続・KinKiと愛と妄想と


2013/06/28 00:01 :小説
〈愛涙華〉第2話

「う〜ん…」

「難しい顔してますねぇ、坊ちゃん…いや、社長」

「ああ…うん。今回はほんま困っとんねん。相手の言葉も分からへんし…いや、それ以前に、どうやら彼女は話も出来ひんようやから…やっぱり無理かなぁ思うねんけど…どうしたらええと思う?」

「外国の方ですかぁ…でもほら、実際に生きてる外人さんとは、身振り手振りで何とかお話し出来るでしょ?そんな感じでいったらいいんじゃないですか?」


慶三さんの言うことは、ある意味もっともやけど、なんせ相手はオバケやしなぁ…。
それでなくても、俺、オバケ怖くてしゃあないねんから!


俺が大きな溜息をつくと、旭くんが俺の目の前に、デンと書類の束を置いた。


「社長。この未処理の案件はどうします?もしそちらを優先するんでしたら、早く終わらせて頂かないと困るんです」

「…ああ、そうやな。分かっとる」


この子も、この数ヶ月ですっかり助手兼秘書が板についてもうて…。

しゃあないなぁ…。
確かに、早く何とかせな。




『天魔…おい、天魔』

『あ、お父ちゃん!良かったぁ、会いたかってん!!』

『また、えらい難儀なこと引き受けてもうたようやな』

『そうやねん!!せやけど…何とかしてやりたいねん』

『ピアノに取り憑く美女の亡霊か…』

『うん。いや、もうひとり居んねんけど…』

『そっちもえらい別嬪さんやな!ここんとこ、お前の頭ん中にいっつも居る、あの子やろ?』

『い…いや、別に、オバケから依頼やなんて、珍しいからや!』

『まあ、商売にはならんわな、オバケが依頼主やったら。それでも、お前はやるつもりか?』


そうや。全く商売あがったりや。
オバケから金貰う訳にいかんしやな。


『せやけど…あいつに頼まれて、なんや、嫌や言えへんかったんやもん』


今も、彼の綺麗な顔が目の前にちらつく。
俺、ほんま、どないしたんやろ?


『惚れてもうたんか?あの子に』

『なっ!!なに言うてんねん!?あほか!!』

『え〜?悲しいわぁ、お父ちゃん。可愛い我が子に“あほ”呼ばわりされて』

『おかしなこと言うからや!!』

『別におかしなこと言うてへんで?好きになったら、女とか男とか関係あらへん。ああ…思い出すわぁ…お父ちゃんも若い頃、同い年の男の子に……』

『へっ!?なにを今んなって爆弾発言カマしとんじゃ、ぼけ!!』

『うまい!!“カマ”だけにな!お前にも、その血ぃが流れてんねんで?ふっふっふっ!!』

『おいおいおい、勘弁してくれや!!俺は絶対そんなんやない!!』

『言い切れるんかぁ〜?ほんまにぃ〜?』

『あ…あったり前や!!』

『まあ、もうちょっと聞いてくれや。でな?その子がな、突然ウィーンに留学するっちゅうねん。お父ちゃん、悲しくってな。何しに行くん?って訊いたら、音楽留学するって…ウィーンは【音楽の都】言われる所やからなぁ。その子は、ヴァイオリンが上手くてなぁ…ヴァイオリン弾いとるとこなんて、そりゃあ綺麗やったでぇ?』

『もうええわ!!…』


なんや気持ち悪うなってきた…。
お父ちゃんが、ヴァイオリン弾いとる男見つめてウットリしとるとこ、めっちゃ想像してもうたわ…。

お父ちゃんは、昔を思い出してんのか、ぽ〜っとした顔しとる。



そこで、またしてもピアノの音色で俺は目覚めた。


せやった。
また、俺はここに居たんやった。


ピアノを…【彼女】を弾く彼の姿を見ながら、俺は、

『あの指に触られたら…気持ちええんやろか?』

なんてことをぼんやり考えてて、自分でそれに気付いたら、めっちゃ恥ずかしくなった。


すると、彼がこっちを向いた。


忘れてた!!
こいつには、俺の心ん中の声が聴こえてまうんやった!!


「大変ですね。毎回そうして気絶してしまうんですか?」

「あっ、そ…そう言えば、この前自己紹介もしとらんかった!!僕は、法界天魔。“有限会社おばけ警備保障”って会社やってます。あなたのお名前は?」

「西園寺朔耶と申します」


こりゃまた、雅なお名前で…。
まあ、こんなバカでかい御屋敷に住んでたんやから、お坊ちゃんやもんなぁ。


あ…笑いよった!!

うわ…笑顔は、めっちゃ可愛らしいやん!!


「ありがとう。お褒め頂いて…」

「あっ…」


彼はクスクス笑いながら、上目遣いに俺を見た。

うわうわ…またそんなふうに、ドキドキさせんなや!!
ほんまにもう、やりにくくてしゃあないわぁ…。


「すみません。聴こえてしまうので、仕方ないんです」

「…分かっとります。せやけど、まあ…なんやかんや聴こえても、気にせんといて下さい。俺も恥ずかしいんで…」


俺はもう、開き直るしかないと腹を括った。


「それで、御依頼を実行するのはええのですけど、まず彼女の素性とか、どうしてピアノに憑いてもうたんかとか、いろいろ知らなあかんことあるんですわ。今まで、自分の心残りやら言い分やら、訊きもせんのにベラベラ喋ってくれる人は多かったけど、なんも喋ってくれへんのは初めてなんで…」


俺は、今はピアノの上に腰掛けとる美女をチラチラ視ながら、彼に話している。


「そうですよね…何か話してくれないと困りますよね?…天魔さんも…」



うわ!!なんや?この感じ?
彼に“天魔さん”言われた瞬間、まるで俺の背筋に稲妻が走ったみたいに、ビリビリってした!!

なんなん?
こんなん今まで経験あらへん!
怖くて背筋がゾッとしたことはあるけど、それとは明らかにちゃうやん。

なんやこれって…めっちゃ、やばい気ぃする!!


『お父ちゃんの血ぃが流れてんねんで?』


お父ちゃんの声が聴こえた気がして、俺はまだ夢ん中なのかと、目元を擦った。


西園寺を見ると、彼は彼女を切ない目ぇで見つめとった。

俺は、なぜだかその視線をこっちに向かせたくて、また話しかけた。


「あの…さ、西園寺さんのことも、もう少し知りたいんですけど」

「“朔耶”でいいですよ。呼び辛いでしょう?」

「…じゃ…さ…朔耶さん…」


なんやこれ!?なんなんこれ!?
名前呼んだだけやのに、めっちゃ甘〜い気分になっとる!!

俺、やっぱり変やぁ!!


「…僕のことをお知りになりたいなら、まず、この屋敷を探して貰えませんか?僕の出生の事が書かれた、母の日記があるはずです」

「日記?」

「ええ。多分、2階のどこかの部屋に…」

「それを探して、朔耶さんにお渡しすればええんですね?」

「…というより、天魔さんに読んで頂きたいのです」

「俺に?いや、人の日記読むのは…」

「母は既にこの世には居ません。この屋敷にはもう、僕と彼女だけ。遠慮は要りません。僕の出生の秘密を知っていたのは、母だけです。母が亡くなる寸前、日記を探して処分して欲しいと言われたけれど、そのすぐ後に、ある人物によって僕はこの様な姿になりました。だから、詳しい内容を知らないのです」

「朔耶さん…あなた、殺されたんやね?」

「ええ…でももう、それはどうでもいい。その人ももう居ませんから…僕は、自分のことを知りたい。そして、それが天魔さんのお仕事のお役に立つのなら、あなたにその日記を託したいのです!」
「朔耶さん……分かりました。探してみましょう!」

「ありがとう!!お願いします!!」





つづく


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