忘れたい思い出を記憶する馬鹿な頭(佐久源)
「そういえば明日だったっけ。お前の誕生日」
部室でユニフォームに腕を通しながら呟くと、源田がぱっと顔を上げた。
「覚えていてくれたのか……?」
「……合ってたのか」
それは残念、と大袈裟に肩を落としてみせる。
実は普段使っている手帳にも、部屋のカレンダーにだってチェック済みなわけだが、言えるはずがない。
理由としては、照れと意地っ張りと……間違っていたらどうしようなんていう少しの不安。
一応、今現在俺の恋人はこの男だから、祝ってやらないといけない。
そう考えてみたものの、いざ書こうとしたときになかなか思い出せなくて困ったことは秘密だ。
(ちなみに鬼道さんのは花丸マークがついている。こちらは恋愛感情ではなく尊敬の意味で)
はあ、と溜め息をつき、源田のほうを見やると、至極楽しそうに俺の顔を覗きこんでいた。
「……何だ?」
「プレゼント、くれるのか?」
「いるって言うなら、考えてやらないこともない」
そう促してやれば、いる! と即答。
こんなに単純で大丈夫なのか。
帝国の参謀として心配になった。
「で、何が欲しいんだ?」
「佐久間」
どうやら聞き間違えたようだ。
俺はもう一度問いかけた。
「なんだって?」
「だから、佐久間だ」
やはり同じ言葉が返ってくる。
唖然とした俺に、源田は視線を彷徨わせながら話し始めた。
「お前の誕生日のとき、何がいいか訊いたら、俺って言われたから……その、仕返しだ」
だんだんと声が小さくなり、最終的に目の前にいる男は真っ赤になってしまった。
同時に、こっちまで顔が熱くなる。
そう、俺は自分の誕生日のとき、告白がわりに『源田』などと口走ったのだ。
あのときは人生初の告白に舞い上がって、後で思い出しては恥ずかしさで悶死しそうになって……!
「懐かしい、よな……」
「忘れろ!今すぐ、5秒以内に!!」
幸い俺たち二人しかここにいないから良かったが、誰かに聞かれたら冷やかされること間違いなしだ。
なんだか一気に気まずくなり、俺は口を噤んだ。
頭では気の利いた台詞でも言わないといけないと分かっているが、こういうときに限って出てこない。
そろそろ練習が始まるのに、と考えたところで、沈黙を破ったのは源田だった。
「やっぱり、駄目なのか……?」
「え……」
はっとして少し上の位置にある顔を見上げると、どことなくしょんぼりとしていて。
ぷちん。
俺の中で何かが切れた音がした。
「源田……お前、今日の練習休め」
「でも、鬼道に言っていないが……」
「鬼道さんには俺が伝える。だから、俺の部屋で待ってろ」
「ちょっと待て!」
佐久間! と焦ったように呼ぶ源田の声を無視し、俺は部室のドアを閉めた。
これは不可抗力だ。
決してずる休みではない。
グラウンドへ向かいながら、俺の唇は弧を描いていた。
確かに忘れたくなるほど恥ずかしい思い出だけれど、なんだかんだ言って、覚えていてくれたのは嬉しくて――。
これも惚れた弱味というものなら、仕方がないのかもしれない。
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FOG!様へ寄稿させて頂きました。
多分このあと二人の甘いひとときが繰り広げられるのでしょうね←
全体的に捏造ですみません/(^q^)\
最後まで見てくださり、ありがとうございました!!
Melt down/胡蝶愛華
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