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ひと夏の探索・前




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その日の午後、マルーは植物図鑑を片手に“風の森”へとやって来ていた。

「この森はとっても不思議なとこだから、夏休みの自由研究にぴったりだよね! きっと今まで見たことない植物も見られるハズ!」



彼女は、森の中へと足を踏み入れた。木を通じて射してくる柔らかな光が、マルーに微笑みかけているようだった。

「森の中には初めて入ったけど、涼しいし、空気も澄んでいるし、本当、いいところ! ……あ! 早速発見!」

しばらくして見つけたのは、ユリのような1つの白い花。
彼女は持っていた図鑑をすぐに開き、パラパラとめくると。

「あった! なになに……太陽の光を集めて夜に幻想的な淡い光を放つ“タイヨウカ”かあ……へぇ! 光る姿、見てみたいなぁ。でももう一度ここに来れるかな? うーん」


しばらく頭を使う彼女。


「……いいこと考えた!」

彼女はなんと、髪を結んでいたゴムを外し、花と近くの木の枝に結んだのだ。

今度ここに来るときの、道しるべとなりますように……。そう祈ると、彼女はタイヨウカのある場所を後にした。



「あ! こんなうさぎも初めて見た! とっても可愛い!」

しばらく悠々と森の中を探索していると、草むらからうさぎが現れた。喉から絞ったような声で鳴くそのうさぎは、全身がパンダに似た柄に包まれていた。

すかさずうさぎと同じ目線になるように屈んだマルーは、両手を広げてみせる。
「こっちへおいで!」と声をかけると、うさぎは応えるように首を傾げた。

やがてうさぎはマルーに向かって駆け出す、のだが。予想以上の速さ――まるで弾丸のように飛び込んでくる!


「わっ!?」

マルーはとっさに腕で自分をかばった! その腕にためらいなく噛み付くうさぎ!

彼女は声を上げながらも噛まれた腕を必死に振り回し、何とかうさぎをほどくとその場から逃げ出した。

「結構深く噛まれちゃった……私、何もしていないのに!」

噛まれた腕を気にかけながら逃げるマルーにふと、うなじへ衝撃が走る! その勢いがマルーを前方へ跳ね飛ばした! 身体を起こしたところに追い打ちをかけるように、うさぎが肩に噛み付いてくる!

「――もう! お願いだから! 離してっ!」

マルーとうさぎは攻防を繰り返し、やっとの思いで彼女は肩からうさぎを離し、投げ飛ばした!

すぐに彼女は辺りに落ちていた木の棒を構え、うさぎとにらみ合う体制に。

「(どうしよう、これじゃあ引くに引けないよ……)」


――誰か助けて!


そう彼女が強く願ったその時! 「ぴしゃり!」と水で打ちつけたかのような音と光が、マルーとうさぎに飛び込んだのだ!


「今何が……あっ! さっきのうさぎがいない!」

どうやらうさぎは追い払われた様子――ぽかんとするマルーの背後で、何度か強い風を感じていた。それに気付き振り返ってみるも、若葉が高く舞い上がり、落ちる様子しか見られない。その時だった。



「全く。こんな危険な所にどうして子ども一人でやって来るのかしら」

マルーへ、注ぐように声がしたのだ。

「誰!?」
声の主を探そうとするが、見られるのは森の木々が揺れる姿のみ。



「どこにいるの!? 私、あなたにお礼が言いたいの!」

マルーはそれから、声の返答を待つ。

聞こえた声は女性の声だったな……そう、きっとかっこいい女性! マルーは空想で描いた“かっこいい女性”に、どうしても面と向かってお礼が言いたかった。

「そうね。順番に答えましょう」

「 !! 」

「まず名前は……森の守り人、とでも名乗っておきましょう!」

「守り人さん……かっこいい名前!」

「あらありがとう。次に、私がどこにいるかについて。……それは教えられないわ」

「教えられない……わあもっとかっこいい!」

「あら、ありがとう……あっ、お礼は結構よ――大人しくこの森から出て行ってもらえたら、それでいいわ」

「えー!? 私はここで夏休みの宿題をしなきゃ……」

「づべこべ言わない! ここにはさっきのような凶暴な生き物が沢山いるのよ!」

「そんなの、私自身で何とかするもん!」

「よく言うわね。怖がってたくせに」

「あんなのに出会ったら、そりゃ誰でもビックリするよ! ……でも、もう大丈夫だもん! 一度会ったものはもう怖くないもん!」

「ふうーん。直接言ってもムダみたいだから、実際にこの森で死んでもらった方がよさそうね。さようなら」

そう言われた後、マルーの周りでとても強い風が巻き起こったのだった。



風が止んでからは、声は聞こえなくなった。どうやら“森の守り人”はいなくなったらしい。

「(あんなこと言う人が守り人だなんて! 顔を見なきゃ信じないもん! あんなのは無視!!)」



その後、彼女は守り人から言われたことは気にせず、森の調査を続けた。幸い、凶暴な生き物に出会うことはなく、彼女は無事、調査を終わらせることができたのであった。




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