Rainbow



2017.3.26 Sun 10:11 :小説(サンゾロ)
護傷(サンゾロ)


黙ってやがって。
そんなに、誰かに弱みを見せたくないのか、このバカは。

知らず、口の中で舌打ちしていたサンジは。

ゾロの頭を、小突いていた。



正午前。

「2時の方向に海賊船!戦闘態勢に入ってて、大砲の準備をしてる!まだ届かねえが、近くなってる!!人数は50超え!!」

見張り台から聞こえる、敵の知らせ。
昼寝をしていたクルー達は一斉に起き上がり、2時の方向を向くと。

まだ、遠いながらも威嚇か狙ってか…大砲を撃って来ている船を発見する。

「ふあー…てきしゅうかー?」

一番に起きたのは、船の船長。
次々にクルーも起きて来て。

「あら…ひどい無駄撃ちね…あんな事したら、ナミは叱りとばすわよ?ふふっ、油断しなければ大丈夫そうよ」

ロビンは瞬時に相手の力を読み取り。

「相手の人数は多いから、こっちに寄せない様にして!サンジくんとルフィであっちの船に向かって!ゾロとフランキーはこっちの防衛よ!ウソップ、大砲準備!チョッパーは舵を!私とロビンで進路の指示を出すわ!」
「了解〜」
「シャキッとしなさい!」

ナミが、怠け気味のクルーを叱り飛ばし…先程自分が指示した通りに動き始める。

「しっしっし、サンジ。人数は?」
「確かに、50超えだな。しっかし…ちょっとだけ強いのも多いな。船に行かせない様にやろう」
「そうだなぁ!ま、ゾロもいるし少しなら平気だろ?少しもたおしそこねるつもりはねえけどな!」

ルフィとサンジはそう話しながら…敵船へと乗り込んだ。

同時だった。

それが、サニー号に乗り込んだのは。



「ナミ!避けろ!」

フランキーが叫んだと同時だった。
鉄棒(かなぼう)がナミを襲うのと。

「しまっ…!」

ナミが衝撃に身構える。
ロビンがそれに気が付き、鉄棒を持つ男を止めようとしたが、間に合わない。

頭だけは、護ろうと。
ナミは自身の武器で受けようとして。

ドゴッ!

凄まじい音が、響いた。

しかし、ナミは衝撃を感じなかった。
いつの間にか、瞳を閉じていた事に気が付き、ナミが瞳を開けると。

いつの間にか、ゾロが鉄棒男と闘っていた。

ゾロが、受けてくれたのだろう。

「…助かったわ!ありがとう、ゾロ!」
「早く指示を出せ!俺でも分かる湿った風だぞ?!」
「ええ…!チョッパー!急いで取り舵!ルフィにサンジくん!!戻って来て!!ウソップは2人が戻る援護砲撃!フランキーは倒れてる其奴らをあっちに放って!!ブルックも出来たらお願い!」

ゾロに礼を言い…新たな指示を飛ばしながら、ナミは船の中央へ立つ。

闘いが終結する。

そう感じたゾロは、刀を腰の鞘に収めた。


……痛む肩に、目を瞑って。


同時に、凄まじい暴風雨が…相手の船を襲っていた。




快勝をした麦わらの一味は、闘いの後の食事をとった所。
ゾロは、先に部屋を出て…トレーニングルームへ向かった。

「ゾロ、行っちまったなぁ。もっと食えばいいのに」

未だに大量の食事をとっているルフィが、食事の合間に話す。
サンジは溜息を吐き。

「…チョッパー、30分したらトレーニングルームに来てくれ」
「ン?どうかしたのか??」
「念の為にな」

チョッパーにそう頼んだ後。
サンジはトレーニングルームへと足を運ぶ。

「…私が、片付けをするわ」
「んー?ナミがぁ?」
「私の責任だもの」

私が、敵を捌ききれなかったから。
ナミの瞳はそう語っていた。

そこに、ルフィが。

「ごめんな、俺がたすけに行けなくて」

と、言ってきた。
ナミは瞳を瞬かせ。

「何であんたが謝るのよ」

怪訝そうな目付きで問い掛けると。

「そりゃ、ナミの男だからな!ゾロのケガにかんしては、ゾロの男のサンジがなんとかするさ!」

やっぱり、怪我してるのね。
ぼーっと、そう考えていると。

「チョッパーまだ行くなよ?サンジが30分したらって言ってたんだからな!!」
「あぅ…わ、わかったよぉ〜…」

怪我と聞いて、いても立ってもいられなくなっているチョッパーに釘を刺していた。
こういう所は、船長なのだ。ルフィは。



「ハァ…ハァッ…ぅ…」

トレーニングルームに着くと同時に、ゾロは倒れ込んだ。
左肩が、凄まじい勢いで痛む。

「っ…ちっ…痛み、が…強くなって…来やがった…」

鉄棒で、勢いよく打たれた肩が、痛い。

そうなのだ。
ナミへの攻撃を、ゾロは自らの身体で…誰にも悟られぬように受けたのであった。

ナミは瞳を閉じて衝撃に備えていたから、見ていない。

ルフィもサンジも敵の船の中。

他のクルーも、自分自身の所で手一杯だった。

自分しか、自分の状況を知らない。

「…ふーっ、ふーっ…」

起き上がり、上がる息を抑えながら…前を見据える。
痛くはない。
精神を集中させろ。

誰にも悟られるな。

痛くない。
…痛くない。

そう言い聞かせて…瞳を閉じていたら。

「おーい、ゾロ」

恋人が、上がって来た。
ゾロの内眉が、中央に寄る。

「…何の用だ、グル眉」

出た言葉は、相手を遠ざける為の言葉。

「何の用だ、ねぇ…?」

サンジは、見て分かった。
痛みに耐えて、額に脂汗をかいていて。
呼吸も荒く、目の焦点も合っていないゾロの顔。

様々な考えが、頭を巡ったが。

「砕けたか?それとも、ヒビが?」

簡潔に、問う。
ゾロはその問い掛けに、バツが悪そうに視線を逸らす。

「別に…」
「どっちだ?てめえの食べ方見てヤバそうなのは分かってんだよ」

全く使わなかった左手。
それで、やはりサンジは分かってしまうのかと。
ゾロは苦笑した。

ならば、黙っていたら怒らせるだけだろうと。
そう思い…口を開く。

「砕けては、いない。でも、ヒビじゃ済まなそう…な、気がする…」

正直な感想。
数日放っておけば治るだろうと。
そう考えたので、おとなしくしていようと…ここまで来たのだ、ゾロは。

「チョッパーには」
「言わなくていい。安静にしてるから、すぐ治るだろ」

サンジの言葉を先取り、自身の感じた結論を言うと。

「誰かに弱みを見せるのが、嫌なのか?」

驚くべき事を言われた。
ゾロの口はポカーンと開き、何を言われたのか理解できていないようだ。

「何で、黙ってんだよ。ヒビじゃすまない怪我してて、何でチョッパーに言わない?」
「…寝てりゃ、治ると思った…から…」
「そんなんで治るなら、世界中から怪我なんざなくなるわ!!」
「いでっ」

頭をトンッと小突かれて、意図せず肩に力が入り…痛みを訴えるも。

「痛いなら、チョッパーに、ちゃんと診てもらえ」
「えええ…治るまで寝とくよ…鍛錬もしない。治るまでジッと」
「しとかねえだろお前。俺と同じでこれくらいなら動けるとかやるんだろうが」

図星だった。
何も言えずに黙っていると。

「なあ、頼むよ…みんな、心配してんだ」
「みんな…?」
「みんな、食事の時の不自然さを察してる。」

ゾロは唖然とした。
自分が、そんな失態を犯していたとは思わなかった。

「…」

どうするべきだろう。
分からず涙が出そうになる。

「ちゃんと、診てもらえ」
「…ダメか…?」
「診てもらわないと、ダメ」

ゾロの心細そうな声にサンジは苦笑して、やんわりと告げる。
と、同時に。

「ゾロ?サンジ??入るぞ」

ちょうどよく、チョッパーが顔を出した。
医療器具を片手に。

それを見て、ゾロは。

(…素直に、治療受けるか…)

観念した。


結局、ゾロの怪我はヒビ一歩手前の打撲で済んでいた。

それでも、チョッパーには厳重注意を言い渡され…鍛錬禁止と断言されて。

折れてないならいいだろー!とブーたれているゾロがいたとか、いないとか…。

真相を知っているのは、チョッパーと…その場にいたサンジのみ。



END



追記に後書あり



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