三人で昼食を取りに向かうと、テーブルには既に食事が揃えられ、側にアネモネが待機していた。
「ハナ様がすぐに食べられるようにして欲しいとの申し出でしたので、数種先にご用意致しました」
「わーいアネモネのご飯だー!」
「お話を伺っていた料理、楽しみですわ」
楽しそうに会話している二人。此方の気も知らず、スプーン片手に得意げな妹に、苛立ち始めている自分がいる。いや、知る訳がないのだ。僕が王になる事は当然だと、何一つ疑っていないのだから。未だに王になれるか不安に思っているとは、夢にも思わないだろう。
ふと斜め向かい、ハナの隣に座っていたメルティと目が合った。いや、彼女が此方を見ている事に気付いた。変な顔をしていただろうか。バツが悪く誤魔化すように口角をあげる。
「シェフの料理はいかがだろうかメルティ」
「どれも素晴らしいお味ですわ。このスープなんて芯まで温まる美味しさで…」
「身に余るお言葉、光栄でございます」
場が和やかな雰囲気に包まれホッとしたが、自分はその中に入れていないと感じてしまった。これではいけない……席を立った。
「……すまない。確認しなければいけない用事を思い出した」
ハナとメルティ、控えていたポールまで分かりやすくえっと驚いた顔を見せる。アネモネも戸惑ったが、部屋にサンドイッチとスープをと頼むと、すぐ用意に取り掛かってくれた。
「本当にすまない、メルティ」
「いえ!私の事はお気になさらないで」
向けてくれた笑顔が寂しげに見えたのは、そうなら良いのに、という私の願望だろうか。
「ーーちょっと待ってよお兄様!」
食堂を後にするとすぐハナが追いかけて来た。呼び止められ最初気付かぬふりをしようかと思ったが……流石に大人気ないので渋々応じた。
「なんだ」
「折角メルティ来てくれたのに、態度変!だいたい普段仕事の確認とかちゃちゃっと済ませて食事切り上げるような事なんてしないじゃん!」
「……たまたまだ」
勿論それで納得するハナではない。
「ウソ!誤魔化さないでちゃんと言ったら!?」
……うるさい
「確かに黙ってメルティを連れて来ちゃったけど、でもそれはお兄様が喜ぶと思ったからよ!」
うるさい
「そんな調子で立派な王様に」
「うるさい!!お前に僕の気持ちが分かってたまるものか!!」
思わず口を覆った。でも、突いて出た言葉を無かった事には出来ない。大きな瞳を一際見開いて口をパクパクとさせる妹をその場に残し、逃げ出してしまった。
最低だ。最悪だ。これまで叱りつける事はあれど、感情に任せて怒りをぶつける事はしないよう心掛けてきたのに。