お昼寝日和

2011.6.17 Fri 02:14 :本編
十二話、冷たいお茶と主の帰宅〜花芹〜

蒸し暑い、火の国の夏。
これまた暑い部屋のど真ん中。

…一匹の狐は頭を悩ませていた。

一匹の銀狐。花芹。

好きなものはお茶に茶菓子にお揚げ。
何より熱い茶が好きなのだが、こうも蒸し暑いと飲む気がなくなっていくのである。

広いお家をよっこらせと走り回り、ポットと急須と茶筒までは行ったものの引き返して来たのである。

暑い。面倒臭い。暑い。面倒臭い。
バテて、くったり倒れ込むのは主の布団の上。

大の字に寝転がり。
ひたすら主の帰宅を待ってみる。
…が、こういうときに限ってなかなか帰って来ないもので。
我慢の限界まで後僅か。

花芹は少々怒っていた。
最近、あまり相手にされていないからかもしれないし。
手元に冷たい茶も茶菓子もないからかもしれない。

この世界には「自動販売機」という画期的なものがあり。
そこからお金のかわりにお茶やジュースが出てくるのを知っている。

どうせ、主は帰って寝てしまうに決まっているのだからせめてお茶を持ってきてほしいのだ。

コロコロぽてぽて転がってみると「扇風機」というものにぶつかった。
刻朧にスイッチを押してもらい、皆して布団の上で涼んでみる。
多少生温いがそこには文句をいれない。
花芹は少しは空気を読める子だからだ。

やがて聞こえてくるのは。

………カツカツというパンプスの音。
次にガチャガチャという鍵を回す音。
扉がカチャリと開き…階段をドタドタのぼり……。

主が息を切らせて帰って来た。
主は住人を一匹ずつ拾い上げ『ただいま』と声をかけていく。
すると、つまみ上げられた先から花芹は見つけたのだ。
汗粒をたたえた冷えたお茶のボトルを…。

離せ離せともがく花芹を片手に、主が向かったのはさっきクーラーを入れたばかりのリビング。
「扇風機」とは違う風量を受けるためにテーブルに乗り上げる。

顔面から風を受け止めているとカラカラと氷の涼しげな音が耳に届く。

振り向くと冷たそうなグラスが側に置かれた。
それに注がれたお茶が美味しそうで頭から突っ込みそうになる。

頭を指で押さえられながら、器用に両手でグラスを傾け飲み干していくと。
自然と頬が緩んでしまう。

残暑の夕涼みに冷たいお茶添えて…銀狐のささやかな幸せ。
2010/08/20ログ


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