TOP PAGE




Flag:5-4




ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村 ランキング参加中




「今日はごちそうだ! 皆! 思いっきり食うぞー!」

太陽はすっかり沈み、満天の星が船を照らす頃。スカーレットの言葉を合図に船上の宴が始まった。
航海中に倒したイカだいおうをふんだんに、前菜からメインにまでぎっしり盛り付けられている。男達はそれらを肴に杯を交わしていた。



一方、マルー達は、スカーレットと穏やかな食事を共にしていた。


「煮ても、焼いても、揚げても! 茹でてもサラダ仕立てにしても美味しいだなんて!」

「どの料理も……良いですね」

「リンゴもアスカも満足みたいだね――マルーはどうかな?」

「はい! とっても美味しくて、全部食べられちゃいそうです!」

「おっ、嬉しいことを言うねー! お前ら! 料理はぜーんぶ旨いってさ!」

スカーレットが、杯を交わしている男達に呼び掛けると、彼らは全員、杯を掲げる形で応えてくれた。

「この料理、まさかあの人達皆で作ったってわけ!?」

「そうそう。あいつらは――ただ暑苦しいってだけの連中じゃない。料理の腕も確かなのさ」

「おいおいスカーレットさん!」
「そういう言い方はやめていただきたい……」
「困るんだよお!」

「あ、船で最初に会った――この人達も料理を作ったんですか?」

スカーレットが、もちろん、と答えると、腕っぷしの良い男三人組がはにかむ。それを見たマルーは、目を輝かせながら真っ先に三人組の元へ。

「ありがとうございます! 私、嬉しいです! こんなに美味しい料理が食べられるなんて!」

「そいつは良かったぜ!」
「作った甲斐があったな……」
「こっちも嬉しいよお!」

そうしてマルーと三人組は握手を交わす。

「だが、生憎、君に用はねぇのさ」
「我々は、そこの見事なブレード使いと話がしたい……」
「どいてくれよお!」

三人組はマルーを振り払い、食事をたしなんでいるアスカに近付いた。

「なあ嬢ちゃん! さっきの双剣さばき、見事だった! 名前を教えてくれよ!」

三人組の一人が、アスカの手を無理矢理握った。唐突の行動に驚いているのか、アスカは目を見開いたまま動かない。


「相変わらずしつこいわね! 困ってるじゃない!」

「だからガキに用はないと言っただろう……」
「お前こそ、毎回毎回生意気なんだよお!」

「なっ、なんですってぇ!?」

「まあまあリンゴ落ち着いて! ただアスカと話がしたいだけみたいだからさ」

「ほう? 嬢ちゃんはアスカというのか……」

「あっ!」

「もうマルーったら! どうして名前言っちゃうのよ!」

「ついうっかり……ごめん、アスカ」

「いいえ。お気になさらず」

マルー達が会話をしている間に、アスカの手を取った男は他の二人の元へ戻っていた。そして今、彼らはひそひそと話し合っている。

「あの人達、急にどうしたのかな?」

「アスカ、やっぱりあの人達に何かしたんじゃないの?」

「いいえ、私は何も。あの方々とは初対面ですし」

「そう……、また来たわよ」

再び、三人組の一人がアスカに近付くや否や、なあ、と切り出してきた。

「間違っていたら悪いが――嬢ちゃん、過去に闘技場を制覇したことはねぇか?」

「闘技場を制覇……ってまさか! スカーレットさんがお昼に言っていた――」

「人違いです。そんな所、行くわけないじゃないですか」

ぴしゃりと言い放ったアスカは席を立ち、その場を去ってゆく。

「ちょっとアスカ! ――マルー、この場はお願い!」

「えっ!? ま、待ってよリンゴ!」

アスカと同じ方向へ駆けていったリンゴを、マルーが追いかけようとしたその時だった。


「俺の目に、狂いはないはずだよな?」
「当然だ。あの時の刃さばきは……」
「間違いないんだよお!」

男三人組の話し声が、マルーの後ろ髪を引いた。


悔しそうに語っている、男三人組。
男達が探している人は、彼らにとってはどうしても会いたい人なのだろう。その、会いたい人かもしれない人に「違う」と言われて立ち去られただけじゃあ――もし自分がこの人達と同じ立場だったら、簡単に諦められないはずだ。


「あの!」

マルーが意を決して口を開いた。

「そんなにそっくりなんですか? アスカと、皆さんが探している人は。……」


─━─━─━─━─


一方、リンゴは。

「待ちなさいよアスカー!」

マルーがいる食堂の真下――この船の下層部は、中央に廊下が延びている。リンゴはその廊下を、アスカを追いかけながら歩いていた。

「怒るのは分かるわよ! けど、あんな去り方をしなくても――ねえ!」

リンゴはアスカに呼び掛け続けるも、反応を得られないまま。



やがてアスカはとある扉を開き、その先へ姿を消す。リンゴもそれに続いた。

扉の先では、ベッドがところ狭しと並んでいた――どうやらここは、乗客共用の寝室の様子。アスカは、この部屋の一番奥にあるベッドへ潜り込んでいった。


「ねぇアスカー? 一旦そこから出てきてもらえる?」

「……」

「少しだけで良いのよ。出てきてもらえないかしら」

「……」

「……もう。なんて頑固なの」

口を利かないアスカを諦めたのか、リンゴも、とあるベッドに腰を下ろす。


「この船に乗った時みたいな丁寧な言い方をすれば良いのよ。なのに、どうしてあんなトゲのある言い方になっちゃったのかしら」

盛大に溜め息をついたリンゴはベッドに寝転がったその時。

「あ、やっぱりリンゴだー」

そうして突如顔を覗き込まれ、彼女は飛び起きた。

「――びっくりするじゃない、リュウ」

「ごめんー。でも、気になったからー」

「そう? ……だったら! あたしの話を聞いてもらおうかしら」

これをリュウが快諾すると、リンゴの向かい側にあるベッドに腰をかけ、食堂での出来事について語った。


「そっかー。人違いされて怒ったんだねー」

「そうなの。でも普通だったら、人違いですー、気を付けてくださいー、だけで済むはずじゃない? なのにどうしてあんなに怒ったのか、あたしにはよく分からないのよ」

「確かに、それは聞いてみないと分からないねー」

「そうでしょう? だけどほら。あの通り、布団にくるまっちゃって」

リンゴが指差した先――ぽつりと出来たかけ布団の山を、リュウは発見した。

「……寝ちゃったんじゃないー?」

「いいえ、あれは寝たフリよ間違いないわ。でも、今呼び掛けても反応しないでしょうね」

「じゃあ、朝になるまで待とうよー。朝になったら、どんな人でも起きるでしょー? アスカだって、きっとそうだよー」

「……それもそうね。ありがとうリュウ。あたし、アスカが起きるまで待ってみるわ」

それが良いよ、とリュウは頷いた。


「ところであんた、いつからこの部屋にいたの?」

「ずーっと前からいたよ。船に酔ってキモチワルイ、ってケンが言っているから――」

「なんですって?」

リンゴはベッドから腰を上げた。
辺りを見回すと、そう遠くない位置に一つ、布団で出来た山を発見した。

「――イカだいおうが襲いかかって来た時も見かけなかったし、倒したそれを運ぶ時も見かけなかったし……可笑しいと思ってたのよ」

「イカだいおう、ってー?」

「ちょっと、そんな事も知らないの――!?」

リンゴが船上での出来事をリュウに語りつけている頃、寝室の扉が誰かに開けられた。その人は徐に、話を聞かされて萎縮するリュウと、頬を膨らませたリンゴの横を通り過ぎる。
そしてその人は、適当なベッドに腰を掛け、顎を拳に乗せた。

そんな――まるで有名な銅像のように座るその人が、リュウの目に映る。

「向こうで座っているの、マルーじゃなーい?」

「えっ――本当だわ! いつの間に戻ってたのね!」

「でも、あんまり元気じゃなさそうだよ――ああ。行っちゃった……」

「マルーごめん! 男の人達押し付けちゃって!」

「うん」

「変な事されてない?! 大丈夫?!」

「うん」

「……ちょっと。ちゃんと話聞いてる?」

「うん」

「聞いてるならちゃんと目を合わせなさい!」

リンゴがマルーの肩をがしと掴む! すっとんきょうな声を上げたマルーは、つり目気味のリンゴと目が合い、それから小さく謝った。

「自分の世界に閉じこもってる、って感じだったわよ。どうしたのよ、一体」

マルーはまた目をそらした。
目線は下向きで、口は詰むんだまま。何も話してくれない彼女に、リンゴは思い迷うしかなかった。のだが。


「……あのさ」

今度はリンゴからすっとんきょうな声が上がった。いつの間にか、リンゴに向けているマルーの視線が熱くなっていた。

「えっと。どうしたの、マルー?」

「リンゴだったらさ。嘘ついたって知ったら、怒る?」

「……どうして急にそんなことを聞くのよ」

「リンゴだったらどう思うかな、って」

「……そうね。あたしは……怒る、かしら。でも分からないわ。そんな目に合ったことないもの」

というリンゴの意見を聞いたマルーは、考える銅像に逆戻りする。

「――うん。そっか、ありがとう。 じゃっ、私もう寝るね!」

「えっちょっと!」

おやすみ! と言うなり、マルーはベッドへまっしぐら。掛け布団を被って目を閉じてしまった。

「何だったのかしら、一体」

何事も無かったかのように静まり返る寝室。
気が付けば、マルーが来る前までの話し相手だったリュウも眠りについている。


「あたしも寝ようかしら」

そう思うと自然とあくびが出てくる。
最初に腰掛けたベッドへ入ったリンゴは、穏やかな船の揺らめきに身を預けるのだった。









ブログ村にてランキング参加中!

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

にほんブログ村 トラコミュ
創作広場-Endless*Stories-
オリジナル小説発表


nextprev 



アースの風の戦士たち。 Flag:5
Episode165 Flag:5-4

message bookmark!



contents
アースの風の戦士たち。 Flag:0(10)
アースの風の戦士たち。 Flag:1(19)
アースの風の戦士たち。 Flag:2(34)
アースの風の戦士たち。 Flag:3(36)
アースの風の戦士たち。 Flag:4(29)
アースの風の戦士たち。 Flag:5(5)
きゃらくたー絵。(0)
そのた。(3)

URL





TOP PAGE




-エムブロ-