「嗚呼、眠りネズミはアレの話をすると大暴れするんだよ」
「ねから始まってこで終わる奴ね〜」

(ネズミだから仕方ないのだろうか…やたらデカい耳なだけあって、耳がいいんだな…てか)

「…何でもジャム塗りゃいいってもんじゃねぇぞ!!!??」
「けどトーストは美味しいよ」
「トーストはマーガリンじゃないか?」
「…チョコもいいよ…ムニャ」
「え〜ストロベリージャムだってば〜白兎もそう言うよ〜」
「白兎!!?白兎も此処に来るのか!?!?」
「うん!招待状を渡した人たちの中で、此処に来てくれる数少ない親友だよ〜!!」
「じゃあよく此処に来るのか!!?」
「今日も来てくれたよ〜さっきまで居たんだよ〜?」
「!!!キャタピラの時か!!」
「どうしたんだアリス…何でそんなに慌ててるんだ?」
「そうだよ〜」

アリスは机をドンッと叩きつけ、勢い良く立ち上がった。

「すまんもう行く!まだ茶貰ってないけどありがと!!」
「え〜もう遅いし泊まってきなよ〜小屋だけど…」
「夜の森は危険だって。」
「でも白兎に追いつかなくなる!!!会うなら早い方がいい!!!」

「…何故そこまで白いウサギにこだわる…逃がせておけば噛みもしないというのに…アリス、何を考えている?」

「……」

(空気が変わった…コイツ…平和ボケの狂った奴じゃないようだ…なんだこの気迫…白兎の仲間か?)

「もう寒くなってきたし…小屋でホットケーキでも食べようよ〜」
「ムニャ…僕先に帰ってるから…ムニャムニャ」
「…白兎に会いたいなら明日まで待てばいい…そうでしょ。焦る必要はない。城はすぐそこだから。」
「うぅ…」

────

結局アリスは小屋に招かれ、巨大化しないようにホットケーキと紅茶を交互にたらふく食べて、三月ウサギの言い分を断りソファーで寝かせて貰った。

とんとん…

(…ん?…なんだ?…)

「アリス起きて…話がある」
「…んぁ?…」
「外で待ってるから…」

(?帽子屋か…?…なんだろ?)

アリスは言われたとおり外に出た。三月ウサギを起こさないようにそっと。

「…話って?」
「白兎について。何で追っかけてるのか」
「…正直最初は腹減ってたから食ってやろうって、途中からは本能のままに追いかけてた…今は…色々聞きたいことがあるんだ。何かわかんねぇけど」
「…曖昧なのか。……アリスの"役"ってやつか」
「嗚呼多分な。…あいつが知りたくなったのかもしれない。何一つ知りもしないのに…可哀想だと思った。」
「…そっか…だったら教えてあげようか。白兎の過去。」
「え?」
「…まぁ座ってよ。寒いでしょ?ココア飲む?」
「嗚呼、頂く。」

小屋から出てすぐ近くのテラスに置かれた机と椅子。
二つ置かれた椅子に座る二人。
ココアは丁度いい暖かさで飲みやすかった。

「白兎は…俺の兄なんだ。」
「なっ!?」
「驚くよな。似てないし」
「…まぁな…」
「ほら、白兎の目、蒼かっただろ?現実もそうだったんだ。蒼目なんて周りにいないから、気味悪がったりする奴が居たんだ…殆どがそうだったけど。そのせいでハバにされたり虐められたりしたんだ。」
「そんな…!!なんて奴らなんだ…」
「…そう思ってくれて、兄も嬉しがると思うよ。…そんな毎日を過ごしてきたから、精神的にも肉体的にも病んできたんだ。身も心もボロボロになって…けど狂ったように俺の前では笑ってたんだよ。…憎いはずなのに…」
「…弟の前では…強がりたかったんだな…」
「多分…そうだと思う。…ある日兄は夢での話を聞かせてきたんだ。…白兎としての」
「!?夢は覚めたら終わりじゃないのか!??」
「白兎はこの世界の創造者、女王のお気に入りだ。女王にかかれば行き来なんて容易いんだよ。…兄は嬉しそうに話してたよ…"白兎になれば私を必要としてくれる人がいるんだ。目の事も言われないし、皆綺麗だって言ってくれるんだ"ってね。…それからこの国に通い続けてる…これが白兎の過去。」
「この世界がお前の兄の生き甲斐だったんだな。…そりゃ誰だってこの世界に居たくなるよな…」
「……俺は此処が嫌いだ…」

帽子屋は苦しそうに呟いた。
胸の中の憎悪を吐き出すように。

・・・next?