『好きだった』
自然とこぼれ出たそれは、過去形で。
砕けた恋を握りしめていたはずなのに、手の中にはもう何もなくて。
ただきらきらと、想い出ばかりが眩しい。
もし、恋をする事で動く時計があったとしたのなら。
誰かの為に泣いたり笑ったりしながら、その人の事を想うだけで幸せになったり、反対に醜い自分と出会ったり。
想いが届いてもそうじゃなくても、誰かを「好き」だと想う感情を、その時間を、刻む時計があったとしたのなら。
私の時計は、一体どれくらい進んでいるんだろう。
深く愛した分だけ、時計の進みが早くなる事だってあるのかもしれない。たった一人の人を、実際には短い時間で、だけど恋の時計なら一生分回してしまうような、そんな愛情や恋だってあるはずだ。自分が男でも女でも、相手が女でも男でも。
人は皆、それぞれ違う。誰一人として同じ人間なんていないし、愛情を図るコップの大きさだって、きっと違う。
だから私は私の持っている愛情で、そういうもので、進めた時計の時間は一体どれくらいなんだろう。
もし、恋をする事で動く時計があったとしたのなら。
今、私の時計は止まっている。
小さい頃からずっと好きで、ずっと一緒にいて、これから先もずっと一緒に過ごせる事を信じて疑いもしない、大好きな人がいた。
けれど、やっと世間的に大人になった頃に、その恋は終わってしまった。
友人は、私がその人の事を今でも忘れられないから、新しい恋を始められないんだと思っているようだけど、それは違う。強がりでも何でもなく、その人の事はもう好きじゃない。しばらくは落ち込んだけど、何年かして偶然再会した時、心は揺れなかった。
忘れられないんじゃない。ただ、面倒なだけ。だから誰が私の事をどう思っていようと、それは私にとっては至極どうでもいい事なのだ。
私の時計が動いた相手は、たった一人だけ。動かし方を、他に知らない。そしてその方法を模索するのはとにかく面倒なのだ。
友人は、探さなきゃ相手は見つからない!といつも言う。いくらそう言われても、私はそうは思わない。だって恋なんて、相手を探してするものではないでしょう?心配してくれているのはよく分かってる。花の二十代に、咲かなくてどうする!その意味もなんとなく分かる。まぁ、そういう事が全部どうでも良くないと思えた時に、また恋が始まればいいな、そう思っていたんだ。
もし、恋をする事で動く時計があるとしたのなら。
私の時計は、いつから動き始めていたと思う?