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7・Fruit game-茨伯爵と毒針


ラズメリア、ウェイブル、フォレスト、ヴァンプの4人は、

茨の伯爵の陰謀を止める為、そして…枯死女神と化したローズディーテに会う為に、

迷宮の更に奥へ進んだ。

茨の毒針に侵された仲間達を救い、進んだ先にいたのは…

かつて、ラズメリア達と対立した白薔薇術士、ロドルフだった。

 

***

 

「ロドルフ…何故貴方がここに…?」

ラズメリアが問うと、ロドルフは、その名前を何処か懐かしそうに感じていた。

「そう。僕にはかつて、そんな名前もあった。けど、一度死んだ僕は、もう人間じゃない。

この茨に住み、枯死女神の盾となる枯死薔薇術士なのさ…!」

 


ロドルフが手を大きく広げると、

大地の激しい地響きと共に、現れたのは…

眠りについたローズディーテだった。

 


「見て!ローズディーテだわ!」

茨に囚われたローズディーテの周りに咲く花は枯れていた。

ラズメリア達は、彼女自身も様子にも違和感を感じた。


「ローズディーテ…!」

ウェイブルは、その姿を…切なげに見ていた。

 

思えばローズディーテとの出会いは、5年前―。

行き場を失った黒薔薇が、この先の未来が全く見えない時だった。

石像の前で、思い悩んでいたウェイブルの前に、

女神は現れた。


『貴方は穢れ薔薇じゃないのよ。

強く威厳のある黒薔薇は…果実と力を合わせる事で赤い薔薇に咲き誇る。

貴方が生まれてきたこと、ここまで生きてくれた事を、今日この日に祝いましょう』


まだ幼かったウェイブルにとって、ローズディーテは希望そのものだった。


彼が知っているローズディーテは、もうそこにはいない。

意識はないが、枯死の女神として存在するその姿は…

まるで、彼らの操り人形だった。


ラズメリアは、ロドルフに向かって強く言い放つ。

「相変わらず女を捕らえるのが好きね、この変態!」

「何とでもいえばいいさ。僕はもうあの頃のように無様な生き方はしない。

枯死女神世界を創ろうではないか。我が義弟と共に!」


ロドルフは次第に人間の姿から大きなバリアと代わり、

枯死の女神になったローズディーテを取り囲んだ。

 

「…ローズディーテ!…もう救う事は出来ないの?」

 

ラズメリアが悲しんでいた所に…一人、やってきた男が。


茨の伯爵、ジェーンベルグである。

「全く…驚いたよ。まさか君たちがここまでたどり着けるなんてね…」

ジェーンベルグは、くすくすと笑いながら、


「仕方ないから、僕もここにきてあげたよ。

わざわざ危険な茨の迷宮に来た事を感謝しておくれよ?本当は、ここにいると皆毒針にやられちゃうんだ。

早い所、君達を倒して退散するよ」


ジェーンベルグは手を広げると、彼の周囲の草木に突然、雨から落ちた。


そして、周囲にある枯死した茨に潤いを与えた。

みるみるうちに、茨は彼らの元へやってくる。

「さあローズディーテ、僕の可愛い操り人形…!こいつらを全員、茨に絡めておくれ!」


ジェーンベルグが、両手を静かに下げた直後、

茨は鋭い棘と共に、ラズメリア達に襲い掛かった。


ヴァンプは、爪をかざし、茨に向かっていく。

「はっ、こんな草木じゃ遊んだ(戦った)うちにはいらねぇぜ!」

吸血鬼の体は、棘の痛みを人間よりは感じなかった。恐れることなく、爪で切り裂いた。

フォレストは、ラズメリアとウェイブルに声をかけた。


「ヴァンプに続いて、私達も行きましょう」

「ええ…!でも、どちらを狙えばいいのかしら?」

ラズが迷っていると、ウェイブルはジェーンベルグを見つめた。

「枯死女神の意志では今の所動く様子は感じられない…。茨の伯爵の暴走を止めるのが先では…?」

ラズメリア、ウェイブル、フォレストは、勢いよく茨の中へ飛び込み、無限に表れる茎を切り裂いていった。


そして、3人はヴァンプのいる所まで追いついた。

ヴァンプは、枯死の女神の、『ある特徴』に気がついた。

「あの茨が俺達に攻撃しているときは、ロドルフのバリアも少し弱まるようだ。

あいつらから女神を救い出せば、茨の攻撃も出来ないんじゃないか?」

ラズメリアは、驚いて女神の方へ視線を向ける。女神の側には、ロドルフのバリア魔法と、伯爵が一人。

「ジェーンベルグの後方へ回るなんて、出来るのかしら」


ウェイブルは心配気なラズを見ながら、

「向こうは一人、俺達は4人…出来ない事はないだろう。俺とヴァンプはジェーンベルグの攻撃に回る」

「わかったわ。じゃあ、私はフォレストと一緒にローズディーテを…!」


4人で、一斉に走っていく。

ジェーンベルグが攻撃した際に、ヴァンプは爪に吸血鬼の魔力を灯し、ウェイブルは黒薔薇術で共に攻撃した。


『今だ!』

ヴァンプとウェイブルの掛け声と共に、フォレストは疾風の炎を放った。

「プロフェンサー・フェニックス!」


炎は翼のように駆け、バリアを打ち破った。

ロドルフのバリアは、そのまま消え去っていく。

『ジェーンベルグ、後はまかせたぞ…』


「ラズ!」

「はぁぁ!指輪、私に力を!」

ラズメリアは、指輪から力を放った。


すると、枯死女神は解放され、フォレスト達の元へ降りていき横たわった。


刺々しい茨が、彼女を捕らえた。

 

 

「ラズ!?」

3人は、ラズの元へ駆け寄るが…

ラズの体は、茨の棘で囲まれていった。

「あああっ…痛い、痛いわ…!」

ジェーンベルグは、枯死薔薇の解放と共に、姿が少しずつ消えていく。

「ラズ…っ!」

ウェイブルは、大声で叫ぶが、茨は彼女を蝕んでいく。


その姿に、ジェーンベルグは興奮がとまらなかった。


「果実姫…ああ。美しいよ…これこそが僕と君との、アバンチュール…。

こんな刺激、『普通』の貴族では楽しむ事は出来ないよ。」


女神が解放されても尚、ジェーンベルグは茨の攻撃をやめなかった。

ヴァンプは驚いて思わず叫んだ

「おい、あいつの攻撃止められないのかよ!女神が解放されているのに一体どうして…?!」

「見て…!ジェーンベルグが…消えていくわ」

 

それが、彼の体を蝕んでいて、彼自身気にもしていなかった。

ウェイブルは、笑い続けているジェーンベルグに言い放つ。

「お前…これ以上力を使えば、お前自身も死ぬんじゃないか…!?それでもラズを傷つけるつもりか!?」

 

「ああ、そうだよ。僕はね、最初から『これ』を望んでいたんだ。

僕は、皆の望む優れた貴族になりたかったわけじゃない。義兄さんのように、『特別』になりたかったんだ」

 

ラズメリアは、痛みのショックで気を失いそうになる。

「馬鹿じゃないの…私がどれだけ、普通の暮らしを望んだか…貴方は傲慢で、贅沢で、自分勝手だわ。

でも…そんなあなたでも、違う人生もあったのかしら」

「君は何を言っているんだい?そんな事を僕に言う人間は初めてだよ」

「例えば小さい頃、貴方と出会っていたら…私は最初に、一番好きな花を教えるわ。」


ラズメリアは、最後の力を振り絞って、指輪を向けた。

閃光は一瞬、ジェーンベルグの頬をかすり、血がにじみ出た。


「同情はそこまでよ。油断しないでくれる?」

「誰が油断だ。何処かの母親みたいに叱ったり愛でたり…お前みたいな女が一番うざいんだよ。僕の母親は、そんな風じゃなかった」


ジェーンベルグとロドルフの過去の記憶がよみがえる。

日頃から両親に虐待を受けて来た二人が、親の愛を知る事もなく…

白薔薇術士と、スーデルテ王国の伯爵として世間に認められ、もっと自己顕示欲を欲した。

その結果、彼らは己の欲望を満たす事でしか、幸せを得られなくなった。

 

ラズは、痛みの感覚が麻痺してきている。もう、彼女が体を動かせるのは数秒しかないのかもしれない。

「…過去がどうであれ、未来は変えられる。だから、あんたはいい加減、自分の立場を人のせいにするのやめなさいよ」

未来へ向けての、その言葉は、かつてウェイブルがラズメリアに言った言葉だった。


赤い光線が、大きく広がり…ジェーンベルグに降りかかっていった。

まるで、ジェーンベルグは白く光り…消えていく。

「これは僕からのプレゼント…さよなら、果実姫」


ジェーンベルグは、、ラズメリアに小さな棘を刺した。

その棘の痛みも、今の瀕死の状態の彼女には、感覚がないのだが。

そうして、彼は消えていった。


地面に落ちていくラズメリア。倒れているローズディーテを見て、ほっとしていた。

 

(枯れた薔薇が、まだそこに存在する限り、『貴方』は生きている…

貴方は枯死なんじゃない。美しく咲き誇る薔薇の女神なんだわ。

永遠に薔薇は生き続けるのよ…今度は、私達が助けるんだから…)

 

ラズメリアは、茨の棘によって全身が血まみれになり、地面に倒れた。