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僕の名前は羽村美玖。
僕と言っても女なんだけど…。
ちょっと特殊な環境のせいで僕の感性は人とは少し違う。
それを認識したのは高校生になってから。
「ねぇ、多和。アイツどうしてるの」
「部屋にいます」
「そう」
家と病院の往復をしていた僕にとって同年代の知り合いは数少ない。
旭はその中でも幼い頃からの知り合いだ。
親同士が仕事仲間で良く遊んだ。
「まだ落ちてるよね、行ってくる」
多和は旭の医者だ。
ただ、僕の主治医の知り合いでもあるので僕の病状についても知っている。
僕は部屋のドアを開けた。
いつものソファに旭はいる。
その姿を見て僕は溜息をついた。
「ホント、馬鹿でしょ」
床には薬の瓶が転がっている。
多分、この辺の薬は多和が栄養剤に変えているのではないだろうか。
じゃないと目の前の男はもう生きてなどいない。
僕は旭の頬に触れた。
「僕が死んだらお前はどうやって生きてくのさ」
僕の指が旭の頬から顎を撫でる。
「お前は生きなきゃダメだよ」
唇が触れそうな距離で囁く。
旭の眉毛がピクリと動いた。
音を立てないように僕は旭から離れて部屋を出る。
部屋の外にはまだ多和がいた。
少し安心したのか、急に咳が出る。
「ゴホッゴフッゲホケホ…」
「……」
そっと薬を渡された。
吸入タイプの物だ。
僕はすぐにそれを使った。
咳はすぐに治まる。
「やっぱり、あの部屋は僕の身体には毒だね」
「そうですか」
僕の身体は今日を生きているのすら奇跡。
いつどこで発作が起きて死んでもおかしくないんだ。
旭が僕を特別だと思っている事に気付いてから僕は旭に冷たく当たった。
僕が死んだら旭も死んでしまうのではないか、そう思ったから。
「強く生きてほしい」その一心で。
僕なんかで人生を狂わせないで。
「多和、相留をしっかり見てやってね」
多和は頷く。
僕はもう弱くないよ、1人でも大丈夫。
だから旭も僕がいなくても大丈夫だと笑って言って…。
***
幻影の愛を読んで書いてみた笑