「ほら、鍵開けろ」
促されて、久しぶりの我が家の鍵を開く。
私の荷物の殆どをキミが持ってるから仕方がないんだけど、彼も部屋に入ってくる。
私の着替えなんかも持ってきて貰うのに、鍵を渡して勝手に入ってもらったりはしているけれど、やっぱり二人きりになると、どうしても緊張してしまうもので。
「あー、何か帰ってきたなって感じするわ」
「ふふっ、何それ。ここ、キミの家じゃないでしょ」
荷物を下ろして、寛ぐキミの言葉に私は笑ってしまった。
キミは、そうじゃないって、と、私を見る。
「お前が、ここにいてやっとお前の部屋なんだよ。お前が帰ってこない間は、少し空虚で……」
ああ言うのを、寂しいって言うのかもしれない。そう、小さな声でキミは呟いた。
たった、一度しか私の居る家に入ったことはなかったのに、そう感じてしまう何かがきっとキミにはあったんだと思う。
私を、愛してくれると言うの?
そう、真っ直ぐ問いかけると、当たり前だろう、と少し強めの言葉が返ってきた。
「私は、たぶん面倒な人種だと思う。きっと、キミに依存してしまう。キミに捨てられたら、一人でなんか生きていけない、死んでしまう。それでも最後まで、キミは傍に居てくれるというの?」
「初めからわかってる。お前ほど、卑屈で面倒な存在はいない。けど、俺がお前を手放すなんてありえない。それでも、お前がいい。お前が全部欲しい。依存しろ、俺だけを求めて、俺だけに縋って、俺だけを見て、笑え」
どうしようもなく、惹かれた。本能が警告しても、その手を手放せなかった。
真っ直ぐ、見つめられるそれに、私は初めて笑って、彼の顔に近づく。
「なら、私をキミに全部あげる。その代わり」
ちゃんと、愛してね?
ああやっぱりこの男は苦手だ。
こんな時に口にする名が私の名前ではないのだから。呼ばれたその人は私ではないのだから。
甘美な心地に混ざる苦さに私は気づかないふりをする。
久しぶりに見た。
私を、一人の人間として認識してくれる人間を。
だけどさ、だけど違うんだよね。
そんな疑心たっぷりの視線じゃ、誰も頼ろうだなんて思わないんだよ。
頼りたくても、頼れない。
誰かに助けを求めたくても、求められない。
だから何もかも飲み込んで一人で、自分の足で、必死に立っていた自分の心を簡単に翻弄してしまう残酷な優しさ。
悲しさと怒りに震える。
───そんなもの、いらない。