来神時代雰囲気文
七夕ネ…タ…?







7月7日。
毎年梅雨の時季に重なるこの日に晴れるということは大層珍しい。ここ数年の東京は当然の如く雨だったし、例に漏れず池袋にも朝からけぶるような霧雨が降り注いでいた。

だからと言って、高校生男子たる静雄は別段七夕の雨を悲しんでいる訳ではなかった。牽牛と織女の伝説も、雨だから会えない二人の悲劇も所詮は御伽噺。17の男が信じて悲しむようなものではない。
それなのに、そのはずなのに臨也はそこにいた。

しとしとと雨粒がコンクリートの屋上を叩く音だけに飽和された空間で、傘もささずに空を仰ぐ。
「…ついに頭がイかれたか。ノミ蟲」
「シズちゃん、知ってる?七夕の日の雨は牽牛と織女の涙なんだってさ」
怪訝そうに眉を潜めながら近寄る静雄に口を開く臨也はいつにも増して唐突だ。
「催涙雨って言うんだって」
しかしそんな臨也を前に、普段は5秒と保たない静雄の堪忍袋の尾が千切れないのは、どうしてだろうか。その答えはすぐに見つかった。

「何泣いてんだよ手前」
「泣いてないよ。シズちゃん目までおかしくなったんじゃない?」
即座に返される否定はかえって事実を明瞭にする。
臨也は、雨の中で静謐な雫を落としていたのだ。


「それは手前だ。クソノミ蟲」
濡れた床を大股で進んだ静雄はその勢いのまま目の前の痩身を腕の中に抱き込む。
「ちょっ、と…何してんの、シズちゃん」
「うるせぇよ。黙ってろ」
有無も言わさず閉じ込めた身体はひどく冷えていた。

「何が涙の雨だ。泣いてる暇があったらどんな事してでも会いにいきゃいいだろうが」
「無理だよ。天の川に隔てられてんだって」
「…俺だったら、好きな奴の為なら川があろうが海があろうが渡ってやる」
黒髪に伝う雫を見遣りながら、思い浮かべたのが初恋の女性でも可愛いと噂される女子でもなかったのは何故だろうか。
「っ…ははははは!ほんとシズちゃんて力業だよねぇ」
目の前で細い肩を震わせる臨也の顔であったのは。


「でも、君なら出来る気がするよ」


ささめく雨の中覗いた穏やかな笑顔は確かに静雄の心臓を叩いた。川を渡っても、いい程に。











ちょっと不安定な臨也さん。たまに虚しくなったりしてると可愛いと思います。川越え静雄はnnks様についったで頂きました。シズちゃんなら川くらい渡ってくれると信じてます(笑)