続・KinKiと愛と妄想と


2013/06/27 12:59 :小説
〈愛涙華〉第1話

「て〜んちゃん!!何読んでんの?」

「うわっ!!ビックリするやないか!!」

「ちょっとぉ!!あたしはオバケじゃ…えっ!?やだ、天ちゃん、泣いてんの?」

「な、泣いてなんかおらへん!!」

「うそ!目が真っ赤!!」

「ちぃと目ぇにゴミ入っただけや!!」


嘘やった。
俺は読んでいた本にズップリ入り込んで、不覚にも泣いていたんや。


「どんな内容の本なの?面白い?」

「たまたま本屋行ったらこの本見つけて、なんや分からんけど、いつの間にか買うててんけど…」

「へぇ〜…でもそれって、やっぱりまた呼ばれたんじゃなぁい?」

「あ、あほ!!変なこと言わんといて!!」


いや多分、呼ばれたんやろなぁ…。
これは実話を元に本にしたもんみたいやから…。

この人…成仏しとらん気ぃすんねんなぁ…。
どんな未練あんのか、分かって欲しい言うとんのやろか。
俺の場合、その気になれば、知るのに時間はかからへんねんけど…。

せやけどなぁ…。
やっぱ、めっちゃ怖いねん!!

人間も怖いけど、オバケはんは、もう人間やのうて霊魂になっとんねんで?

いや、普通に往生して亡くなった人はええねん。みんな穏やか〜な顔してはるし、オバケはんでも、まあまだマシや。

問題は…やり残したことぎょうさんあったり、未練があったのに、不慮の事故や誰かのせいで命を絶たれてもうた人なんや。

この人もそうなんやろか…?

いややぁ!!
やっぱ、会いとうないわ!!

せやけど、呼ばれたっちゅうことは、俺が何とかしてやらなあかんのかなぁ。


「ねぇ、その本、読ませてくれない?」

「いや、あかん!!この本には、いろんなもん憑いとるから」

「ほらぁ、やっぱりそうなんだ!!天ちゃん、また成仏させてあげるんだね!?」

「いや!!そん……う〜ん…」

「今度はどこ行くの?あたしも行きたいなぁ」

「まだ分からへん…いや、あんた連れて行ってどうすんねん!?」

「何か役に立つかも知れないでしょ?あたし、天ちゃんの役に立ちたいの!!」

「要らん要らん!!むしろ危ないし!!」

「申し訳ありませんが、御依頼でなければ、部外者はお引き取り下さいません?ここは職場ですので」

「あっもう帰って来ちゃった…いいじゃない、ヒマそうだし?」

「暇じゃありません。依頼は溜まってるんです。ただ、社長がなかなか腰を上げてくれないだけです」

「旭くん…相変わらずきっついな…」

「だから!この子の代わりにあたしを雇ってよ!!」

「そんな訳には…」

「お引き取り下さい」

「なによ!!天ちゃんを独り占めしないで!!」

「はぁ!?何を言ってるんです!?」


女同士のバトルが勃発しかかっているのを後目に、俺はまた、この本に描かれた人物に想いを馳せていた。


…お父ちゃんが夢に出て来てくれたら、もう少し詳しく分かるかなぁ…。


しかし、俺のそんな心配は要らなかったらしい。



それは月がめっちゃ綺麗な晩。

ふと、どこからかピアノの音色が聴こえてきて、その音を辿るように、月が蒼く照らす夜道を、俺は歩いていく。

気が付くと、突然目の前に、古くてでっかい洋館が現れて、ピアノの音はそこから聴こえてたんや。

俺は誘われるように、その洋館の、これまたでっかい扉の前に立ってた。


「す…すいませーん!!こんばんはー!!」


応えは無かった。
めっちゃ怖かったけど、チャイムもあらへんから、取りあえず思いっきりノックしようとしたら、扉が勝手に内側に開いたんで、俺は勢い余って、転がるように中に飛び込んでもうた。


「おっとぉ!!おっ、お邪魔しま〜す……あれ?…」


そこには…誰も居らんかった。
だだっ広いエントランスホールがあるだけや。

めっちゃ高そうな調度品や彫刻とかがあって、灯りの無いシャンデリアが、高い窓からの月の光でキラキラしとった。

ほんま【別世界】とは、こういう所を言うんやろう。

月明かりだけやったから結構暗かったが、よう見ると、ど真ん中にでっかい階段がある。
俺の今までの行動範囲にある建物とは、とことん造りが違う。
なんもかんもが規格外や。
相当な金持ちが住んどるんやな。


さっきのピアノの音は、まだ上から聴こえてくる。
俺は恐る恐る階段を昇って行った。

2階の長い廊下を、辺りを窺いながらビクビク歩いていくと、音色は、一番奥にある扉の中から聴こえて来るのが分かった。

俺が扉の前まで行くと、綺麗なピアノの音は、急に途切れた。


う…うわぁ、めっちゃ怖い!!
どんなオバケが出て来るんか分からんし!

そや!!
こんなお城みたいな洋館に住んどるんやったら、もしかして外人さんのオバケちゃうんか!?
俺、英語しゃべられへんやん!!
関西弁しか知らんし、外人さんとなんか、よう話し出来ひんもん!!

無理無理!!帰ろ!!


俺は踵を返し、長い廊下を戻る。

いや、2、3歩戻ろうとしたら、いきなり首根っこ掴まれたみたいに引っ張られ、さっきの扉に叩きつけられる!!

…と、目を瞑って身を竦ませたが、想像した衝撃は来なかった。

確かに背中に何かが当たった感触はあったんやけど、無機質の硬さではなくて、もっと質感の違う何かやった。


「いらっしゃい」

「ひゃあっ!?」


いきなり耳元で声がして、俺は飛び上がった!!


「そんなに驚かなくても…」


また声だけが聴こえた。

あっ、そや、目ぇ開けんとなんも見えへんやん!

ああ、せやけどきっとこれ、オバケやで!!
怖いよぅ!!


いっつもオバケに会うては気絶してまう俺は、それを覚悟しながら、ようやく恐る恐る目を開け、ゆっくり振り向いた。


「っ!!!きゅ〜…」


俺は…なんで気絶したんやろ?
振り向いた俺の視界に入ったんは、めっちゃ綺麗な人やったのに…。

ああ…そっか…やっぱり、彼もオバケはんなんかぁ…。

俺は、妙に残念な気持ちになっていた。



静かなピアノの音色で俺は目覚めた。

薄く目を開けると、ピアノを弾いているのは、さっきの綺麗な人やった。

クラシックな衣装じみた黒いスーツを着て、彼は美しい曲を弾いていた。

俺はピアノの曲なんかよう分からへんけど、なんや、胸が切なくなるような曲やった。


「目が覚めたね。良かった」


彼は俺を見もせんで、ピアノを弾きながら話しかけてきた。


「あ…すみません…」


俺は寝かされていたソファに座り直した。
もう、不思議と怖いとは思わなかった。


「ピアノ…お上手ですね」

「ありがとう」


彼の演奏はピアニストばりに上手かった。
あ、もしかしてほんまにピアニストなんかな?


「そうです。僕はピアノを生業にしていました」


俺の心の中の呟きが、彼には聴こえてまうようやった。

彼はようやく弾くのを止め、俺に向き直る。


「あなたのように、僕を…僕の存在を感じて下さる方をお待ちしていました。本当に…気の遠くなるような長い間…」

「…あの…あなたはもしや…あの本の?」

「ええ…あなたがやっと本を手に取って下さり、僕の存在に気付いて下さったから、僕はあなたに逢えたのです」

「なるほど。やっぱりあなたが僕を呼んだんですか。えぇと…という事は何かやり残した事があるんですかね?」

「…確かにあります……ピアニストとして、僕はまだ大成してはいなかった。もっと素晴らしい演奏をして、認められたかった……ピアノに…」

「ピアノに?誰かや世間にやなく?」

「僕は…このピアノに…認められたかったのです」


彼は指先でピアノに触れた。
愛しそうに…ほんま、恋人にでも触るように…。


「このピアノには…魂が宿っています…僕の愛する人の魂が…」

「……た…確かに…そのピアノにも…誰か居てる…」


そうや。
あの本を読んでいくうちに気になったんが、一つやない、二つの魂やった。
ピアノをよう視ると、彼と並んだら、きっと一幅の絵画になるんちゃうやろかと思うような、ドレスを着た外人の別嬪さんが居った。


「分かりますよね、あなたには…僕を感じて下さったあなたなら…」

「わ…分かるけど……あなたは…僕にどうして欲しいん?」

「僕達ふたりを…一緒にして欲しいのです」

「え…いや、物に執着して憑いてもうたもんは、そう簡単には捕れまへんで?俺には…」

「出来るはずです。あなたなら…」

「…ほんならまず、彼女の執着を取り除かなあかんやん。そもそも、彼女はどこの誰さんなん?…あなたは日本人みたいやけど…日本語流暢やし…彼女は、喋れるん?」

「いえ…実は、僕も彼女と話したことはありません。このピアノを手に入れた時、彼女は既にここに居ましたから…」

「えっ!?ほんなら、彼女はもともとあなたの恋人やったんちゃうん!?」

「ええ…僕自身、彼女がどこの何者なのか…分からないのです」

「ええっ!?そないな話なら、俺には無理やで!!彼女の未練取ってやることなんて!」

「そうなのですか?あなたでも?」

「俺でも…て……あなた、俺のこと、なんも知らんでしょ?」

「知りません。でも、僕には分かる。あなたなら、僕を助けてくれると…」


彼にじっと見つめられ、俺はドキッとしてもうた。
彼は男やのに!

そりゃ、下手したら女の子よりも綺麗やけども……。

いやいや、あかんあかん!!
男やから!!


俺は少しばかり混乱した。

せやけど、きっとこの時、俺は、彼の望みを叶えてやりたくなってもうたんや…。





つづく



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