが止まったわ」

「どうしたんだろう――あっ! 守り人さんの目の前で光がビリビリ出てる! 大技炸裂かも!」

二人の期待が高まるが、それはすぐに崩れ落ちた!


どぐおんっ! 守り人の大技より早く、怪物が太い根を思いっきり叩きつけた! 根の勢いで守り人は宙を舞う!

そして叩きつけた振動が地面に亀裂を走らせた! しかもその亀裂は、マルーとリンゴに向かっている!


「きゃあっ!!」
「うわっ!!」


なんと二人は、亀裂によって引き離されてしまったのだ。



「リンゴ大丈夫ー!?」

「平気よ! ケンとタッツーも無事だから、安心してー!」

「おっけー!!そっから動いちゃ――」

マルーの話の途中に突然、マルーの近くで何かが無造作に転がり込んで来た。


「守り人さんっ! 大丈夫ですか!?」

何かの正体は、大きく傷を負った森の守り人だった。
身も服もボロボロの守り人が、顔をマルーに向けてくる。


「……あなた、あの時の子だったのね。何故この森にいるの」

「そんなこと言ってられないよ! 守り人さんの傷を何とかしなきゃ!」

「それは無理ね。回復手段は尽きてしまったもの。だからもう戦うしかないわ。攻撃こそが、最大の防御……」

そう言って、膝から崩れそうになりながらも、両足でしかと立った守り人。


「……あら? おかしいわ、私の剣がない!」

「大変! 急いで守り人さんの武器を探さなくちゃ――」

「ちょっと怪物! 二人を離しなさ――っえ!? きゃぁあっ! 離してーっ!」

「ああっ! 向こうで皆が捕まっちゃってる――!」

「……あなたは私の剣を探して! 私が時間を稼ぐから!」

「でもケガが――!」
マルーに有無を言わせぬまま守り人は、三人を捕まえた怪物の元へ飛び込んだ!


「……とにかく探さなきゃ!」




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Episode9 風の森に伏す怪物・後
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