了平と花


どうして彼女は一人泣いているのだろう。
昼休みに両親が出かけているのに鍵を忘れた京子と一緒に帰る約束をした。部活で遅くなるから他で時間を潰しているか鍵を渡そうとしたのだが断られたので教室に迎えに行くことにしていた。しかし部活を終えて妹の教室に来てみれば妹の姿は無く、他の者も帰ったがらんとした空間の中、妹の友人が肩をしゃくり上げて泣いていた。橙色から藍色に変わり始めた日差しで教室の中は薄暗くなってきているが、後姿の彼女が泣いているのだけは分かった。まさかこのまま見なかったふりをして帰るわけにもいかず、迷っていると人の気配を感じたのか彼女が振り向いた。彼女は驚いた様子で目を瞠り「京子のお兄さん」「京子なら今ちょっと職員室に行ってます」途切れ途切れの言葉を拾うとそんなことを言った。「そうか」と短く返事を返し、机の上にはたはたと落ちる雫を見つめながら一体何がそんなに彼女を泣かせるのだろうかと考える。悲しいことでもあったのだろうか。泣きやんでくれなんて今の彼女に言うことは酷だった。どうしたものかとポケットに手を突っ込むとハンカチに触れた。丁寧にアイロンがけされていたそれはポケットの中で多少の皺が寄ってはいたが、ぐしゃぐしゃと言うほどではない。そういえば、とこのハンカチをくれたルッスーリアが言っていたことを思い出す。泣いている女の子を放っておく男の子なんて最低なのよ。しかしどうしたらいいものか。取り出したハンカチを見つめ考えること数秒。


「ほら、これを使え」


彼女の目の前にハンカチを差し出す。それを涙目で確認した彼女は先程よりも大きく目を瞠った。押しつけるように渡したハンカチで目元を拭う。


「やだ、京子のお兄さんてそういうこと出来る人だったんだ」

有難う。洗って返しますね。掠れた声で告げられた礼よりも先程までの涙は何処に行ったのか眼と縁を赤くしてそれでも和やかに笑う彼女に目を奪われた。


 い目に、







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