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「今日はごちそうだ! 皆! 思いっきり食うぞー!」 太陽はすっかり沈み、満天の星が船を照らす頃。スカーレットの言葉を合図に船上の宴が始まった。 航海中に倒したイカだいおうをふんだんに、前菜からメインにまでぎっしり盛り付けられている。男達はそれらを肴に杯を交わしていた。 一方、マルー達は、スカーレットと穏やかな食事を共にしていた。 「煮ても、焼いても、揚げても! 茹でてもサラダ仕立てにしても美味しいだなんて!」 「どの料理も……良いですね」 「リンゴもアスカも満足みたいだね――マルーはどうかな?」 「はい! とっても美味しくて、全部食べられちゃいそうです!」 「おっ、嬉しいことを言うねー! お前ら! 料理はぜーんぶ旨いってさ!」 スカーレットが、杯を交わしている男達に呼び掛けると、彼らは全員、杯を掲げる形で応えてくれた。 「この料理、まさかあの人達皆で作ったってわけ!?」 「そうそう。あいつらは――ただ暑苦しいってだけの連中じゃない。料理の腕も確かなのさ」 「おいおいスカーレットさん!」 「そういう言い方はやめていただきたい……」 「困るんだよお!」 「あ、船で最初に会った――この人達も料理を作ったんですか?」 スカーレットが、もちろん、と答えると、腕っぷしの良い男三人組がはにかむ。それを見たマルーは、目を輝かせながら真っ先に三人組の元へ。 「ありがとうございます! 私、嬉しいです! こんなに美味しい料理が食べられるなんて!」 「そいつは良かったぜ!」 「作った甲斐があったな……」 「こっちも嬉しいよお!」 そうしてマルーと三人組は握手を交わす。 「だが、生憎、君に用はねぇのさ」 「我々は、そこの見事なブレード使いと話がしたい……」 「どいてくれよお!」 三人組はマルーを振り払い、食事をたしなんでいるアスカに近付いた。 「なあ嬢ちゃん! さっきの双剣さばき、見事だった! 名前を教えてくれよ!」 三人組の一人が、アスカの手を無理矢理握った。唐突の行動に驚いているのか、アスカは目を見開いたまま動かない。 「相変わらずしつこいわね! 困ってるじゃない!」 「だからガキに用はないと言っただろう……」 「お前こそ、毎回毎回生意気なんだよお!」 「なっ、なんですってぇ!?」 「まあまあリンゴ落ち着いて! ただアスカと話がしたいだけみたいだからさ」 「ほう? 嬢ちゃんはアスカというのか……」 「あっ!」 「もうマルーったら! どうして名前言っちゃうのよ!」 「ついうっかり……ごめん、アスカ」 「いいえ。お気になさらず」 マルー達が会話をしている間に、アスカの手を取った男は他の二人の元へ戻っていた。そして今、彼らはひそひそと話し合っている。 「あの人達、急にどうしたのかな?」 「アスカ、やっぱりあの人達に何かしたんじゃないの?」 「いいえ、私は何も。あの方々とは初対面ですし」 「そう……、また来たわよ」 再び、三人組の一人がアスカに近付くや否や、なあ、と切り出してきた。 「間違っていたら悪いが――嬢ちゃん、過去に闘技場を制覇したことはねぇか?」 「闘技場を制覇……ってまさか! スカーレットさんがお昼に言っていた――」 「人違いです。そんな所、行くわけないじゃないですか」 ぴしゃりと言い放ったアスカは席を立ち、その場を去ってゆく。 「ちょっとアスカ! ――マルー、この場はお願い!」 「えっ!? ま、待ってよリンゴ!」 アスカと同じ方向へ駆けていったリンゴを、マルーが追いかけようとしたその時だった。 「俺の目に、狂いはないはずだよな?」 「当然だ。あの時の刃さばきは……」 「間違いないんだよお!」 男三人組の話し声が、マルーの後ろ髪を引いた。 悔しそうに語っている、男三人組。 男達が探している人は、彼らにとってはどうしても会いたい人なのだろう。その、会いたい人かもしれない人に「違う」と言われて立ち去られただけじゃあ――もし自分がこの人達と同じ立場だったら、簡単に諦められないはずだ。 「あの!」 マルーが意を決して口を開いた。 「そんなにそっくりなんですか? アスカと、皆さんが探している人は。……」 ─━─━─━─━─ 一方、リンゴは。 「待ちなさいよアスカー!」 マルーがいる食堂の真下――この船の下層部は、中央に廊下が延びている。リンゴはその廊下を、アスカを追いかけながら歩いていた。 「怒るのは分かるわよ! けど、あんな去り方をしなくても――ねえ!」 リンゴはアスカに呼び掛け続けるも、反応を得られないまま。 やがてアスカはとある扉を開き、その先へ姿を消す。リンゴもそれに続いた。 扉の先では、ベッドがところ狭しと並んでいた――どうやらここは、乗客共用の寝室の様子。アスカは、この部屋の一番奥にあるベッドへ潜り込んでいった。 「ねぇアスカー? 一旦そこから出てきてもらえる?」 「……」 「少しだけで良いのよ。出てきてもらえないかしら」 「……」 「……もう。なんて頑固なの」 口を利かないアスカを諦めたのか、リンゴも、とあるベッドに腰を下ろす。 「この船に乗った時みたいな丁寧な言い方をすれば良いのよ。なのに、どうしてあんなトゲのある言い方になっちゃったのかしら」 盛大に溜め息をついたリンゴはベッドに寝転がったその時。 「あ、やっぱりリンゴだー」 そうして突如顔を覗き込まれ、彼女は飛び起きた。 「――びっくりするじゃない、リュウ」 「ごめんー。でも、気になったからー」 「そう? ……だったら! あたしの話を聞いてもらおうかしら」 これをリュウが快諾すると、リンゴの向かい側にあるベッドに腰をかけ、食堂での出来事について語った。 「そっかー。人違いされて怒ったんだねー」 「そうなの。でも普通だったら、人違いですー、気を付けてくださいー、だけで済むはずじゃない? なのにどうしてあんなに怒ったのか、あたしにはよく分からないのよ」 「確かに、それは聞いてみないと分からないねー」 「そうでしょう? だけどほら。あの通り、布団にくるまっちゃって」 リンゴが指差した先――ぽつりと出来たかけ布団の山を、リュウは発見した。 「……寝ちゃったんじゃないー?」 「いいえ、あれは寝たフリよ間違いないわ。でも、今呼び掛けても反応しないでしょうね」 「じゃあ、朝になるまで待とうよー。朝になったら、どんな人でも起きるでしょー? アスカだって、きっとそうだよー」 「……それもそうね。ありがとうリュウ。あたし、アスカが起きるまで待ってみるわ」 それが良いよ、とリュウは頷いた。 「ところであんた、いつからこの部屋にいたの?」 「ずーっと前からいたよ。船に酔ってキモチワルイ、ってケンが言っているから――」 「なんですって?」 リンゴはベッドから腰を上げた。 辺りを見回すと、そう遠くない位置に一つ、布団で出来た山を発見した。 「――イカだいおうが襲いかかって来た時も見かけなかったし、倒したそれを運ぶ時も見かけなかったし……可笑しいと思ってたのよ」 「イカだいおう、ってー?」 「ちょっと、そんな事も知らないの――!?」 リンゴが船上での出来事をリュウに語りつけている頃、寝室の扉が誰かに開けられた。その人は徐に、話を聞かされて萎縮するリュウと、頬を膨らませたリンゴの横を通り過ぎる。 そしてその人は、適当なベッドに腰を掛け、顎を拳に乗せた。 そんな――まるで有名な銅像のように座るその人が、リュウの目に映る。 「向こうで座っているの、マルーじゃなーい?」 「えっ――本当だわ! いつの間に戻ってたのね!」 「でも、あんまり元気じゃなさそうだよ――ああ。行っちゃった……」 「マルーごめん! 男の人達押し付けちゃって!」 「うん」 「変な事されてない?! 大丈夫?!」 「うん」 「……ちょっと。ちゃんと話聞いてる?」 「うん」 「聞いてるならちゃんと目を合わせなさい!」 リンゴがマルーの肩をがしと掴む! すっとんきょうな声を上げたマルーは、つり目気味のリンゴと目が合い、それから小さく謝った。 「自分の世界に閉じこもってる、って感じだったわよ。どうしたのよ、一体」 マルーはまた目をそらした。 目線は下向きで、口は詰むんだまま。何も話してくれない彼女に、リンゴは思い迷うしかなかった。のだが。 「……あのさ」 今度はリンゴからすっとんきょうな声が上がった。いつの間にか、リンゴに向けているマルーの視線が熱くなっていた。 「えっと。どうしたの、マルー?」 「リンゴだったらさ。嘘ついたって知ったら、怒る?」 「……どうして急にそんなことを聞くのよ」 「リンゴだったらどう思うかな、って」 「……そうね。あたしは……怒る、かしら。でも分からないわ。そんな目に合ったことないもの」 というリンゴの意見を聞いたマルーは、考える銅像に逆戻りする。 「――うん。そっか、ありがとう。 じゃっ、私もう寝るね!」 「えっちょっと!」 おやすみ! と言うなり、マルーはベッドへまっしぐら。掛け布団を被って目を閉じてしまった。 「何だったのかしら、一体」 何事も無かったかのように静まり返る寝室。 気が付けば、マルーが来る前までの話し相手だったリュウも眠りについている。 「あたしも寝ようかしら」 そう思うと自然とあくびが出てくる。 最初に腰掛けたベッドへ入ったリンゴは、穏やかな船の揺らめきに身を預けるのだった。 |
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