続・KinKiと愛と妄想と
2016/05/02 22:29
:小説
〈君が生まれた日〉1
「今年の誕生日は、お前と一緒に過ごせたらええなぁ」
剛がそんな風に呟いたのは、番組の撮影中に俺が剛にバースデーケーキを贈った後やった。
ロケの前に、スタッフから、オンエア日が4月10日やと聞いた。
「剛の誕生日やん!そうかぁ。やったら、剛にケーキでもあげた方がええんかな」
俺の言葉を聞いたスタッフが、
「この商店街に洋菓子店ありますから、買って来ます」
て言うてくれたけど、せっかく剛と一緒におるんやし、プレゼントはあらへんけど、たまにはケーキぐらい自分で買うてやろうかと思うた。
やから、撮影のタイミングを見計らって、スタッフにケーキ屋に連れて行ってもらうことにしたんや。
ロケは順調に進んで、後はエンディングを残すのみ。
もうこのタイミングしかあらへん。
「ごめん!ちょぉトイレ行きたなってもうた!」
「えぇっ!?もうエンディングなのに〜」
ゲストの芸人さんも、事情を知っとる筈のスタッフや集まってきたギャラリーも笑ってたけど、しゃあない。
「我慢できひんねん!」
「あか〜ん!!早よ光一連れてったってぇ!!」
剛もくすくす笑いながら言うた。
「じゃ、こちらへ!」
前もって打ち合わせしたスタッフに連れられて、俺はその場を離れた。
剛達が見えなくなって今更気付いたことを、スタッフに言うてみる。
「エンディング撮る場所にも、ケーキ屋あったやん」
「そうなんですけど、完全にバレます!」
「まあ、そやな。あ、ここ?」
「はい」
俺が直接ケーキを買うところを撮っておきたいということで、カメラさんも一緒に来とった。
カメラを向けられながら、俺はショーケースを覗き込む。
あっ、予約してへんかったよな
バースデーケーキっぽいのあるんやろか?
ちょっと心配したけど、すぐ目についたのが、俺らの番組に相応しい名前の付いた車型のケーキやった。
「あっ、これええやん!これにしよ♪すいません、これください」
「はい、“ぶぅぶぅショートケーキ”ですね。ありがとうございます!」
「あの、誕生日用なんですけど…」
「でしたら、お名前をお入れ出来ますが」
「あ、じゃあ“つよし”って入れてください」
「“つよし”さんですね。漢字は…」
「あ〜、ひらがなでいいです」
「わかりました。少々お待ちください」
店員さんがケーキを持って、店の奥へ入っていった。
待っとる間、スタッフと話しながら、落ち着かなくケーキを眺めた。
甘党の剛が好きそうなケーキが、めっちゃ並んどる。
「俺は甘いもん苦手やから、仕事以外であんまりケーキ屋来たことあらへんけど…こんないっぱいあったら、剛やったら迷うやろなぁ」
「そうですね」
「ああ、なんやドキドキしてきたわ」
「え〜?、剛さんに対してもそうですか?」
「ん〜、俺、あんまりこうゆう事せえへんからなぁ」
「じゃあ、剛さん喜びそうですねぇ」
「そ、そうかな。へへっ」
ケーキの代金の支払いを済ませ、スタッフがケーキの箱を隠し持って現場へ戻った。
エンディングの撮影中、俺はソワソワしながらケーキを渡すタイミングを計る。
終了直前に、ようやく剛にケーキを渡して、なんや『任務完了』みたいな気がしてホッとした。
その時の、剛の照れて嬉しそうな顔を見て、今日渡せて良かったなって思うた。
収録終わりにロケバスん中で、隣に座った剛が、にこにこ笑いながら俺に話しかけてきた。
「ほんま、ありがとうなぁ。お前がこんなサプライズしてくれるなんて、びっくりしたけど…めっちゃ嬉しかったわぁ」
大切そうにケーキの入った箱を抱え、眼をキラキラさせて俺を見る剛に、俺の方が照れてまう。
「い…いや、急遽やからプレゼントもあらへんし…」
「これで充分や。お前がバースデーケーキのこと言い出して、買いに行ってくれたって聞いたで?」
「うん…」
「そんなん嬉しすぎるやん。そうゆうお前の気持ちがめっちゃ嬉しいねん。ほんま、ありがとう、こーちゃん」
剛が俺を見つめて、優しく微笑んだ。
こんなに手放しで喜んでくれると思わんかったから、俺はまた照れくさくなって眼を逸らしてまう。
気付いたら、俺の手に温かいものが重なってきた。
剛の手やった。
そして、俺の手をぎゅっと握って言うたんや。
「今年の誕生日は、お前と一緒に過ごせたらええなぁ」
誕生日とはいえ、きっと剛も仕事は入っとるやろし、俺も今は公演中やけど、そろそろふたりの仕事の予定も聞いとる。
多分剛の誕生日の頃には、色々やらなきゃならない事が山積みやろ。
それに、ふたりの仕事や言うても、ずっと一緒におってやっとるわけやない。
それぞれに宿題を持ち帰って、別々にやる事が殆どや。
曲選びひとつ取ってみても、膨大な候補曲を聴き込んで、コンセプトに合う曲をピックアップする作業はひとりずつでするし、まして合作曲を創るとなれば、どちらかが先に詞なり曲なりを上げて、もうひとりがそれに肉付けしていく作業も、結局は単独で行う。
そう言えば、以前の剛は『ふたりの合作曲をもっと創りたい』て良う言うてたけど、最近は殆ど言わなくなったな。
俺がなかなか腰を上げへんからというのもあるが、提供曲に良曲が多かったりするから。
それでも時折、思い出したように言う。
「なあ…そろそろ、ふたりで創ってみいひん?」
やのに、増えていくソロ活動に圧されて、ますますそこまでの余裕がなくなっていった。
そんな今の状況で、誕生日に一緒にいられる可能性は少ない。
やから剛は「一緒にいよう」と断定的には言えなかったんやろな。
でも…今年は…“ふたりの年”やから……
俺は、その時もう決めていた。
俺の舞台公演期間も終わり、2週間ぶりに会った剛は、いつもと変わらず穏やかに俺を見る。
「なあ剛、明後日仕事?」
「ん?…ああ、そやな」
「でも東京にはおるんやろ?」
「うん。なん?珍しいな、俺のスケジュールなんて訊いて」
「いや、別に、なんとなく…」
「なんやねん、んふふ…」
やべ、気付かれたかな?
一瞬そう思うたけど、その後剛はなんも言わんかった。
よし!
準備は出来とるし
大丈夫やろ!
そして、今日は剛の誕生日。
俺のマネージャーに頼んで剛のマネージャーに連絡をとってもらい、仕事が何時頃終わりそうかを訊いた。
充分間に合う時間やったんで、安心する。
俺は自分の仕事が終わると、先回りして剛のマンションへやって来た。
合鍵は前に渡されとったけど、使うのは初めてや。
剛が俺のマンションへ来ることの方が多いし、たまに俺が剛のマンションへ行く時は、一緒に行くか、剛が出迎えてくれてたから。
マンションの入口で鍵を使う時から変な緊張感があったけど、部屋に入ると剛の匂いがして、ちょっとだけ肩の力が抜ける。
リビングに入り、床のラグの上に座って、改めて部屋の中を見回した。
久しぶりに訪れた部屋には、前にも増して沢山の物が置かれ、飾られとった。
でも決して煩雑過ぎるわけでもない。
置かれている物も、自然の木やったり、色んな花やったり、大小様々なクリスタルやったり。
今の剛らしい部屋やなって感じた。
色彩は多いけど、居心地は悪くなかった。
もうすぐ剛が帰って来る筈や
俺がおったらびっくりするやろか?
誕生日やし、ちょっと時間遅いけど、なんか飯でも作っておいた方がええかな?
肉でも買うてくれば良かったなぁ…
俺は、手持ち無沙汰に、持ってきた紙袋を弄りながら少し考え、冷蔵庫を覗きにキッチンへ向かった。
結構色々入っとるなぁ
おっ、豚肉もある!
よぉし、定番やけど、特製生姜焼きでも作ったろか!
冷蔵庫から肉と野菜を少し取り出し、下ごしらえをして、フライパンで野菜を焼いて取り分けた。
時計を見ると、そろそろ剛が帰って来そうな時間やった。
ほんまは、食う直前に肉焼いた方がええねんけど…
ま、ええか!
もうすぐ帰って来るやろ
焼いてまえ!
肉を焼くと、生姜と醤油のいい匂いが漂う。
あ、そういや俺、今日ちゃんと飯食うとらんわ
めっちゃ腹減ってきた!
テーブルに出来上がった料理を運び、冷蔵庫にあった冷凍ご飯も温めて、持ってきた飲みやすくて美味いという地酒を置いた。
剛、最近日本酒好きや言うてたからな
準備万端で、剛へのプレゼントを膝に抱えて座った。
めっちゃうまそやでぇ、剛!
早よ帰ってけぇへんかな
へへ…ドキドキすんなぁ
ところが、それから1時間近く待っても、剛は帰って来ぇへんかった。
誕生日やから、仕事仲間と食事やら飲みに行ってもうたんかなぁ
やっぱ、連絡しとくべきやったかぁ…
せっかく飯作ったのに、冷めてもうたわ…
剛んちの材料で作ったのに、俺ひとりで食うてもうてもなぁ…
俺はかなり落胆して、プレゼントを抱えたまま、ごろんと横になる。
ああ、やっぱ“サプライズ”なんて慣れへん事、そうそうするもんやないなぁ……
つづく
b o o k m a r k
p r e v n e x t