「・・・・・なんでよ」
低く渇いた声が出た。
貴方はどこか茫洋と立ち尽くし、押し黙ったままでいる。
「・・・・こんなのでいいの」
私はたぶん、何か言葉が欲しかった。
この有耶無耶な気持ちを納得させる、答えがあるなら伝えてほしい。

貴方はわずかに顔を上げると、やがて決心したかのように歩き始めた。
私の方へではなく、真っ直ぐにドアへと向かおうとする。

「ふざけないでよっ」
私はその腕を強く掴まえ、強引にこちらに向き直らせた。
「なんで?なんでそんな簡単に納得なんかできるのよ!?」

貴方は脚を止め、静かに私に視線を向けた。
私の目を真っ直ぐに捉える。
「・・・・これが、一番いい方法だ」

薄茶色の美しい瞳。
それが今は昏く苦しげに揺らめいて。

「ウソよ・・・・。・・・・何で・・・?」

良い方法って何なの。
他に方法はないのだろうか。こんな風に諦めてしまえるのは何故なの。
貴方にとって、私はその程度の相手だったということ?
貴方だからと思って。必死に受け入れて。少しだけ感動なんかもしていたのに。
だけど貴方にとっては違ったの。

もう飽きて、或いは失望して、私のこと、もういらなくなったとか。


・・・・・。

私は腕から手を離し、そっと一歩後ずさった。
強くて、優しくて、あたたかい腕。
いつの間にかこの腕に安心するようになっていた。
だけどもう。私の場所じゃない。
ずっと続いてゆくものだなんて、どうして思っていたんだろう。  

私が離れると、貴方ははっと顔を上げ、わずかに口を開きかけた。
だけど私は、そのままその場を走って逃げた。
ドアから廊下へ出てそれから外まで、ただ一心に走って逃げた。
急に怖くなっていた。 
ことばは怖い。
決定的な科白など、聞きたくない。