続・KinKiと愛と妄想と


2013/07/24 20:32 :小説
〈天使への伝言〉第1話

「失礼します。あのぉ…すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

「は〜い!!すみませんね、今、料理してて…」


俺は、キッチンからお玉を持ったまま、慌てて走り出たんやが…。

入口に立っとったのは、数ヶ月前、事務所の外でぶつかった男やった。


「……お似合いですね、そのエプロン…」


俺は、ハッと気付いた。

せやった!!
エプロンしとったんやった!!
しかも、旭の持って来てた、フリフリピンクのエプロンを!!

客は、明らかに笑いを堪えた表情をしとる。
俺は慌ててお玉を置き、エプロンを外した。


「えっと…確か…あなた探偵さん…でしたかね?」

「はい!!覚えていて下さったんですか!!嬉しいなぁ!!」


コイツ…ほんまに嬉しそうな顔しとんのやけど…。


「お名前は…なんて仰いましたか?」

「神屋です。神屋湊」

「ああ…。それで、探偵さんがうちにどんなご用件で?」

「…ええ…実は…どうやら僕は…幽霊に取り憑かれてしまったようなんです…」


これは、詳しい話を訊かなあかんようやな。



とにかく探偵にお茶を出して待たせ、俺は一旦キッチンへ戻る。

もうちょっとで、美味い(はずの)カレーが出来上がるとこやったから。


それにしても、せっかく俺がたまに料理しとんのに、旭も慶三さんも、なんで2人で居らへんねん?
いったい、どこ行っとんねん!?
なんで俺、ひとりっきりで料理作ってんねん!!


…て、ボヤいとったんが、さっきまでの俺やった。


そや!!
これ、あの探偵にも食わせたろ!!
カレーは、ちまちま作るより、鍋にいっぱい作った方が美味いから、こんなに作ってもうたんやしな!


俺は、ちょっとだけ機嫌良うなった自分に気付いて、なんや自分自身に言い訳しとった。


「いい匂いですねぇ!カレーですか?」

「もし昼食まだでしたら、あなたもご一緒に召し上がりませんか?」

「えっ!?いいんですか!?」

「ええ。たくさんありますんで…あ、味は保証しませんけども」

「え!?カレーですよね?市販のルーを使ってるんじゃないんですか?」

「市販のもベースに使てますけど、他にスパイスをブレンドして入れてるんです」


探偵の目が丸くなった。

なんやなんや…めっちゃ可愛らしいやないか!


「スゴイですね!!うわぁ、ぜひ食べてみたいです!!」

「じゃあ、ちょっと待ってて下さい」

「あ、ご迷惑でなければ、何かお手伝いしましょうか?」

「ええですよ!!お客さんにそんな事させられませんわ」


…なんや俺の中で、この探偵の印象が、グングンうなぎ上りに良うなっとんのやけど…。


探偵は、俺がカレーを運んでくるのを、相当嬉しそうに眺めとった。

瞳がキラキラしとる。

カレーに期待しとんのかと思ったが、彼が見とんのは、どうやら俺の方らしい…。


まさか俺……惚れられた?



「…どうですかね?味は…?」


俺はドキドキしながら訊いた。


「美味しいです!!めちゃめちゃ僕好みの味ですよ!!」

「それは良かった!!」


気持ちええくらいに、パクパク食べてくれる探偵を、俺は自分が食べるのも忘れて、ぼーっと眺めとったらしい。


「…あの……僕の顔になにか…?」

「え…あっ!!いや、なんでもないです!!ええと、お、おかわりはいかがですか!?」

「…でも、法界さんの分が無くなってしまいますし」

「たくさん作り過ぎたんで、大丈夫ですよ。遠慮は要らないですから」

「本当に遠慮しなくていいなら…ぜひ、おかわりをお願いします!」

探偵も俺もおかわりしたんで、鍋の中には2人分くらいのカレーしか残らんかったが、まあ、こんだけあれば、あの2人の夕食にはなるやろ。



「ごちそうさまでした!!」


手を合わせて目を閉じる探偵を見て、改めて、彼がかなりのイケメンなのを再確認した。

めっちゃ色白で、睫もそこそこ長くて、鼻は高く、口元はちょっとぷっくりと肉感的な…。


ほんま、前に会うたことあらへんのかなぁ?
もし会うとったら、あんまり忘れへん顔やと思うねんけどなぁ?

また、そう思うんやけど、やっぱり思い出せへんわ。



「では、改めてお話しを伺います」

「あ、すみません。すっかり寛いでしまって…」

「いえ、とても美味しそうに召し上がって下さったので、僕も嬉しいです」


俺がそう言うて笑うと、探偵は照れ臭そうに…せやけど、やっぱり嬉しそうな顔で微笑んだ。



「…実は最近…夢を良く見るんです…」

「夢?」

「いつも…多分、同じ男性が出て来る夢なんですが…」

「多分?…」

「ええ…なぜか顔が見えなくて…」

「……続けて下さい」

「夢の中で、彼がピアノを弾いていて…その音色を聴いていると、いつの間にか彼が僕の後ろに居て…僕を…抱きしめるんです…」


そりゃ、ホモか?
ああ、それとも、そんな夢見とる探偵がホモなんか。


「すみません。気持ち悪いですよね、夢とは言えこんな話…」

「いえ…」

「あ、別に僕は、ゲイとかそんなんじゃありませんから、安心して下さい!!」


おっと…コイツ結構鋭いんちゃうか?
まあ、探偵やっとるくらいやし、鋭くないとあかんか。


「大丈夫ですよ。喩えそうでも、僕は偏見は無いつもりです。それで、その夢はどうなるんですか?」

「…気が付くと…僕がピアノを弾いているんです。ピアノなんか、全く弾けない僕が…」

「…まあ、有り得ない事が起こるのも、夢ですが…」

「それで…その時、僕の頭の中には、3人の人物が入れ替わり立ち替わり現れるんですが…母親らしい日本人の女性と、もう1人外国人の女性……そして彼女達に対する気持ちとは、何だか微妙に違った感覚で…ある男性の顔が浮かんで…」


ふむふむ…。


「その男性を…僕は……『天魔』と呼んでいるんです」


俺は危うく、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになってもうた!!

『天魔』て!!…俺か!?


「そうなんです!!確かにあなたでした。お名前も同じですし…その時の“僕”は、あなたを思い出しているんです!!」


どういうことや!?
なんで、探偵の夢に俺が!?


「夢の中の“僕”は、僕であって僕じゃ無い。全く違う人物になっているのです。なぜなら、彼になっている間は、現代社会の事を何も思い出せないんですから」


マジか!?
もしそれが、幽霊の仕業なんやったら…。

俺にも、めっちゃ関係あるってことやんか!?


「法界さん。僕の言うことを信じて下さいますか!?」

「……信じます…」

「ありがとうございます!!…ここ最近は何だか眠るのが怖い気がして…あまり眠れないんで、仕事にも支障が出て来てしまって…」

「探偵さんですからね、気を張っていないといけない時も多いでしょう?」

「はい。それに…だんだん起きている間にも、不可解な行動をとっていることがあって…仕事が上手くいかず困っているんです。何とか、助けて頂けないでしょうか?」

「もちろん、どうやら僕にも関係ありそうですし…」

「ありがとうございます!!」

「しかし…かなり難しいですね……これは、あなたの夢の中に入れないと、解決出来そうに無いかも知れません…」

「僕の夢の中に!?」

「ええ。どうやって、それをやるか…」

「何でもします!!僕が出来る事は全てやりますから!!」


そりゃ必死やろな…。
探偵が自分で分からない行動しとったんじゃ、仕事にならへんもんな。


「分かりました。何とかやってみましょう。その夢の人物がいったい誰なのか…まずはそこからやなぁ」

「…その事で…もうひとつ、分かっていることがあるんです」

「え!?それを先に言うて下さいよ!彼が誰か分かるんですか!?」

「いえ…詳しくは……でも名前は…多分、分かります」


また“多分”か。

何でもええわ、教えといてくれへんか?


「名前とはどんな?」

「…“朔耶”…」

「“朔耶”?なるほど、変わった名前やな…」


探偵が、探るようにじっと俺を見つめている。


「…なんなんです?」

「…法界さん…この名前に、お心当たりは?」

「え!?」


なんやコイツ!?
急に探偵モードになったんちゃうんか!?


「……特にありませんが?」

「…法界さん……夢の中の“僕”をそう呼んでいたのは……あなたです!!」






つづく


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