ベロニカの虜01


なにも辛くないと思ってた。
気づいた頃には何もかもがそうなっていたから。
そう思って生きてきたのに、がらがらと崩れていく足元の瓦礫で潰れて死んでしまいそうになる。

ーーもう、やめてよ

からからの喉から絞り出した細い言葉も彼は笑って飲み込むのだ。
ここは酷く息が苦しくて、鼻の奥がツンとして、あたたかいから。



ベロニカの虜



「…ィ、リリィ、起きろってば」
「んんー?」

肩を揺さぶられ重たい瞼をなんとか持ち上げる。ぼやけた視界には桃色が揺れてる。

「授業、とっくに終わってる」
「うん…?ユーリィ……」

ユーリィと呼ばれた少年は桃色の髪に同じ色の瞳で呆れたように友人を見つめていた。
一見すると少女にも見える彼の声は紛れもない変声期前の少年のものだ。
グラウンドの遠くから聞こえてくる運動部の声、静まりかえった教室。
リリィは金髪についた癖を撫でながら、金色の瞳で窓の外を見やる。低い空、入道雲の立ち込める空。夏の空だった。

「ほら、リリィ。鞄」
「わ、ありがと、ユーリィ。オレの分も用意してくれたの?」
「適当に教科書詰めただけだけどな。それで大丈夫?」
「うん、へーきへーき」

本当なら教科書だっていらないくらいだ。
あの家に持って帰るものなんてない。
ただ、唯一の友人のユーリィにはそれを言いたくなくて、教科書は持ち帰ることにした。
誰もいない教室を出て、ああ、ユーリィはオレのこと待っててくれたんだなあなんてちょっと嬉しくなる。
その時だった。

「おい、リリィ」

背後から声がした。
その声に振り返ったユーリィが眉をしかめて、ひそひそ声でリリィに耳打ちする。

「あいつ…知り合いなの?」
「まあ、そんなとこ」
「あんま良い噂きかないけど」

ユーリィがリリィの前に一歩出る。

「放課後来いって連絡入れただろ?既読ついてねえけど。それともなんだ、今日はお前の代わりにこいつが相手してくれるのかよ」

ニヤニヤと笑う上級生の表情に黒いものを感じてユーリィはリリィの手を掴んだ。

「何言ってんのか意味わかんねえよ。行こ、リリィ。………リリィ?」

手を引いても金髪の少年は俯いて動こうとしない。

「ユーリィ、ごめん、先帰ってて。オレも先輩には用があるから」
「でも……」

何かおかしな雰囲気を感じているユーリィは心配そうに友人を見る。

「大丈夫だから」

にこりと笑うその顔は本当になんでもないことのようだった。それなのに、胸が痛い。
リリィは何か隠し事をしていて、それにいま線引きをされてしまった。

「……何かあったらすぐ電話して」

その場に立ち尽くすユーリィを残してリリィと彼を呼びにきた年上の生徒が上の階へ消えていった。





「んっ、んぐっ……ふ、はあっ…はっ…」
「口離すなよ。もっとちゃんと咥えろ」
「ん"ーーーッ!」

ドアの閉まった教室の中で三人の男子生徒がリリィを囲んでいる。
リリィは三つ編みにした金髪を引っ掴まれ、喉奥まで怒張した性器を突っ込まれて苦し気に呻くが抵抗はしていなかった。
足元まで下ろされたズボンが絡んでよろけそうになると、別の男が腰を掴んで支えた。
咥内を犯されている少年の後ろに自身のものを当てるとずちゅりと音を立てて飲み込ませていく。

「っ…!ふぅ、あ…っ!あぅっ、ん、」
「イラマしながらバックで犯すとかAVみてぇ」
「まあ、こいつ男だけどなー。ほら、休むなよ」
「ふぐっ、う…っあ!ん!」

教室の机を掴んで身体を支えているリリィが直腸を抉り揺さぶられる度に、机がギシギシと鳴る。
もう部活も終わったのか、外からはなんの声もしない。セミだけがまだジージーと低く鳴いていた。

「ホント、男でもイケるとは思わんかったわー」
「男といえばリリィと一緒にいたやつ…あいつも今度ヤッてみねえ?生意気でむかつくんだよなあ。こいつみたいに顔は可愛いしイケんだろ」
「っは、あ、ちょっと待ってよ…!ユーリィ巻き込んだら、あんたらとは二度とヤらないって…っうぐ、んんっ」
「ハイハイ。わかってますよー。リリィ君は金さえ貰えればなんでもするけど、お友達だけはダメなんだってな」
「リリィくんは友達思いでちゅねー」
「ふざけっ…んアァあっ!ひっ…ぃぐ」

S字結腸ギリギリのところを責められてリリィが喘いだ。金色が縁取る睫毛が震える。
脚ががくがくと震えて見開いた目から涙が溢れた。

「ハメ撮りばら撒くって言っても平気な顔してさあ。言いなりのおもちゃにしてやろうと思ったのに」
「まあ金さえ払えば言いなりなんだけど」

喘ぎながら、リリィは薄く笑っていた。








リリィが行為から解放された頃には陽はとっぷりと暮れていた。

「っはあ……腰いた…」

乱暴に掴まれて乱れた三つ編みを結い直して制服を着る。

「…最悪。あいつら、オレの制服汚しやがった…」

床に投げ捨てられた数枚のお札を拾い鞄を肩にかけて、重い身体に鞭打ち昇降口を目指した。
階段を三階下りた一番下で下駄箱で外履きに履き替えようとすると、誰か立っている。

「リリィ」
「ユーリィ!?こんな時間までどしたの!?」
「なんか様子変だったし…」
「えーそれでオレのこと待っててくれたの?」
「まあ…オレに言いたくないことなら別に無理に」
「ユーリィ!」

がばっとリリィがユーリィには抱きつく。
勢いよく全体重をかけられたユーリィは倒れそうになってよろめいた。

「ちょっ…リリィ、重い…!」
「アハっ!ユーリィかわいい!心配してくれてたんだー」
「ーー!!してない!帰る!」
「拗ねてもかわいいだけだよ!ほらほら、帰ろ!」

ふたりで帰路につく。
セミの声は止んで代わりに鈴虫が鳴いていた。アスファルトが熱を反射してむせ返るようだった昼とは打って変わり、肌に心地の良い風が吹いていた。




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