この病院は老人専門の病院だ、若い女なんかが入院してるわけがない。

同じ夜勤の看護婦ならナース服を着てるから一目でわかる。

危篤の患者の家族だとしたら、自分のところにも連絡がきてるはずだ。

第一、今晩、危篤の患者などいやしない。

では、一体!?

と、顔をあげたその目の前、鼻先がくっ付かんばかりに女の顔があった。

長い髪、血の気のない無表情な顔、何も映っていない瞳。

その瞳と目が合った瞬間、

兄は、踵を返し、後ろを振り返る事なく一目散に他の階のナースステイションに

駆け込んだ。

怯え慌てふためいてる兄の様子を見て、その階の看護婦は、

まだ何も言って無いのに、一言。

「そのうち慣れるわよ。」

其の時、兄は、女の方が、よっぽど肝がすわってる。

と思ったそうだ。

因に、病院と女の因果関係は、結局、解らずじまいだそうだ。