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029.爪痕(リンク)


僕は確かに、君を捕まえるために腕を掴んで赤い痣を作ることが出来るだろう。

でも、君は僕に消えない傷を作ることが出来る。
君に僕がしてしまうことの何倍も、
それは重くて消えないものだろう。





――そんなに僕から逃れたいの。
そんなに、抱き締められるのは嫌?

責めるように言ったのは、彼女が僕の腕を振り払ったのがこれで10度目だから。


「違う、そうじゃない。
そんな顔した貴方に、触れられたくないの」

「僕の顔なんか見たくない?」

「まさか。もっと、肩の力を抜いて。笑わなくていいから、苦しまないで」

「よくわからない。
良いのか駄目なのか、はっきりして」

「じゃあ駄目。そこで大人しくさていて」

しばしの問答の後、僕は大人しく床に敷かれた柔らかなラグに座り込んだ。
ラグは可哀相なことに、汚れた僕に嫌がらせの如く、泥をつけられている。苛立っていたからわざとだ。
帰ってくるなり飛び付かれた彼女も、頬に乾いた汚れが残っていた。それを擦りながら、彼女は僕を見据えている。

「で。
おあずけは結構だけど、後でどうなるかわかってる?」

前回もこんなことがあった気がする。確か僕はくだらないことで腹を立てて、彼女の腕を乱暴に取った。まさか痣になるとまでは思ってなかったけど。

彼女も僕の言わんとすることを悟ったのだろう、一瞬目をふせ、考える素振りを見せる。

それから、


「いたっ、いたたたたた!!
な、何をするんだよ!」

頬を容赦なくつねられる。飛び上がった僕に、彼女は満悦な笑みを浮かべた。

「何をしたって、私は貴方から離れてあげない。
貴方が幸せな時も、そうでないときも」

「でも、君は僕に比べたら…、」

「繋ぎ止める腕がない?
遠ざかる足がない?

そんなものはいらない。
私が貴方にしたことを、貴方はもう知っている」

突き放そうとする態度が所詮演技だと、彼女がわからないはずはないのか。
僕の小細工より、君が手加減なしで増やしてきた、この心に打ち込まれた楔が心地良く軋む。

「……わかったよ。ごめん。
意地悪はもうしない。
だから君も、な?

……イタッ。ごめんってば」

「ほら、笑いなさいよ。
帰ってくるなり恋人に説教くらって、惨めでしょ?
ああなんて酷い女だって、笑ってしまいなさいな」

「ははっ、いやだ。
どうせなら、そんな惨めな自分を嘲笑ってやりたいね。
だから君も笑うといいよ」


君がその腕の痣を笑って治すなら、僕はこの傷痕に、笑って爪を立てるだろう。
それが愛の形だと、愚直なまでに信じたままに。

028.たとえ届かなくても(トワリン)


人混みが壁となって、前が見えない。その中央にあるのは、さして貴重な見せ物というわけではないだろうけれど。

他人が注目しているものが何か、自分も知りたくなるのは仕方ない。


「……見えない」


色鮮やかなテントは、城下の一角で異彩を放っている。
少々こすい商売で、普段は閑古鳥が鳴いているそこを、今日はやけに覗き見る人が多い。主に若い女だが、男もいないわけではなかった。


ざわっと驚きのさざ波が広がり、それから歓声が俄かに周囲に響く。

どうやら誰かが、あの緑の全身タイツが作ったゲームをクリアしたらしい。


そんな気概のある人間がどんなか見てやろうと思っても、その人は盛大な賛美の中にいて、私には見えなかった。断じて、己が人より身長が低いと認めたわけではない。

離れたところから彼を眺める。
人々の隙間から時折見える姿で、「彼」であることや、以前から時折城下に訪れ、妙に気の良い人だとそこそこ噂になっている人だとわかった。
名前はたしか、


「……、リンク」

目が合った。

私が暇を持て余していると一目瞭然だったのだろう、欠伸をしかけた変な顔を笑われて、私から目を逸らす。
それでも、人垣が再び彼を覆うまで、視線を感じて、仄かに顔が暑くなった。


「お待たせ!
悪いな、ついついやりこんじゃってさ」

彼を待っていた覚えはない。この人集りをまきたいのなら、もっとスマートな方法もあるだろうに……一先ず、それらしく返事をすると、ほっとしたようにこちらに駆け寄ってくる。


「ありがとう…君、あんな人混みで大丈夫だったかい?」

そんなに小さいのに、とまでは言わせない。睨み付けると、悪気はないとすぐに謝られた。
あの下らない小芝居に付き合える程度には子供じゃない。

「私は18よ、これでも。
それに、貴方を見てたわけじゃなくて、人集りを見てただけだから」


「え!?
あ、その、すみません!!」


「別に。慣れてるから。
それじゃ、おめでとう。さよなら」

別に子供に見られたことに憤っている訳じゃない、
ただ、直に面すると思いの外彼が親切な人だと実感してしまって、気まずいだけだ。


「あ、待って!
あの、よかったら昼飯、一緒に。
俺、奢るから」

「……家にもう準備してあるの」

「そっか、じゃあ……」

「もってきてあげるから、どこかに座って食べましょうか」


私には、人の壁を越えられないし、彼のように人気を集めることも出来ない。

ただ、この高さにいたって、気付いてくれる人がいると、彼が教えてくれたのが嬉しかった。

ただ、それだけ。

まだ、




***


リンクは年下でも絶対良い。

単に私が目覚めただけか。

027.夢の話をしよう(時オカリンク)

例えばこの世界が一切の災厄に巻き込まれなかったとして。

しかしその世界で私と貴方は出会えなかったのだとしたら。

だから他の世界ではないはずの苦楽も抱えて生きていたい。



世の中とは何もかもを満足させることは出来ないのだろう。

だからこそ私達は、数えきれない夢を生み出し、
夢の可能性を広げようとするのだから。





――貴方には夢がありましたか。
その夢を選びたかったのですか。

折角会えた恋人に訊ねたのは、愛ではなくて夢だった。
それは先日、私自身がとある旅人に尋ねられたこと。

そうか。
私は夢を諦め生きている人間に見えるのかと、質問とは関わりない部分に思いいって、返事が出来なかった。


「わからないなあ……。
あんまり頭を使って生きてなかったしさ。
あの森はとても小さな世界だったから
あ、でも、」

外の世界を見てみたいと、思っていた。
それはまるで実現性のない、子どもの憧れであったけれども、言葉を変えれば夢といえるだろう。


「小さい頃は、毎日のように夢を見てたよ。
知らないはずの城門の前で、馬に乗った浅黒い男と逃げていく女の子、うなされて、目が覚めて、そうしてナビィが迎えに来た」

ふわふわと彼の傍らではばたいていた妖精は、応えるようにちかちかと瞬く。

羽で頬をくすぐられて、喉の奥で笑ってから、リンクは私に向き直った。


「夢なんて、そんなものじゃないかな!」

吹っ切るように声色が変わって、抜けるような満面の笑みを浮かべる。

「どんなもの?」

「だからさ、よくわかんないしどうでもいい、ってこと。
世界を知って君を知った、それだけで僕は満足だからさ」

私の頬に、慣れた風に口づけを落とす、わざわざ草を払って立ち上がってから。

「……貴方がこんなに、キザになるなんて思ってなかった」

「僕にこうされるの、夢見てなかったんだ?」

「そ、そんなこと……その、私は、えっと、仲良くなりたかっただけで!」

「はいはい。君以外にはしないから安心して。
そんなことより、僕には一つ、新たな夢があるんだけど!」


――聞いてくれる?
旅先で出会った素敵な女の子と……、



『夢の話をしよう』

一つ叶ったら…叶ってなくたって、次の夢を、沢山の幸せを、

さあ、願おうじゃないか。



***


いつもよりキザなリンクさん。
割と天然でさらっと台詞はいちゃえばいい。

026.気持ちいいコト(不二)@@3

――ねえ、周助。
頭、撫でてほしいかもしれない。

「全く、素直に撫でて、って言ってくれれば良いのにね」


目を閉じて、肩にもたれ掛かった彼女の頬は僅かに赤みを持っていて、けれどそれもまもなく消えていった。

僕の手が余程心地よかったのか、小さな寝息をたてている。時折笑みを浮かべるのは、何か良い夢でも見ているのだろうか。


――別に、一緒にいたいなんて思ってない。

――まさか、私がそう簡単にほだされると思った?

――だから、そんなこと……ちょっとだけしか思ってない。


どんな憎まれ口も、僕が笑って頭を撫でるとすぐに止んだ。
ふわふわした髪を触るのは、僕だって好きだ。最初は払われると思って伸ばした手は、なんと意外なことに彼女に受け入れられて。
優しい言葉をかけるより、紳士然と振る舞うより、何よりも純朴な気遣いを求める。捻くれているようで、その実とても真直ぐだった。


「……止めないで」


もうすっかり眠りに落ちていると思ったのに、手を止めると彼女の目蓋はゆらりと持ち上がった。

意識ははっきりしていないのか、刺の声色はなりを潜め、逸らしがちな視線は確かにこちらに向けられて、撫で続けることをせがんでいる。
こっちが照れるような日がくるなんて、思ってなかった。


「そうしてて……ずっと、
だって私は、あなたのことが――」

どう思っているかは聞けなかったものの、それで良い気がした。
目を覚ました君が、いつもの調子に戻っていたって、構わないや。
今、本当に良い思いをしているのは、君じゃなくて僕なんだから。


***

エロ・下ネタは全力回避(_´Д`)ノ~~
私にギャグセンスはない。

025.あの夏へ(不二)


期末テストの答案から、一息ついて顔を上げる。

窓際の席からは、テニスコートがよく見えて。

ふと数式は頭から飛んで、思い出の中を辿った。



隣の席の張本人が、私の様子に気付いて、小さく笑った気がする。
彼もまた、同じ過去を辿っているだろう。

終わってしまった夏の夢が、北風に乗ってやってきていた。






「思い出すな。
君を大好きになった季節」


「その前はそうでもなかったんだ?」


「当社比、ってところ。
片想いって曖昧じゃない」


どれくらい好きか、なんて簡単には言えないわ。
別に、テニスをやっている君に惚れたわけじゃないけれど、
とても君が楽しそうで、その顔が私は好きだった。


「楽しかったなあ、あの頃は。
君に夢中で、テニスにも夢中で、毎日どうやって生きてたんだかわかんないね」

「また来年の夏はそうなるよ。
……この夏とは、違った夏が来る」


それでも、少しだけ寂しいのは仕方がないのよ、私も君も、皆。

たくさんの夏が私達に思い出を遺すけれど、大事だと噛み締めた頃には過ぎ去ってしまうから。

ああでも、今日の冷たい風は何故かあの夏を呼び起こす。


「ね、テニスコート茶化しに行こっか」

「いいね、それ。
後輩虐めも悪くない」


凍える風の中だけれど、あの日の熱を追い掛けてみよう。

もう戻って来はしないあの日に、さよならを言おう。
新しい春は、いつだって待っているから。


@@@

マネージャーだったのかもねヒロイン。
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