7日に投開票された大阪W首長選。周知の通り、大阪府知事前職の大阪維新の会・松井一郎と大阪市長前職の吉村洋文が、それぞれ知事・市長の立場を入れ替えて出馬、自民・公明らが推薦した候補者を圧倒して当選した。



 維新は同日の府議選でも過半数を獲得し、市議選では過半数にこそギリギリ届かなかったが議席を伸ばした。“大阪限定の維新人気”の衰えのなさを示した形だが、その“生みの親”である橋下徹氏は、生出演した昨日8日の『とくダネ!』(フジテレビ)で、今回の選挙結果を平然とこう分析したのである。

「(大阪都構想に)反対していた年配の人がどんどん死んじゃったんですよ」

 これは、コメンテーターの作家・橋口いくよが、2015年の住民投票で都構想が否定された事実を指摘し「今回、年配の方が反対したのかそれとも若い人がたくさん投票されたのか。どちらだと思います」と聞いたことを受けた、橋下氏の発言だ。

 当たり前だが、いかなる年齢層の人間も住民であり、「年配の人」もまた政治的意見を表明する有権者である。その有権者に対して「死んじゃったんですよ」と言い放つ姿には慄然とせざるをえない。


 当然、この橋下氏の暴言にMCの小倉智昭らは苦笑い、スタジオは慌てた雰囲気となった。橋下氏もまずいと思ったのか、すぐに「人口構成がどんどん変わっていってるんです。それでいいんです。だから年配の方たちは今まで反対してたけど、若い世代になって変わってきた」と取り繕った。だが、たかが4年足らずで「都構想反対」の比率が大きかった年配層が「どんどん死んじゃった」とは考え難い。

 しかも、橋下氏は続けて“大阪万博を実行しようと思えば役所の仕組みを変えていかなくてはならないということに有権者が気づいた”などとまくし立てたのち、結局、もう一度「そして年配の反対してきた人もどんどん死んじゃったから」と繰り返したのである。


 自分に批判的な人々やメディアを「既得権益者の敵」に見立て、執拗に攻撃することで求心力につなげようとするのは橋下氏の政治家時代からの手法だが、今回、生放送で「年配の方が死んじゃったから」と口走る様を見るにつけ、この人は“早く死んじゃってかまわない”くらいにしか思っていないのではないか。そんな気さえしてくるのだ。

 まあ、これは口が滑ったとしても、橋下氏はその後、もっと見過ごせない暴言を連発していた。たとえばコメンテーターの古市憲寿が「(今回の選挙結果で)これでもう都構想もオッケーなんじゃないですか?」と水を向けると、橋下氏は両議会での可決が必要と前置きつつ、こんな論理を展開したのだ。

「ただね、市議会も84のうち今回で40議席とってるんですよ。で、府議会は過半数とってるんですよ。
これでね、まだ民意を得ていないなって言ったら、これは朝日新聞の社説なんか無茶苦茶ですよ、あれ。なんか(普天間基地の)辺野古移設をね、あれは中止しろと、県民投票の結果を受けて辺野古移設中止にしろと。でも大阪都構想は、これ民意受けたなんて言ってないんですよ」

 橋下氏は今回の勝利によって大阪都構想賛成の「民意」が示されたと言いたいようだが、そんなわけがない。当たり前だが、有権者は松井・吉村の維新コンビが掲げる「都構想再挑戦」のワンイシューで投票したわけではないからだ。

●大阪W選挙より辺野古の住民投票のほうが奇策と言い放ち、朝日新聞批判

 橋下氏はその上、悪質なことに、昨年の沖縄での辺野古新基地建設をめぐる住民投票を持ち出して、話を朝日バッシングへとすり替えている。

「(沖縄の)県民投票なんかでね。
本当は国の安全保障を県民投票で決めるというのはおかしいんですよ。こっちのほうが“奇策”なんですよ。でも朝日新聞はこっちの(沖縄)県民投票を“奇策”と言わずに、この(大阪)W選挙を“奇策”って言ってね。ちょっと朝日新聞の論説委員はみんなね、ちょっとアンポンタンですよ」

 いや「アンポンタン」は橋下氏のほうだろう。もう一度言うが、大阪都構想は2015年の住民投票で反対が賛成を上回り、否定されている。一方、辺野古新基地建設の県民投票は初めての試みであり、県民の「辺野古移設反対」の直接意思が投票結果としてようやく可視化されたものである。


 今回、維新は都構想に公明党の協力が得られないことへの反発と、互いの任期を伸ばすという“党利党略”のため、W辞任&選挙という「奇策」に出た。それは完全に行政の私物化であって、事実、各報道機関の世論調査でも批判の声が大きかった。

 ようするに、大阪W選挙と辺野古県民投票を比較すること自体、そもそもが馬鹿げているのだが、橋下氏はここで、わざわざ朝日新聞を「仮想敵」としてバッシングすることによって主張のトンデモさを誤魔化したとしか思えないのだ。

 しかし、番組ではこうした“橋下流詭弁術”のおかしさを指摘したのは柿崎明二・共同通信社論説委員ぐらいで、その後も、橋下氏はその柿崎氏の言葉を遮って持論をまくしたてた。

 たとえば、柿崎氏が同じ題目の住民投票をくり返そうとすることへ疑義を呈すと、橋下氏は色をなして「住民投票は勝つまでやっていいんですよ」と強弁。2015年の住民投票の前、当時、大阪市長だった橋下氏が「何度もやるものではない。
1回限り」と会見で言っていたことを指摘されても、「それは僕が『一回』ということ(だから松井・吉村は関係ない)」などとつっぱねたのだ。

 まさに子どものような屁理屈だが、この「勝つまでやる」という発言こそ、維新の本質をあらわしている。ようするに、何度負けても、その度に“幻の都構想”を辞任や入れ替え首長選のネタとして使い回す。そうすることで政治的に半死の維新を立て直そうとする。言い換えれば、大阪都構想とは維新にとっての“復活の呪文”なのであり、維新は行政を私物化する“都構想ゾンビ”というところだろう。

●都構想のインチキはとっくに明らかになっていたのに……

 だいたい、都構想実現には1500億円ものコストがかかると言われている。橋下氏らは都構想によって府と市の「二重行政の無駄」がなくなり、効率化とコスト削減ができると言い張るが、これもとっくのとうに反論され尽くされていることだ。

 たとえば大阪市と府は都構想の財政効果(改革効果額)を140億円としているが、森裕之・立命館大学教授によると〈このほぼ全てが二重行政とは関係のない民営化・民間委託・経費節約〉であり、〈それらを除外した二重行政の廃止自体で生み出される財政効果は全体でたった四〇〇〇万円しかなく、大阪市(特別区)においてはゼロとなっている〉(「世界」19年4月号/岩波書店)。

 また、橋下氏らは「大阪万博誘致などが有権者に評価された」「万博には都構想が必要」などと主張するが、大阪市を廃止して新たに特別区を設置するには莫大な引き継ぎ・再編コストがかかる。『大阪都構想が日本を破壊する』(文藝春秋)などで〈都構想実現後も当面の間、おそらくは、準備期間の2年間を含めた少なくとも5年間程度は、彼らの行政パワーのかなりの部分を、自らの新しい仕事を作るための仕事に投入されていき、大阪市民のために十分投入されなくなってしまう〉と警鐘を鳴らし続けてきた藤井聡・京都大学大学院教授は、むしろ“都構想が大阪万博に大きな障害を与える”と指摘している。

 いずれにしても、4年前に否定されている大阪都構想は、当時の住民投票前とくらべて、今回のW選挙では明らかに議論の量や質が落ちていた。にもかかわらず恐ろしいのは、あいかわらず、大阪では維新の勢いが止まらないことのほうだろう。

●自民党も公明党を切って維新と憲法改正に突入していく、と恐怖の予想

 実際に今回の選挙でのマスコミ出口調査でも、自民を支持する投票者の約半分が松井・吉村の維新コンビに投票したとみられている。維新と自民党大阪府連との対立とは反対に、安倍首相や菅義偉官房長ら官邸との協力関係があるからこそ、こうした現象が起きているのだろう。

 事実、橋下氏は昨日の『とくダネ!』のなかでも、国政で自民党と連立を組む公明党へ宣戦布告するとともに、こんな恐ろしい予想を口にしていた。

「僕は彼ら(松井・吉村)の性格とか、大阪維新の会のメンバーの性格をよくわかってますので、公明党の衆議院選挙の選挙区に大阪維新の会、立てます。で、もう関西は6選挙区あるんです、公明党のね。これが公明党の力の源泉ですよ。この6選挙区全部(に維新候補を)立てて、しかももう、大阪維新の会のエース級のメンバー、もう準備できてます。もう戦闘態勢に入ってます。だから、今はこれ第一幕で、第二幕は公明党を壊滅させる、というところまでやりますから。そうすると、日本の政治構造も大きく変わります。自民党との協力がね、公明党じゃなくてもしかすると維新となって、憲法改正のほうに突入していくと」

 なんと、安倍自民党が公明党を切り、維新と一緒になって憲法改正をやる可能性に言及したのだ。

 たしかに、悲願の改憲を実現したい安倍首相にとって、9条改憲に慎重な創価学会を抱える公明党よりも維新のほうが思想的に近く、安倍官邸と距離が近い。今回の勝利で一段とギアを上げた維新が安倍自民党と一体化して改憲に全面協力するというのは十分、ありうるだろう。それどころか、最悪のシナリオとして、政界復帰した橋下氏が安倍首相と公然とタッグを組み、「安倍・橋下政権」を始める可能性もゼロではない。

 維新が圧勝した大阪W選挙の影響は、大阪だけにとどまらない。維新と橋下氏の動向を注視し続ける必要がある。
(編集部)