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ひと夏の探索・後




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「……もう、追ってはこねーよな」

あるものに遭遇してから、道を外れ、茂みの中を懸命に駆けていた二人。恐る恐る後ろを確認するも、すっかり影を落としてしまった森の中では、十数歩先の景色は黒に包まれてしまっている。


「大きな音はしないし、変な揺れもないから、平気だと思う……」

「そうだな。少し休むか……ああ、死ぬかと思ったぜ」

「ありがとう、ケン。ケンが気付いてくれなかったら、私どうなってたか……」

「てか、さっきのは一体、何だったんだ?」

「そんなこと、私に言われても分かんないよ……」

「とにかくあいつ、大木みたいにデカかったぜ。……もしかして、アレが見せたかったヤツか?」

「違う! あんなに大きくない!」

「そうか……」

「はぁ。どこにいるかもう分からないし、一体どうすればいいんだろう」

地べたに座ったマルーは、自分の頬を腕に沈めてゆく。腕の中で瞳は影を落としていった。



「……歩くぞ」

「へ?」

「帰れねーだろ歩かなきゃ」

「待って! ねぇ怒ってない?」

マルーの言葉は無視され、ケンは更に先へ進んでゆく。


「……ゴメンね、ケン。あんな目にあわせたうえに、約束を守れそうもなくて……」

「は?」

「えっとだから、ゴメンねって――」

「何言ってんだよ。お前が諦めたらどうするんだよ」

「だって……」

「また付き合ってやるから。な?」

振り向いたケンの表情は穏やかだった。
どうやらケンは怒っていないみたい――そう思うことが出来るだけで、マルーの顔はほころびた。


「……うん。ありがとう!」

「別に。さあ出口探すぞー」


二人は再び歩き出そうと、懐中電灯の光を道なき道に向けた。
照された道には一つ、白い小さな花があった。


「あっ! 私が最初に見つけたタイヨウカだ! わぁよかったー!」

「へぇ。なかなかキレイな花じゃねーか……ん? 向こうにも似たヤツがあるぞ」

「ホントだ! 行ってみよう」


道端にあった花をたどるにつれ、次第に咲いている量が増えていく。


「わっ! 見て!」

「……おお!」

やがて二人は、“タイヨウカ”の群生を目の当たりにした。
これは押さえておかなくちゃ! と、マルーが夢中になってカメラを向ける。



「あっ! ケン、光消して!」

「?」

「いいから!」

「お、おう」

ケンが懐中電灯の光を消した!


「わぁ……!」

「すっげー……!」

それぞれ言ったきり。開いている口も、言葉もまばたきも忘れ、二人はただ光に魅入った。いくつものタイヨウカが、互いに競い合うように温かい光を放っていたのだった……!



「俺も写真を撮っておかねえと――」

「あ、それってスマートフォン!? あのさ! こっちに画面を向けて写真撮ることってできるの!?」

「……出来ないことはねえぜ」

「じゃあ来て!」

マルーがいきなりケンの腕を引き、群生の中心へ引き込む!


「いきなり何をする――!!」

「わあ! やっぱりきれい!」

光を通じて見る森は、明らかに幻想的だった。


「こりゃあ……」

夢見心地の中で、ケンの視界にマルーが入る。マルーの瞳はきらきらと、花の光を反射し輝いていた。


「――きれいだ」

「うん! きれいだよね!」

「え……俺が今言ったのはそういう意味じゃなくてあの――花が! 花がきれいだあって」

「うん。だからさっきから言っているでしょ? お花がきれいだよねって」

「……んあー! マルー! さっさと撮って帰るぞ!」

「え!? 私何か怒らせることした!?」

「いいから撮るぞ――!」




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Episode5 ひと夏の探索・後

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