森の中に、少年と少女がいた。

 少女は、良質の生糸のように柔らかい白髪を持っていた。
 髪や肌、どれもが雪のようにふわりとして白いのに対し、瞳はケモノの目のように赤い光沢を放っているのが、とても印象的な少女だった。
 その眼は、少年の姿を捉えて離さない。少年に見入ったまま、その場に立ちすくんでいる。
 少年は──いや、『少年の形をした者』と言ったほうが賢明だろうか。だが、仮に『少年』ということにしよう。
 少年もまた、少女を見据えて離さなかった。
 だが、少女とは違い、その目は意志を持って少女を射抜いていた。
 まるで、『異形な』相手を進んで観察しているように。

 だが、少女からすれば、少年の方が全くもって異形な存在であった。
 少年の肌はほとんど透けていた。
 肌の向こうに、連なり、交わって、体中に巡っている、幾万幾億という血管のようなものが見える。
 だが、その血管を脈打って流れるのは、尋常とは遥かに異なる、深い緑色をした液体だった。
 その液体が体中を濁流しているおかげで、少年の一糸纏わぬ姿は、まるで緑色に燃え盛っているかのように見え、少年を異形のものに見せていた。
 少年は少女を見据えて微動だにしない。

 やがて、少女が動かないことを悟ったのか、少年は口を開いた。
「どこから来た。」
 少年らしき精悍な声が、少女の薄い肩をビクリと震わせる。
 少女は何も答えない。
「どうやって来た。」
 少年は瞬きもせずに、少女に再度問うた。少女の返答を待っている。
 だが少女はやはり答えない。
「どうして来た。」
 三度目の問いで、少女の片足が、ワンピースからすらりと伸びた傷だらけの素足が、ずるりと後ろに下がった。
 その動きに、少年はゆっくり視線を落とす。
 しばらく同じ場所に立ったままであったからだろう。
 少女の足の下では、傷から流れた血の赤色が、土に浸透しようとしていた。
「帰れ。」
 今まで強い口調で少女に問い掛けていた少年は、今度は吐き捨てるようにして短く言った。
 そしてそそくさと背中を向けようとする。それを見て、少女はやっと思考を取り戻した。
「待って!」
 森の中を少女の声が反響する。
 少年は再び少女に向き直り、先刻と同じ目をした。
 少女は怯えたような表情をしたが、そのまま無理やり言葉を続けた。
「か、えりたくない。」
 かすれた声である。
 少年は何も答えない。
 しばらく動きがなく、沈黙が続いた後、少年が先刻の言葉を繰り返した。
「帰れ。」
 そしてそのまま去っていく。
 少女は何か言おうとしたが、その少年の背中に頑としたものを見て、諦めて少女も踵を返した。

 森の中は閑散としていた。
 取り囲むのは、天高くに向かって連なる樹々。
 辺りは、土や草、樹液の匂いがする。
 僅かに湿り気を帯びた大木たちは、森の中を、重く暗く佇んでいる。
 そんな樹々の合間を巧みにすり抜けてくる微量の光を拾い、植物達は金緑色に発光している。
 周りを樹々の幹や枝や葉が、絡み合っているにも関わらず、ぼんやりと森の中を照らしている。
 生き物の一つもいていいはずなのに、森には植物以外に生きた生命らしきものが見当たらなかった。
 だが、森は確かに息をしていた。

 少女は森を出てしばらく歩いたあと、振り返って森を見た。
 森には、ただ木の葉が覆っている。幹も土も植物も木の葉に隠れて見えず、森はただ黙ってそこに存在していた。



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なんだか意味不明な気がするが夢だから仕方がない。
でも、個人的には好きな夢でした。
小町は怖い夢を一番よく見るんですが、結構小説のネタに夢を使うことは多いです。
三部作とかだったりして、真夜中上映会みたいな感じで結構面白いです。
ただちょっと不安なのは、どこかで見た映像を夢で見てたりとかもしかしたらありそうで、一応創作に使うときは、他にこんな本とか映画とかがなかったか気をつけてます(笑)

ところでこの話でも、後日続きを見ました。

この少女、この後、村みたいなところに帰るんです。
海岸に面した土地に、小さな家々が建ってて、見た目は人の良さそうな人達が住んでるんですよ。
でも、実はこの子、いじめられてたみたいで。

いじめっていうとなんとなく語弊があるのかなぁ、とにかく色々虐げられていたんです。
なるほどよく見れば周りの村人に比べて少女の姿はちょっと浮いてる。
綺麗なんだけど、なんだか人工的に神秘的と言いましょうか。
目の赤さとかも、ちょっとこれに見つめられたら怖いなぁって。
なんか白と赤だからよく考えたらうさぎみたいですけど(笑)

で、とうとうある日、少女は村に火をつけます。

そのまままたあの森に行くんです。

ここで終わりw
この先は見た人が考えなきゃいけないんでしょうね(´∀`)