続・KinKiと愛と妄想と
2014/09/30 04:35
:小説
〈ここにいるから〉後編
夢を見ていた…。
俺は何もない無機質な空間にいる。
そこにじっとしていると、急にとても怖くなった。
誰か他にいないのかと横を向くと、そこには、剛の姿があった。
俺は、とてもほっとした。
剛がいるなら、大丈夫だと思ったから。
そこでは、剛と俺…ふたりぼっちだった。
何を語るわけでもなく…
ただふたり、寄り添って立っていた。
少し俯いた剛の顔をそっと覗き込むと、彼はどこか悲しそうに見えた。
だから思わず、俺は、剛の左手をぎゅっと握っていた。
すると、剛も俺の手を強く握り返してくる。
そして、漸く俺を見つめて口を開いた。
「ここに…いるからな…」
俺が剛を慰めたくて手を握ったのに、まるで俺を安心させるような優しい声で、そんな風に言う剛。
俺は、そんなに不安な顔をしていたんやろか?
「…なぁ…剛……今から…どこ行く?」
「どこでも行けるで?お前は、どこ行きたい?」
「…んー……どこでもええわ。お前と…いろんなこと出来るんなら…」
剛は、少し笑って頷いた。
「俺もや。お前と一緒やったら、どこでも行けるし、何でも出来るわ。今まで通りな」
「うん」
剛の言葉に、俺は心底安心して、また剛の手をしっかりと握り直す。
そして…俺らはゆっくりと歩き出した。
ふたつの手を繋いだまま。
剛の手の温もりが、俺に安心をくれる。
剛の笑顔が、俺を癒してくれる。
剛の歌声が、俺を音楽へと誘う。
さっきまで立ち止まっていたけれど、また、こうして歩き出すことが出来た。
大丈夫。ふたりなら。
そう感じたから、俺らはもう何も話さず、その道無き道を、焦ることなく歩みを止めることもなく…ゆっくり…ゆっくり進み続ける。
まだまだ先は見えない。
でも何が待っていても…。
喩えそれが棘だらけの道でも…。
俺らは、歩を進める。
今まで通り。
ふたりでずっと一緒に。
「光一……光一?」
「ん…?…」
「そろそろ起きな。もうすぐリハやで」
「ああ……」
剛が、俺の顔を覗き込むようにしていた。
頭の中のスイッチは、OFFにしたはずだった。
なのに一瞬だけ、剛の未来が視えた気がした。
今まで視たことのない、剛の未来…。
でもそこに、俺がいるのかどうかは…わからなかった。
「どないした?」
「…いや…ちょっと、夢見てん…」
「夢?…それって、まさか……」
「…なんやねん」
「やらしい夢ちゃうやろな?」
「あ…あほか!!」
俺は飛び起きた。
「なんや、違うんか。つまらんな」
「お前の夢でやらしい夢なんて見るか!」
「……俺の夢なん?」
「あ…」
俺は思わず、口元を手で押さえた。
「ふぅ〜ん…俺の夢見てたんかぁ……どんな夢?」
「覚えてへん!」
「覚えてへんのに、俺の夢やってわかるんか?」
「う、うっさい!」
顔が熱い。
別に、剛に話してもいい夢の内容なのに、なんだか照れくさいから…。
剛がニヤニヤしながら、俺ににじり寄ってきた。
「ほんまは覚えてんねやろ?どんな夢やった」
「覚えてへんって」
「嘘やな」
俺に腕を伸ばしてきた。
後退ろうとした俺の頬を、剛の指が優しく撫でる。
その温もりは、夢の中の繋がれた手と同じだった。
剛の未来に、俺がいてもいなくても…
きっと、この温かさは忘れない。
大丈夫。
どこへ行っても…喩え体は離れてても。
俺はいつでも……
剛とともに生きているから。
おわり
b o o k m a r k
p r e v n e x t