秋も終わる頃、冬の訪れを感じさせるような肌寒さを、今日の雨は助長していた。木の葉も落ちきっていることもあり、なんだか秋の物悲しさが際立つようだ。外の薄暗さと教室の明るさが妙なコントラストをかもしだしていて、すこし落ち着かない。何も考えることもなく、かといって思考を停止させることも容易ではない。

つまらない、と机に肘をつけながら外を眺めていた。
先生方のありがたい授業を軽く聞き流しつつ、窓の外の変な線を見つめる。地味な傘をさして歩いている誰かと、うっすらと隈が出来ている青年が見える。そんな窓に映るの自分が何やら不満を言いたげな顔をしているが、無視してその奥を見ていると不意にポケットの携帯が震えた。

「お昼、一緒に食べよう。」

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その時間を終わらせる合図と共に室内がざわつく。進学校とはいっても、この時間に対する期待感は変わらない。弁当を一つの机に持ち寄ったり、小言を言いながら食堂に向かったりと、みんなが思い思いに行動している。そんななか、浅倉はといえば持参した弁当を片手に部屋を出る。ドアを引くと、雨の日だからか廊下にも人が多い。なんらかの方法で既に昼食をとった人たちだろうか。少し気になりながらも、目的地に向かう。

階段を昇るにつれ、人の声も小さくなってきた。交代するかのように単調な雨音が響く。
踊り場には窓があり、晴れている日は明るいのだが、もちろん今日はそんなことはなく、薄暗い。
肌寒さも相増してなんだか物悲しくて落ち着かない。

最上階から屋上への階段で、「進入禁止」と書かれた簡易スロープを跨ぎ、彼女の元へ向かう。

屋上手前のスペース。
壁に彼女は寄りかかって携帯をいじっていた。

「遅いですよ、浅倉さん」

ぱたん、と携帯を閉じ、少し不満そうな顔をしてこっちを向く。

「違うな、お前が早すぎるんだよ。もしくは急かしすぎてる。ってかどんだけ待ったんだよ」
「一時間」
「授業は?」
「休み」
「自主的な?」
「ざっつらいと」
「………」

こんなやり取りにも慣れてしまったのは、喜ばしいことでは決してないだろう。はぁ、とため息をついて、彼女のすぐ隣に座る。弁当の包みを開けていると、彼女も可愛らしい包みから弁当を取り出した。

「今日は、手作りか?」
「その通りです」
「母親の?」
「もちろん」

何故か自慢げに笑い、ふたを開けて、弁当の中身を見せつけるように膝の上に置いた。

「では、いただきましょうか」

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「寒いですね、今日」
「ああ」
「雨も降ってますもんね、今日」
「そうだな」
「寒くて、薄暗くて、人の声がなく静かだと、なんだか変な雰囲気ですよね」
「確かにな」

食後、弁当を食べ終え、何もすることがなく二人して窓の外を眺めていた。沈黙が続き、雨音だけが響く。単調で、断続的な、不思議な音だ。目をつむれば、あるいは何の音かわからなくなってしまいそうで、なんとなく不安にもなりそうだ。

「ちょっと失礼しますね」

如月がそう言うと、浅倉の膝の上に座る。少し驚いたがなされるがままにしていると、如月は背中を預け、目をつむり心地良さそうにする。どこかで聞いたことのある鼻唄を歌いながら、手を握ってきた。そのまま寝てしまうのではないだろうかと思うほどの顔に、ふと愛しさが零れる。




「浅倉さん」

「ん」

「なんか良いですね」

「…そうだな」




雨は当分止みそうにない。