ルルーシュが無理矢理子守を押し付けて出掛けてしまってから1時間。俺は優雅に読書を満喫していた。
子守を押し付けられて多少戸惑いはしたが、考えてみたら別に積極的に面倒を見る必要など微塵も無いのだ。
いつも煩くだらけきっている荷物が大人しいのだから、なんならむしろ普段より手がかからないくらいだと言える。まあ普段率先して面倒を見ているのはルルーシュだから普段との比較などおおよその想定の上のものになるが。
休日のゆったりとした時間が流れる中、俺は数冊目の本に手を伸ばす。こういう穏やかな時間は嫌いじゃない。
が、
優雅な休日は僅か数時間のうちに傍迷惑なガキに妨害された。
「ぅ、…る 、るるーしゅ……みず、みずを…」
「……」
唐突にリビングの扉が開けられたかと思うとよたよたと今にも死にそうな顔をしてジュリアスが乱入してきた。
なんだコイツは。ただの微熱だろう。なんだコイツは。
フラフラした足取りではあるものの冷たくて硬いフローリングはしっかり避けて柔らかな三人がけのソファに倒れ込んでくるあたり本当に鬱陶しい。
水水うわ言のように繰り返すジュリアスに一瞥をくれてやると朦朧としたポーズ(に決まってる)のジュリアスがはた、と周囲に目をやった。
「うん?」
「……」
「ゼロ、ルルーシュはどこだ」
さっきまでの呂律の回ってなさはどうしたしっかり喋れているじゃないか。と思ったまま言葉を飲み込んで簡潔に答えてやる。
「出掛けた」
「なんだと?!」
このわたしが瀕死に面しているというのになんて薄情な事だ!この私よりも優先するべきことが他にあるとでもいうのか?!いや!無い!ルルーシュめ!そんな人間だと思わなかった!すぐに呼び戻せ!今すぐだ!
などときゃんきゃん喚くジュリアスは本当に煩い。外に放り出してやろうか。って言うかお前熱はどうした。元気じゃないか。
そのまま聞き流して読書を再開してしばらくすると耳障りだったジュリアスの声が聞こえなくなってやっと諦めたか、と向かいのソファに目をやるとリビングに現れた時と同じ様にソファに伏せったまま至極苦しそうな声で何やらブツブツ言っている。何なんだお前は。
俺の視線が自分に向いたことに気付いたのかジュリアスがさっきまでより少し声を大きくして更にブツブツ言ってきた。何なんだお前は。
「ぅ……ぜろ、…ぜろ…、っくっ…」
「……」
「しょくじを……ぜろ…はらがへった……」
「……」
何なんだコイツは。何度目かわからない事を思いながらそういえばそろそろ俺も空腹を感じていることに思い至って時計を見る。ちょうど昼時か。
どうせ自分の分も作るならついでにコイツにも食わせてやるか。不本意といえルルーシュに押し付けられたコイツに薬も飲まさなければ帰ってきたルルーシュに何を言われるか。いや決してルルーシュが怖いわけでは無い。そういうわけではないぞ。断じて!
「わかった。食事にするぞ」
「私は子牛のフィレステーキが食べたい。ミディアムレアでな」
「ビーフジャーキーでも齧ってろ」
食事の用意をするためにキッチンに向かいながら冷蔵庫の中身を思い返し、消化がよく栄養価が高そうなものを作るために頭の中のレシピを浮かべた。