パンケーキ
盗まれた下着
2022.8.27
18:28
1週間の張り込み。
そして妹の引き出しや、ごみばこ、洗濯かご、タンス、部屋中の確認も忘れない。
俺は正義をなんとしても貫いて、喜んでもらうのである。
妹がいやがる理由は簡単、まだ結果が出ないからだ。
毎日続けるうちに俺は妹に詳しくなっていた。しかし、下着は戻らなかった。
それから。
「ねえ!! 近所のひとから、くすくす笑われたんだけど! お願いだから本当やめて! どうしたらその捜査やめるの?」
妹の反抗期が悪化しつつある。
正義を貫く兄を心配していることは明白だ。
危ないからやめて。
と、本当はけなげに訴えているのだろう。
昼、バイト後のイヨンに集まった俺と仲間たちは、そこで再び『どうしたら下着が戻ってくるのか』真剣に会議を開いた。
「いまのまま戻らないと、妹の反抗期が悪化してきてしまう」
「それはまずいっすね」
「はぁー、そんな大事な下着なんですかぁ」
休憩室の灰色のコンクリ壁を眺めながら、俺たちは、今も不安がって荒れている妹のことを想った。悪は許さない。正義は、必ずや我らの手に。
日課の張り込みを続けていると、ある日の夕方、おっさんがきょろきょろあたりを見渡しながら、家の窓際に近づくのが見えた。
あいつだな、ゆるさん!電柱の裏に隠れて家を見ていた俺たちは配置につく。
夜、部活帰りの妹が帰宅する頃には、俺たちは正義を遂行していた。
みんなで囲んで、取り返した戦利品を、妹に見せにいく。
「あ、はじめましてさとーです」
「もとやまでーす」
「やしだでーす」
玄関前でメンバーがそろい、挨拶する。
「……」
妹は、口を開けたままひきつった顔。
兄の手にした戦利品に、むしろ顔を青ざめさせている。
「真実から逃げるな。お前の履いていた下着は、これだよな?」
俺たちが取り囲み、妹が真実から逃げぬよう、目をそらせぬようにして聞く。
「ちがう……」
妹は『なぜか』否定した。
「ちがうよ!」
「嘘をつくんじゃない!!」
俺は、はっきりと、兄として叱った。
そうせねばならない。
「偽るな、自分を!」
「こ……こないで!」
「すまん、妹は、情緒不安定なんだ。礼を言いたいところだが……
こほん。妹の下着はこれです! 俺はいつも見ていた。確かにこれだ。な?」
感涙で言葉が出ない妹に代わり、俺はみんなの前に広げてみせた。
俺は、バイト仲間に謝った。みんな、いいよいいよと和やかに受け入れる。
「よかった、みつかって」「だなー。もう安心だぞ!」
周りがどう声をかけても、泣いているばかりだった。
妹はあれから。
塞ぎこみ、口を聞いてくれない。
ここまで傷つけた犯人は、なんとも許しがたい。
――完――
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