幻騎士とブルーベル


意識を回復して一番初めに飛び込んできたものは白塗りの天井だった。体を起こそうとして全身を襲った痛みに歯噛みする。腕の皮を繋いだ縫い目と変色した皮膚が視界に入り、沢田綱吉達との戦闘を思い返し心中で舌打ちをした。半身を起こし痺れた両手を曲げ伸ばししてみたところ痛みを無視すれば動けないことはないようだ。白蘭様に挨拶にいかねばとベッドから足を下ろそうとして、掛布団の上に丸まって眠っている存在に気づいた。長い髪の少女が膝を抱えて眠っている。白い掛布団の上にターコイズブルーの波紋が緩やかに広がっているそれは南の海のような美しさ。穏やかで規則正しい呼吸音から眠っていることは明白だった。しかし何故真六弔花のひとりであるこの少女が自分の上で眠っているのか。襲ってきた頭痛に耐える為に額に手を添えると、少女の長い睫がふるりと震え、二度三度と瞬いた。髪と同色の大きな瞳がこちらを捉えるや否や、勢いよく身を起こし馬乗りになって顔を近づけられる。離れようとするも背後は天井と同じ白塗りの壁で逃げることは出来ず、それでも最大限離れようと努力をするも虚しく、少女は包帯の巻かれた腹に両手を乗せ迫る。「やっと目を覚ましたのね」縫い目に這わされた指にぐっ、と力を込められ眼前にちかちかと星がちらつくが痛みを殺して「あぁ」と答えた。「なにそれ、つまんない」受け答えが気に食わなかったらしい少女は更に傷口に乗せた手に体重をかけ雄弁に語る。「どこまで記憶残ってるの?」「白蘭はメローネ基地をふっ飛ばしたの知ってる?」「ボンゴレを潰しにいくんだって」「ブラックスペルの人も役に立たないよね」「あ、そういえばメローネ基地にはアフェランドラ隊がいたけどあのおちびちゃん元気かな」言葉の端々にこもる悪意、自分の幼さを棚に上げて古傷を抉ろうとする少女の言葉の嵐にも今はただ耐えるほかない。反論しない自分に少女は眉を吊り上げ、ぶぅと頬を膨らませて怒る。左胸の傷にとん、と丸めた拳を乗せ「使えない駒は白蘭だっていらないよ」とわらった。そんなことは誰よりも自分が知っている。ぎり、と歯を食い縛って耐えると少女は漸く満足したようにベッドから飛び降りた。




目指した幸せには何かが足りなかった







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