誰得? 我得!
From heaven to hell(テルノエ・ノエル誕生日話) 12月26日 23:09

<前書き>
※パラレル設定(CPのクローバー家ルート的な感じ)
※3人娘は高校生
※ノエルとラグナは実の兄妹、かつラグナは普通に社会人
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夕暮れの中、3人の少女が歩いている。
「ツバキ、マコト、今日は本当にありがとう!」
「どういたしましてー! こっちも楽しかったよ、ノエるん」
「ノエルの誕生日なんだから、思い切りお祝いしたかったのよ」
今年はノエルの誕生日がちょうど土曜日だったので、朝から遊びに出かけていたのだった。
「明日は日曜だし、本当ならもう少し遅くまでいたかったけどさ…」
「ごめんね、夜までには戻らないといけないから」
ツバキとマコトが、揃って残念そうな顔になる。
「しょうがないよ、今日はクリスマスなんだし。2人とも、家で過ごすんでしょ?」
ツバキは貴族の令嬢であり、この日は親戚一同を集めてパーティーを開くのが慣例となっていた。
一方マコトの家は大家族であり、大勢の弟妹と過ごすのがこれまた恒例行事になっていた。
「良かったら、うちに来てもいいんだよ?」
「駄目だよ、家族水入らずを邪魔なんて出来ないし。うちも兄様がいるから!」
「でもノエルのお兄様、遅くまでお仕事なんでしょう?」
「う…本当に大丈夫だよ!」
明るく笑うノエルだが、親友2人は流石に彼女が無理していると見抜いていた。
「やっぱり私、お父様にお願いして…」
「! 2人とも、静かに」
「どうしたの、マコト?」
「あそこに…何かいる」
マコトが指差した茂みから、ガサガサと音がする。
「犬か猫…かな?」
訝しむ3人。固唾を飲んで見守っていると、何かが飛び出してきた。
「うわっ、何!?」
それは、人間の赤ん坊程の大きさの生物だった。見た目は緑がかった黒い人形のようで、赤い口が三日月のように開いている。左目に当たる部分と、胸に浮き出た骨のように見える部分は緑色に光っていた。
「何だろ、この子…」
「見たことのない生き物ね…」
謎の生物は、短い足をちょこちょこと動かしノエルの方へ歩いて行く。
「え? 私!?」
ノエルの前にたどり着くと、短い手を万歳のように上下させる。
「この子、ノエルに甘えてるのかな?」
「ん…」
しばし考え込んでいたノエルだが、思い切って両手を差し出すと、謎の生物は腕の中に飛び込んできた。
「んしょ…っ」
抱き上げてみる。
「んー、そんなに重くない、かな? すべすべしてて、ちょっと触り心地いいかも」
「えー、あたしも触りたーい!」
手を伸ばすマコトだが、謎の生物は威嚇するかのように手を振り回す。
「ノエルにしか懐いてないのね。…どうするの、その子?」
「うん…連れて帰ろうと思う」
『ええっ!?』
驚く2人。
「この子がいれば、兄様が遅くても1人じゃないし。それに、何か可愛いし」
「そうかなー?」
「でも大丈夫? 本当に1人で面倒見られる?」
「ツバキお母さんみたーい」
茶化すマコトをツバキがこらっ、と叱る。自信なさげなノエルだったが、謎の生物が腕の中で大人しくしているのを見て
「大丈夫、この子は私が守るから」
静かに、だが力強く答えたのだった。
「そっか。じゃあ任せるよ、この…なんて呼べばいいのかな?」
「そうね…昔読んだおとぎ話で、これに似た生き物が『スダマ』と呼ばれていたわ。自然に宿る精霊なんですって」
「じゃあ、スダマちゃんで!」
ノエルの同意により、謎の生物はスダマと名付けられた。
 
「ただいまー」
2人と別れ、帰宅したノエル。テーブルの上には兄の作ったクリスマス料理と、一通の手紙。
「ケーキは冷蔵庫の中だから、半分位残しといてくれよ。あと、誕生日おめでとう、ノエル」
「もう、兄様ったら…1人で半分も食べられないよ…」
そう言いながらもノエルが顔を綻ばせていると、スダマが彼女の手をぺちぺちと叩く。
「ごめんね、忘れてたんじゃないよ。ごはん…はちょっと早いかな。そうだ、お風呂に入れてあげるね!」
濡れてもいい服に着替え、スダマの体を洗う。
「んー、スダマちゃんって男の子? それとも女の子? 鳴き声は男の子っぽいけど…」
洗うついでに見てみたが、いまいちよくわからない。そういう生き物なのだろうと、深く考えない事にした。
お風呂の後は早めの夕食。スダマは短い手で器用に箸を使い食べている。好き嫌いはなさそうだ。
「ケーキも食べるかな?」
小さく切って差し出すと、もぐもぐと美味しそうに食べる。結局、2人?で半分を食べてしまった。
片付けた後スダマをソファーに座らせ、ノエルもお風呂に入る。
「いいお風呂だった…ってあれ、スダマちゃん?」
スダマがいない。血相を変えて探し回っていると、とてとてと歩いてくる姿が目に入った。思わずぎゅっと抱き締める。
「もう…心配したんだよ! 勝手にいなくなっちゃ駄目だよ!!」
その後は一緒にテレビを見たり、友人達や兄からのプレゼントを確認したり…とまったり過ごしていた。無論、携帯電話でスダマを撮影する事も忘れない。
「いっぱい撮れたし、後でツバキ達に送ろうっと」
ふと、まだ戻らない兄の事を考える。この生き物を飼いたい、と言ったら反対するだろうか。
「…もう遅いし、明日言おう。寝ようか、スダマちゃん」
スダマを抱いてベッドに潜り込む。
「あのね、スダマちゃん。ツバキ達には言えなかったけど、本当は1人になるの、怖かったんだ…最近ちょっと、変な人に絡まれるようになったから」
思わずスダマを抱く力が強くなる。
「ユウキ=テルミって人。私の事を知ってるみたい、なんだけど…」
実はノエルには、ここ数年より前の記憶がない。兄と一緒に暮らす前に何かあったらしいのだが、その時は兄とは別に暮らしていたようで、詳細はよくわからないと聞いていた。
「だけど私が尋ねても何も教えてくれなくて、いつも人を馬鹿にして…! あんなに口も性格も悪い人、見た事ない!!」
これまでのやり取りを色々と思い出し、声を荒げるノエル。スダマがびくり、と身を震わせた。
「ああ…ごめんね怒鳴っちゃって。スダマちゃんがいるから、もう大丈夫!」
にっこりと笑いかける。そしてスダマを抱え直すと、今度こそ眠りについたのだった…。
 
(ん…)
朝が来たというのに、ノエルの頭は半分寝たままだった。無意識に腕の中のスダマを抱き締めると、顎の辺りにくすぐったさを感じた。
(あれ…スダマちゃん、髪が生えてる?)
急に意識がはっきりする。一晩で髪が生えるはずがない。つまり…隣にいるのはスダマではない。
(誰!?)
目を開けるのが怖かったが、いつまでも寝ているわけにいかない。仕方なく、恐る恐る目を開けた。
「…すぅ…」
いつもかぶっている黄色いフードがめくれて、逆立つ緑の髪がノエルの顎を掠めている。…ユウキ=テルミが、そこにいた。
「嫌ぁぁぁぁぁ!!」
反射的に突き飛ばしてしまい、テルミがベッドから転がり落ちる。床に叩きつけられた後、かすかに呻き声が聞こえた。ノエルはおもむろに自分の頬をつねる。痛い。
「どうしよう、夢じゃない」
「言いてぇ事はそれだけか?」
立ち上がったテルミが、かぶり直したフードの陰からノエルを睨む。ノエルも負けじと相手を睨み返した。
「テルミ、何で貴方がここに…スダマちゃんをどこに隠したんですか! 返しなさいこの卑怯者」
「あ?」
一瞬眉をひそめるテルミだが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべる。ノエルの椅子を勝手にベッドに近づけ、背もたれを抱え込むようにして腰掛けると、ノエルの顔を真正面から覗き込む。
「テメェまだわかんねぇのかよ、ほんと鈍い女だな…あれは、俺だ」
「は…? そ、そんな事言って、私が騙されると思ったんですか!?」
驚きはしたものの、疑わしげな表情を崩さないノエル。テルミはわざとらしくため息をつく。
「お前、俺が男か女か知りたがってたよなぁ。何なら、今確かめてみるか?」
既に半分ボタンが外れた己のシャツに手をかける。ノエルは慌てて顔を背け、バタバタと手を振った。
「ちょ、やめてください! もう今充分わかりました…か…ら…」
言いながら、ノエルの顔が青ざめていく。「男か女かわからない」とは、自分が「スダマ」に話しかけた言葉だ。
「あと、誰が口も性格も悪いって? テメェも抜かすようになったじゃねぇか」
「…本当に、貴方だったんですね」
認めたくはないが、言ってる事がこうまで一致していれば認めざるを得ない。
「だったら…もう1度、あの姿になってみてくださいよ!」
「…無理だ」
「なぜです?」
それまで気色ばんでいたテルミが、急に静かになった。顔を背けると、
「おかしな野郎におかしな技使われて、気づいたらああなってたんだよ…」
珍しくきまり悪げに答える。
「どうしようかと思ってたら、都合良くテメェらが来たんでな」
「それで私にすがりついた、と? 案外プライドないんですね。貴方なら1人でサバイバルでも何でも出来るでしょうに」
「あぁ!?」
テルミの声に怒りがこもるが、ノエルは気にした様子もなく、携帯電話の画像を突き付ける。
「昨夜の貴方の姿です」
そこには「スダマ」が歩いたり、食事をしたり、ノエルに抱っこされて大人しくしている姿などが余すところなく撮影されていた。
「良く撮れてんじゃねぇか…」
苦々しげに呟くテルミ。逆にノエルはどこか自慢気だ。
「見て下さい、このプリティーな仕草と愛くるしい姿。とても貴方のものとは思えない…詐欺ですよ。通販だったら返却されますね」
「おい…」
「どこから見ても立派なペットでしたよ。可愛い子ぶっちゃって…恥ずかしくなかったんですか?」
「テメェ…!」
携帯電話を奪い取ろうとする手を、何とか避ける。
「壊しても無駄ですよ、もう友達に送っちゃいましたから」
冷静さを保ちながらも、心の中は「言ってやった!」感でいっぱいのノエル。だから
「ペット、ねぇ…」
と呟くテルミの不穏な様子にも気付かず、勝ち誇った気持ちで携帯電話をしまおうとしたのだろう。その隙を見逃すテルミではなかった。
「!?」
いきなり体ごとぶつかられて、ベッドに倒れ込む。どうなったかが理解出来ず目を開けると、自分に覆い被さっている男がにたり、と笑っていた。
「え…な、何?」
「ペットはペットらしく、飼い主様に甘えてみようと思ってなぁ」
「ひっ!」
顔を近づけられ、思わず目を反らす。
「何だよ何だよ、昨夜みたいに抱いてくれねぇのか?」
「変な言い方しないで下さい!」
押しのけようと必死にもがくが、巧みに体重をかけているのかびくともしない。
「あ? 事実だろうが。人の体散々弄くり回して、1人で寂しいからって添い寝までさせやがった癖に。一夜を共にしたってのに冷たくないですかー、ご主人様ぁ?」
「だから…いやらしい言い方、しないで…」
恐怖と恥辱で目を潤ませる。そんな彼女の髪や頬を、男の手が無遠慮に撫で回す。
「っ…いや…」
まともに声が出ず、体も動かない。「ペット」だと思っていたのは猛獣で、それに今から食い殺される…そんな気分だった。
「さっきの事だがな、別にテメェにすがりついたわけじゃねぇぞ。…昨日、誕生日だったんだろ?」
「は?」
予想外の言葉に、目をぱちくりさせる。
「そ、それがどうしたんですか? 祝ってやった、とでも言いたいんですか?」
「そうだ、って言ったらどうすんだ?」
頭の中が真っ白になる。口をぱくぱくさせるが言葉が出ない。
「生憎やれるもんはねぇけどな。何なら靴下の中にでも入っときゃ良かったか?」
「それ…1日遅いですよ…」
どうにか反論?するが、頭の中は彼の言葉に対する疑問ばかり。
(なんでそんな事言うの? 本気なの?…ううん、きっと本気にしたら嘲笑うんだ、いつもみたいに)
「ノエル」
「はい!?」
いきなり名前を呼ばれ、つい裏返った声になってしまった。
「お前言ってたよなぁ、勝手にいなくなるなって。側にいて欲しいんだろ? 俺に」
いつもの意地悪な笑顔じゃなく、真面目な顔でそう言われ、
「あ…わたしは…」
どう答えればいいのかわからない。側にいて欲しかったのはあの可愛い謎の生物であって、目の前の男ではないはずなのに。
「どーした、ノエル〜? また虫でも出たのかぁ〜?」
突然、寝起きらしい間延びした声が割り込んできた。思わず2人は固まってしまう。
「に、兄様?」
「ちっ…目ぇ覚ましやがったか、シスコン野郎が。ま、あんだけぎゃあぎゃあわめきゃ気づくか」
テルミは舌打ちし、身を起こすと素早く窓に駆け寄る。
「あ、ちょっと!?」
「あいつに見つかると面倒くせぇから帰るわ。…また来てやるからそんな顔すんな」
言うなり窓を開けると、そのまま飛び降りた。
「そんな顔って…えええっ!?」
ノエルも慌てて窓に近づく。危なげなく着地したテルミが、どこかへ走っていくのが見えた。
「ここ、2階なのに…」
つい感心してしまう。その時、部屋のドアが開いた。
「ノエル〜虫どこだ?」
右手に殺虫剤、左手に丸めた新聞紙を持ったラグナが、寝ぼけ眼で室内を見回している。
「ちょっと、いきなり入らないで!」
「あ〜悪りぃ、お前の悲鳴が聞こえた気がしてよ…夢だったのか?」
反応が薄いのは、ぐっすり寝入っていたためだろう。そんな中、自分の危機を察して飛び起きてくれた…それに気づき、ノエルは申し訳ない気持ちになった。
「そう、虫、虫が出たの! でももう追い出したから…ごめんね起こしちゃって!」
感謝と気まずさを同時に感じつつ、まだ寝ぼけているラグナを部屋から追い出す。1人になると、途端に先程までの事を思い出してしまい、床にへなへなと崩れ落ちた。
(どうしよう…)
いくら可愛い姿になっていたとはいえ、自分はあの男と…。
(抱っこしたり、ごはん食べたり、お風呂…は一緒じゃなかったけど。あと、一緒に寝、寝たり…)
クッションに顔を埋め、言葉にならない声を漏らす。
(それだけじゃなくて、さっきまで…!)
真っ赤になって唸りながら床を転げ回る。もしラグナが来てくれなかったら、自分はどうなっていたのだろう。否、どうしていたのだろう。
(何なら靴下の中にでも入っときゃ良かったか?)
(…また来てやるからそんな顔すんな)
「そんなプレゼントいりません! あともう来なくていいです!!」
ラグナに聞こえないよう、クッションに顔を押し付けて叫ぶノエルであった。
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