続・KinKiと愛と妄想と


2016/05/17 18:00 :小説
〈君が生まれた日〉2



カタン……
カチャ…カチャ…


「…んん…」

微かな物音に意識が浮上する。


あ…れ…
俺、寝てもうたんか?…


ぼんやりと今の状況を把握した。


「こーちゃん?起きたん?」

え…?

「つよ…し?」

「遅なってごめんな」

俺は飛び起きるように、体を起こした。
俺の体に掛けられてたブランケットがずり落ちる。

「あ…これ…掛けてくれたんか…」

「桜が咲いても、まだ夜は肌寒いで。そんなとこで寝とったら風邪ひくわ」

剛がやんわり微笑んだ。

「ありがと……あっ」

俺は思わず時計を見た。

23時38分。

うわ…ぎりぎり…間に合うた?


「つ、剛」

「ん〜?」

「あの……あれ?どこいった?」

手に持っていたはずの紙袋が見当たらない。

焦って、ブランケットを広げてパタパタ振る。
紙袋が転がり落ちた。

「あったぁ!」

あっ、割れへんかったかな!?

「ああ…それ、どかしとこ思ったら、お前、ぎゅっと握って放さへんかったから、そのまま一緒にブランケット掛けといたわ」

「…剛!」

「ん?」

「お…おっ…お誕生日おめでとう!!」

俺は、紙袋をずいっと剛に向かって差し出した。

「え…あ…ありがとう」

剛は眼を見開いてから、照れているような笑顔を見せて俺に近付いて、両手で袋を受け取った。

「…なんやろ?開けてええ?」

「ん」

俺が頷くと、剛は俺の隣に胡座をかいて座り、ガサゴソと紙袋の中を覗き込んだ。


あれ…なんやろ…
デジャヴ…?

ああ、去年のコンサートや…


「剛、ステージやないねんから、ちゃんと出して開けぇや」

「そやねんけど。なんや、すぐ出すのもったいないねんもん。光一がプライベートでバースデープレゼントくれるやなんて、いつぶりや?ドキドキしてまうやん!」


いや、俺の方がめっちゃドキドキしとるから、もう黙って早よ開けてくれ!


剛はようやく紙袋から包みを取り出して、丁寧にラッピングを外す。


ドキドキドキドキ…


「あ〜…えと…気に入らんでも返さんでな?」

「返すか、お前のくれたもんやのに……おお、綺麗やなぁ!」

俺の選んだプレゼントは、クリスタルで剛の好きな“龍”を象った1点物の置物やった。

実用的なもんとか、アクセサリーとかが良かったかなとも思うたけど、もう色々持ってそうやし、迷いに迷ってこれにした。

それに…その龍の眼が他のもんと違て優しげで、なんとなく剛に似とる気がしたから…。


「ありがとう。大切にするわ」

剛は俺に笑いかけて、早速それを他のクリスタルと一緒にそっと並べ、満足そうに笑う。

そしてまた俺の隣に座ると、俺を抱き寄せて、優しく髪を撫でた。


気持ちいい…
剛の手でこうされるの、好きや……


剛の顔を見ると、瞳が熱っぽく潤んで俺を見つめとる。

「光一…今日、泊まっていくやろ?」

剛の表情で、その問いかけの奥の意味を理解した俺は、顔が熱くなる。

きっと真っ赤になっとるやろな。

剛の部屋へ来れば、そういう事に及ぶやろとは思うたけど、改めて訊かれると照れくさい。

「えっと…」

えぇ…なんて応えたらええの?


口ごもっていると、もうひとつ思い出した。

「あっ、そうや!!メシ!!俺、作ったん!!」

「うん、ありがとう。ほんでな?俺、お前がうちにおるから思うて食事せんで急いで帰って来て、めっちゃ腹減っててん。ほんまはお前と一緒に食べたかってんけど、あんまり美味そうなんで、お前が起きるの待てへんくて食べてもうた。ごめんなぁ。お前の生姜焼きめっちゃ美味かったで!ほんまに今日は特別な誕生日になったわ。ありがとうなぁ、光一」

見ると、テーブルの上の料理はひとり分になっとった。
剛が食べて、既に食器も洗ってもうたらしい。

「美味かったんなら良かったわ」

「こーちゃんも食べや。今あっためてきたるから」

剛は生姜焼きの皿とご飯を持って、キッチンへ行った。

俺は、ほっと溜息をついた。


良かったぁ…
ちゃんとおめでとう言えた…

あれ…?
せやけど、なんで剛、俺がここにおるのわかったんやろ?


剛が温めてくれた料理を食べて、地酒もふたりで呑んだ。
剛が、いつの間にかつまみを作ってくれてた。

逢えなかった間に起こった事や下らない話をしながら笑い合い、こういうゆったりとした時間をふたりきりで過ごすのは、ほんまに久しぶりなんやと気付いた。

呑みながら、剛に訊いてみる。

「なあ剛。俺なんも言わんかったのに、なんで俺がおるん知っとったん?」

「んふふ。そりゃあなた…やっぱ、以心伝心?」

「…嘘やろ」

「ふふ…お前、この前訊いてきたやん。俺が東京におるかって」

「そうやけど…」

それだけで?

「あと…俺のマネージャーに仕事の終わり時間訊いてきたやろ?」

「あ…」

筒抜けやったんか。

「お前が待っとるて思うたら、早よ帰りたくてしゃあなかった。思わず俺も、お前の明日のスケジュール確認しとったで」

「ほんま?」

俺はそんなん知らんかった。

「ほんま。やって、絶対無理やもん」

「なにが?」

意味が解らず思わず訊き返した。

「お前から誕生日に何かしてもろたりしたら……手ぇ出さんといられへんやん」

「…え……あっ…あほ!!お前酔うてるやろ!?あ、もう寝る時間やないんか!?ほら、眠いやろ!?」

「いやいや、今日は全然眠くあらへんわ。久しぶりにこーちゃんがこんな近くにおって、興奮しとんのやろか。んふふふ!」

「なっ…おわっ!?…んっ…」

何を言うとるんかと焦って離れようとすると、剛が本気だと言うように俺の体を引き寄せて抱きしめ、激しく口づけてきた。

剛の舌が俺の口に入り込み、中を侵していく。

体が震えて力が抜ける。


あ…熱い……

溶けそう……


「…光一…こぉ…いち…」

キスと呼吸の合間に俺の名を呼ぶ剛の、普段とは違う、急いて切羽詰まったような濡れた声音…。

俺の耳は、やがてその声だけしか聞こえなくなっていく。

剛の唇と舌と指で体中を愛撫されて、感じない部分なんか、きっともうどこにも無い。
それだけ俺の体は剛の愛し方に慣れ、今は剛しか欲しくなくなってもうた。

そうや。

剛しか要らない。

他の何を失ったとしても、それが剛を失わんためやったら……
きっと俺は…耐えられる。


それでも構わないくらい…

俺は……
こいつを愛してる……




お前の生まれた日

逢えない時のほうが多いけど…

俺は毎年想っとる





誕生日おめでとう



生まれてきてくれて……

俺のところにきてくれて……



ありがとう






おわり





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