ベル

 

標的を始末している時、ひとりで食事をしている時、ヴァリアーの幹部が集まった時、暇を潰している時、つまりは四六時中、今まで側にいた奴がいないことを実感させられて、退廃的な感情に浸る。濡れた紙に染みて広がっていくインクみたいに、じわじわと何かが俺を侵食していく。たったひとり、小柄な同僚がいないだけだというのに。それだけで全てがくだらなく感じるなんて考えたこともなかったというのに。


「いなくなって気付くってよくあるっていうけど」


「こーゆーのは卑怯じゃんね」


つまらない。くだらない。あいつの居ない世界なんて意味がないから地球上に生きるものすべて淘汰してしまおうか。なにもかも。すべてぶっ壊せばこんな気持ちなくなるんじゃねぇかな、とか。


「くだらないこと考えないように仕事くれない?ボス」


片手出して努めて軽い調子で頼めばボスは書類の束から何枚か引き抜いてこちらに寄越した。ざっと目を通せばそれなりに楽しめそうな標的の情報がそこにのっている。「今はまだ馬鹿な真似はするなよ」ざらついた声に含まれた僅かな気遣いに片眉が跳ね上がってしまったけど長すぎる前髪で隠れて誰も気づきはしなかっただろう。いつもは他人の事なんか目も向けずに暴虐の限りを尽くす癖に時々勘の良すぎるボスがちょっとだけ嫌いだ。

 


(未来編ベル→マーモン)







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