私が小学校一年のときだったかな……私はとある田舎の一角に住んでいました。

 見る限り畑の並ぶ寂れた住宅街。
 小学校までは遠く、側に小さな公園があるのだけど、そこの公園で殺人事件があったこともあったりと、あまり良い土地ではありませんでした。

 ただ、大好きだった祖父母の家に近くて、母に叩かれたときなどよく泣きながら祖父母宅に逃げ込んだものでした。
 他にも大工だった祖父が庭の一部に屋根をつけてくれたりと、それなりにいい思い出のある家だったように思います。

 小学校に入学したのはそこに住んでいたときでした。
 でも、住んでいた時期はそんなに長くありませんでした。一・二ヶ月程度だったと思います。

 その家の隣りに、もう一件家がありました。

 ひどい外観の家でした。庭の雑草は放置しっぱなし、花壇は荒れ放題、壁は汚れ放題ひび割れ放題。
 毎日のように怒鳴り声や男性と女性の罵倒しあう声が聞こえてきました。
 子供の泣き声もよく聞こえてきていたので、私はその家に子供がいることを知りました。
 たまに何かが割れる音なんかも聞こえてきて、私も子供ながらにあまり幸せな家ではないことをなんとなく悟っていました。

 近所でもその家は有名で、それでも干渉する人はなかったように思います。
 何かが聞こえてきても、「今日もやってるねぇ」と顔をしかめて言うだけ。我が家もそのうちでした。
 誰も勇気が出せなかったんだと思います。

 とある日のことです。
 私がふとした用事で庭に出たとき、隣りの家の庭に女の子がいるのに気付きました。
 私と同じくらいの小さな女の子。二つ結びのよく似合う可愛い女の子でした。
 すぐに隣りの家の子だとわかりました。
「なにしてるの?」
 私は人見知りなほうですけれど、子供なりに、興味とか、優越感とか、同情とか、多分そんなものを色々感じたのだと思います。私はその子に話しかけました。

 なんてことのない会話から始まって、自己紹介、おもちゃの自慢やお菓子の交換。
 彼女はりなちゃんという子でした。近くに同じ年頃の子がいなかったし、お互いに一人っ子でいつも一人だったせいもあって、私達はすぐに仲良くなりました。
 それから毎日毎日遊んでいたように思います。
 彼女を「可哀相だな」とは思わなくなりました。まだ小さかったからそこまで大事に感じることが出来なかったのもあります。
 でも何より二人で仲良く遊ぶ時間が楽しくて、このままなら二人ともずっと幸せだと思いました。

 少し印象的なのは、やっぱり彼女の家に行くのは少し怖かったこと。
 いつもいつもお母さんがキリキリしていたし、私がりなちゃんと遊んでいても目も合わせなかったと思います。
 それに、たまにお父さんが家にいると、ほぼずっと怒鳴り声が聞こえたから。

 そんな日々がしばらく続いて、でもある夜を境にそれが崩れることになりました。


続く