「えへへ」
「何笑ってやがる」
なんでもないよ。なんでもないです。ただ、嬉しかったんだ。玄関を開ける直前よりも、今のほうがもっと、ずっと、好きになっただけです。
だから、ぎゅっと抱きついて、背伸びをして、爪先立ちしすぎて、本当に一瞬、激突みたいになったけれど、鼻先にキスをひとつした。触れるというよりも、ぶつかっただけのキス。
「海、行きましょう!」
「……」
「ぁ、ちょっと待っててください! 鍵を……はい、これでだいじょー、」
鍵をかけて振り返って、そして、またもっともっと好きになった。
「お前って、ホント」
だって、すごく嬉しそうに、どこか子どもっぽく笑ったりするから、いつも大人な雰囲気とあいまって、たまらなくドキドキさせられたんだ。