「何故だ?」
「俺の思い通りにはなっててくれないからさ」
「…聞くのは悪いかもしれないが…お前の此処に来た理由は何だ?」
「ない」
「は?」
「俺は兄についてきただけだから。兄が案内してくれたし、入るのは楽だった。」
「じゃあどうしてこんなところに来た。」
「そろそろ夢から醒まさせないと兄が"人"として生活できないかもしれないから。」
「…依存…か…まるで麻薬だな。」
「夢と現実の境が反転し始めてきた頃に持ちかけた話だった。…でも…手遅れだった。やっと追いついて話をしたら、俺の記憶なんて一つもなかった。…アリスならどうやって説得する…?…俺は説明したよ。効果はなかったけどね。」
「もう記憶までなくしてしまったのか!?…帽子屋…お前も…苦労したんだな…底までしようとした兄者に忘れられてしまうとは…っ」

(俺にも記憶喪失の時期があった…けど…家族の顔と名前は覚えてたから…どれほど苦しかろう…)

アリスは俯いた。これ以上帽子屋の顔を見ていたら、涙が出るかもしれないと思ったからだ。

「俺は白兎を追いかけて此処まで来た。此処で一夜過ごした時に。考えたんだよ。"コレは本当に兄の為なのか"とか"それどころか兄の幸せを奪おうとしているんじゃないか"とか…"そもそも此処まで来て兄を連れ帰ろうなんて自己満足なんじゃないか"ってな。迷い始めてからは早くて、三月ウサギに止められなくても此処に居座っていただろう」
「三月ウサギが止めた?何故そんな事を三月ウサギがするんだ?」
「…一人で泣いてたんだよ。無視してやろうと思ったけど…昔の兄を思いだしたから中々離れられなかった。それから懐かれてね、今に至るんだよ。」
「…後悔は…?」
「ないって言いたい。けど今からなくなる。…押しつけるみたいで悪いけれど…」
「白兎を連れて来いってか?」
「…出来る?」
「……やってやるよ…!!食うのもペットにするのもやめた!…お前のバカな兄ちゃん引きずってでも夢から醒ましてやる!!」
「憎まれ役になるんだぞ?」
「親ってそーゆーもんだろ!?」
「いや、母じゃないでしょ;;」
「父だ!!」

「尚悪いだろ!!!」
「お前が此処までやってきたことは決して間違ってない。俺が保証する!だからお前は此処で茶でも飲んで待ってろ!!直ぐだからな!!」
「……ありがとう…」

泣きながらそう宣言したアリスに帽子屋は笑った。
アリスはこういう時には人が良すぎる。

「話は終わったか〜い?」
「うわっチェシャ猫!!!??」
「嗚呼、話して良かった。本当に…完全に狂う前に話せて良かったよ。」
「そりゃよかったな〜」
「…お前も…狂い始めてるのか?」
「今日はまだいい方だったからね。まぁ演技もあるけど。」
「…ホント大変だよな。」
「そろそろ慣れた。」
「おやおや〜?さっき会ったばっかりでもうそんなに仲良くなって〜。あ〜わかった!!お前ら出来てんだろ!!!」
「…先にコイツ始末していいかな帽子屋。」
「おk。眠りネズミも大喜びだな…俺も手伝うよ。」
「ちょっwじょ〜だん!!そ〜ゆ〜とこは仲良く無くていいでしょ〜が!!!」
「で?最後に言いたい言葉は」
「城に行くならこの時間からのがいいから呼びに来たんですけど〜…」
「嗚呼なんだそーゆーこと。だったら早く言えよ殺しそうになっただろうが…」
「ははっ…すんませ…(泣)」
「じゃあな!帽子屋!!三月ウサギと眠りネズミには山に芝刈りに行くって伝えてくれよ!!」
「わかった。明日二人つれて川に洗濯しに行くよ。」
「ははっよろしくな!!」


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side 帽子屋&三月ウサギ&眠りネズミ
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「…ムニャ…ついていきたかったんじゃないの…?…アリスに…」
「何の話だよ。」
「夜中にアリスと話してたでしょ…僕はしっかり聞いてたから……ムニャムニャ…」
「だから何のだよ」
「…とぼけないでよ…僕は昨日白兎のこと初めて知ったけど…行きたいはずでしょ…?…ムニャ…三月ウサギなら僕に任せてよ…ムニャムニャ」
「ふっ…何寝ぼけたこと言ってんだよ。…それに三月ウサギはお前に任せられないだろ。おしゃべりが大好きなんだから、お前不眠不休だぜ?」
「ちょっとぉ!!二人とも手伝ってよ!!!」
「はいはい!…ほら、たまにはお前も手伝えよ。」
「もー言い出しっぺは帽子屋さんでしょ〜!?責任もって布団洗いしなさい!!」
「げっ…一番大変なの押しつけたな…」
「文句ある!!?」

"本日のお茶会は中止!洗濯パーティーはコッチ!→"

・・・next?