「だ…誰!?」
思わず声が出てしまい入り口の洗面台まで後ずさった瞬間、そのドアがゆっくりと開きました…。ドアノブを支える手が見えました。日に焼けて無い真っ白な手です。
そして次に顔が半分ぬぅっと覗きました。男の顔、目はじっとこちらを見据えていました。
なんの表情も読み取れない人形のようなその顔は蛍光灯に照らされて、さらに青白く血管までが透けて見えそうな程です。しかしAが感じた違和感はそこではありませんでした。
「か、顔の…位置が……」
その男の顔は半開きになったドアに伸びた手のずっと下、床のすぐ上にありほんの少し首を傾げた形で、まるで床に置いた生首のように見えました。顔が覗く位置があきらかに人間のものとは違っていたのです。
「ギャアアアァーーーッ!!!!!」
弾かれたようにAは駆け出しました。無我夢中で転げながらスタジオに戻ると二人を呼び顛末を話しました。声を聞いて慌ててやって来た守衛達も連れて恐る恐るトイレに戻ってみると、その男の姿は既に霧のように消えてしまっていました。
その後Aが守衛に聞いたところ、スタジオの出入りの人数は(盗難防止の為)厳しくチェックされており、確かにその日はBスタの3人と守衛が2人しか構内に残っておらず、その時間2階のトイレに入っていた者は皆無との事でした。念の為全スタジオ内を捜索しましたが、やはり他に誰も残ってはいませんでした。
「……以前からここはよくでるらしいんです。なんてったってこれですから」
トイレに戻った時に守衛のひとりがそう言って、洗面台の脇にある窓を空けました。
スタジオの裏手にある小山が眼前にせまりまばらに竹が生えていて急斜面が上に続いていました。見上げると上の方に無数の石碑のような…
…ぞっとしました。
「ほらこっち墓場でしょ?降りて来てここに溜まるらしいんですよ。」
…俺の体験なんですけどね。あれ以来霊の存在を信じざるを得なくなっちゃいました。
ちょこっとだけ設定は変えてありますが実話です…。長々とすみません。