053.幽霊【学園的な100題】







悪夢にうなされて目覚めても

隣に心配そうにしている君がいるだけで

瑣末な恐怖はすぐに笑い話に変わった。





泣きながら見たことを話せば、

その側から君が笑い飛ばしてくれたから。







壁も床も広く思える闇深い部屋の中で

唯一絶対にして確かだった君のぬくい存在が

どんなに大きいものであったか。





もう大丈夫だと言って

抱きしめてくれたその優しさが

どんなに嬉しかったことか。





その腕の中でまどろみながら見る夢が

どんなに穏やかなものであったのか

ついぞ、君は知ることもないのだろう。





君が不安なときには

君がしてくれたように

深く確かに抱きしめ続けていたかったことも。





独りにしないでというワガママに

君が応えてくれていたことも

なんのかんのと言いながら

君が好いていてくれたことも





ひとり、暗い部屋で目覚めるようになって

ようやっと知った。





隣の部屋で何かが落ちた音に

外で騒ぐ陽気な気分の人たちの騒ぎ声に

無様にビクつく私の隣に





もう誰もいないことも。







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