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ラズメリア、ウェイブル、フォレスト、ヴァンプの4人は、
茨の伯爵の陰謀を止める為、そして…枯死女神と化したローズディーテに会う為に、
迷宮の更に奥へ進んだ。
茨の毒針に侵された仲間達を救い、進んだ先にいたのは…
かつて、ラズメリア達と対立した白薔薇術士、ロドルフだった。
***
「ロドルフ…何故貴方がここに…?」
ラズメリアが問うと、ロドルフは、その名前を何処か懐かしそうに感じていた。
「そう。僕にはかつて、そんな名前もあった。けど、一度死んだ僕は、もう人間じゃない。
この茨に住み、枯死女神の盾となる枯死薔薇術士なのさ…!」
ロドルフが手を大きく広げると、
大地の激しい地響きと共に、現れたのは…
眠りについたローズディーテだった。
「見て!ローズディーテだわ!」
茨に囚われたローズディーテの周りに咲く花は枯れていた。
ラズメリア達は、彼女自身も様子にも違和感を感じた。
「ローズディーテ…!」
ウェイブルは、その姿を…切なげに見ていた。
思えばローズディーテとの出会いは、5年前―。
行き場を失った黒薔薇が、この先の未来が全く見えない時だった。
石像の前で、思い悩んでいたウェイブルの前に、
女神は現れた。
『貴方は穢れ薔薇じゃないのよ。
強く威厳のある黒薔薇は…果実と力を合わせる事で赤い薔薇に咲き誇る。
貴方が生まれてきたこと、ここまで生きてくれた事を、今日この日に祝いましょう』
まだ幼かったウェイブルにとって、ローズディーテは希望そのものだった。
彼が知っているローズディーテは、もうそこにはいない。
意識はないが、枯死の女神として存在するその姿は…
まるで、彼らの操り人形だった。
ラズメリアは、ロドルフに向かって強く言い放つ。
「相変わらず女を捕らえるのが好きね、この変態!」
「何とでもいえばいいさ。僕はもうあの頃のように無様な生き方はしない。
枯死女神世界を創ろうではないか。我が義弟と共に!」
ロドルフは次第に人間の姿から大きなバリアと代わり、
枯死の女神になったローズディーテを取り囲んだ。
「…ローズディーテ!…もう救う事は出来ないの?」
ラズメリアが悲しんでいた所に…一人、やってきた男が。
茨の伯爵、ジェーンベルグである。
「全く…驚いたよ。まさか君たちがここまでたどり着けるなんてね…」
ジェーンベルグは、くすくすと笑いながら、
「仕方ないから、僕もここにきてあげたよ。
わざわざ危険な茨の迷宮に来た事を感謝しておくれよ?本当は、ここにいると皆毒針にやられちゃうんだ。
早い所、君達を倒して退散するよ」
ジェーンベルグは手を広げると、彼の周囲の草木に突然、雨から落ちた。
そして、周囲にある枯死した茨に潤いを与えた。
みるみるうちに、茨は彼らの元へやってくる。
「さあローズディーテ、僕の可愛い操り人形…!こいつらを全員、茨に絡めておくれ!」
ジェーンベルグが、両手を静かに下げた直後、
茨は鋭い棘と共に、ラズメリア達に襲い掛かった。
ヴァンプは、爪をかざし、茨に向かっていく。
「はっ、こんな草木じゃ遊んだ(戦った)うちにはいらねぇぜ!」
吸血鬼の体は、棘の痛みを人間よりは感じなかった。恐れることなく、爪で切り裂いた。
フォレストは、ラズメリアとウェイブルに声をかけた。
「ヴァンプに続いて、私達も行きましょう」
「ええ…!でも、どちらを狙えばいいのかしら?」
ラズが迷っていると、ウェイブルはジェーンベルグを見つめた。
「枯死女神の意志では今の所動く様子は感じられない…。茨の伯爵の暴走を止めるのが先では…?」
ラズメリア、ウェイブル、フォレストは、勢いよく茨の中へ飛び込み、無限に表れる茎を切り裂いていった。
そして、3人はヴァンプのいる所まで追いついた。
ヴァンプは、枯死の女神の、『ある特徴』に気がついた。
「あの茨が俺達に攻撃しているときは、ロドルフのバリアも少し弱まるようだ。
あいつらから女神を救い出せば、茨の攻撃も出来ないんじゃないか?」
ラズメリアは、驚いて女神の方へ視線を向ける。女神の側には、ロドルフのバリア魔法と、伯爵が一人。
「ジェーンベルグの後方へ回るなんて、出来るのかしら」
ウェイブルは心配気なラズを見ながら、
「向こうは一人、俺達は4人…出来ない事はないだろう。俺とヴァンプはジェーンベルグの攻撃に回る」
「わかったわ。じゃあ、私はフォレストと一緒にローズディーテを…!」
4人で、一斉に走っていく。
ジェーンベルグが攻撃した際に、ヴァンプは爪に吸血鬼の魔力を灯し、ウェイブルは黒薔薇術で共に攻撃した。
『今だ!』
ヴァンプとウェイブルの掛け声と共に、フォレストは疾風の炎を放った。
「プロフェンサー・フェニックス!」
炎は翼のように駆け、バリアを打ち破った。
ロドルフのバリアは、そのまま消え去っていく。
『ジェーンベルグ、後はまかせたぞ…』
「ラズ!」
「はぁぁ!指輪、私に力を!」
ラズメリアは、指輪から力を放った。
すると、枯死女神は解放され、フォレスト達の元へ降りていき横たわった。
刺々しい茨が、彼女を捕らえた。
「ラズ!?」
3人は、ラズの元へ駆け寄るが…
ラズの体は、茨の棘で囲まれていった。
「あああっ…痛い、痛いわ…!」
ジェーンベルグは、枯死薔薇の解放と共に、姿が少しずつ消えていく。
「ラズ…っ!」
ウェイブルは、大声で叫ぶが、茨は彼女を蝕んでいく。
その姿に、ジェーンベルグは興奮がとまらなかった。
「果実姫…ああ。美しいよ…これこそが僕と君との、アバンチュール…。
こんな刺激、『普通』の貴族では楽しむ事は出来ないよ。」
女神が解放されても尚、ジェーンベルグは茨の攻撃をやめなかった。
ヴァンプは驚いて思わず叫んだ
「おい、あいつの攻撃止められないのかよ!女神が解放されているのに一体どうして…?!」
「見て…!ジェーンベルグが…消えていくわ」
それが、彼の体を蝕んでいて、彼自身気にもしていなかった。
ウェイブルは、笑い続けているジェーンベルグに言い放つ。
「お前…これ以上力を使えば、お前自身も死ぬんじゃないか…!?それでもラズを傷つけるつもりか!?」
「ああ、そうだよ。僕はね、最初から『これ』を望んでいたんだ。
僕は、皆の望む優れた貴族になりたかったわけじゃない。義兄さんのように、『特別』になりたかったんだ」
ラズメリアは、痛みのショックで気を失いそうになる。
「馬鹿じゃないの…私がどれだけ、普通の暮らしを望んだか…貴方は傲慢で、贅沢で、自分勝手だわ。
でも…そんなあなたでも、違う人生もあったのかしら」
「君は何を言っているんだい?そんな事を僕に言う人間は初めてだよ」
「例えば小さい頃、貴方と出会っていたら…私は最初に、一番好きな花を教えるわ。」
ラズメリアは、最後の力を振り絞って、指輪を向けた。
閃光は一瞬、ジェーンベルグの頬をかすり、血がにじみ出た。
「同情はそこまでよ。油断しないでくれる?」
「誰が油断だ。何処かの母親みたいに叱ったり愛でたり…お前みたいな女が一番うざいんだよ。僕の母親は、そんな風じゃなかった」
ジェーンベルグとロドルフの過去の記憶がよみがえる。
日頃から両親に虐待を受けて来た二人が、親の愛を知る事もなく…
白薔薇術士と、スーデルテ王国の伯爵として世間に認められ、もっと自己顕示欲を欲した。
その結果、彼らは己の欲望を満たす事でしか、幸せを得られなくなった。
ラズは、痛みの感覚が麻痺してきている。もう、彼女が体を動かせるのは数秒しかないのかもしれない。
「…過去がどうであれ、未来は変えられる。だから、あんたはいい加減、自分の立場を人のせいにするのやめなさいよ」
未来へ向けての、その言葉は、かつてウェイブルがラズメリアに言った言葉だった。
赤い光線が、大きく広がり…ジェーンベルグに降りかかっていった。
まるで、ジェーンベルグは白く光り…消えていく。
「これは僕からのプレゼント…さよなら、果実姫」
ジェーンベルグは、、ラズメリアに小さな棘を刺した。
その棘の痛みも、今の瀕死の状態の彼女には、感覚がないのだが。
そうして、彼は消えていった。
地面に落ちていくラズメリア。倒れているローズディーテを見て、ほっとしていた。
(枯れた薔薇が、まだそこに存在する限り、『貴方』は生きている…
貴方は枯死なんじゃない。美しく咲き誇る薔薇の女神なんだわ。
永遠に薔薇は生き続けるのよ…今度は、私達が助けるんだから…)
ラズメリアは、茨の棘によって全身が血まみれになり、地面に倒れた。