世界の株主還元、10年で倍増 18年度、最高の265兆円
【イブニングスクープ】
世界の企業が株主に回すお金を増やしている。配当と自社株買いの合計額は2018年度に過去最高の2兆3786億ドル(約265兆円)と金融危機の影響が強く出る前の08年度比倍増する見通しだ。世界の設備投資額にも匹敵する規模に膨らんでおり、企業のお金の使い方を表す資金配分の長期的な変化を表している。金融緩和で資金が大量に出回っているところに、企業がさらに還元を通じてお金を資本市場に配分することでカネ余りを増幅している。
QUICK・ファクトセットで継続比較可能な世界100カ国、約1万5千社を集計した。足元で減速感もある世界経済だが日米欧の企業業績は過去最高水準。利益増を背景に企業は株主還元を増やしており、18年度は前年度比2割弱の高い伸びになりそうだ。
世界銀行によると世界の国内総生産(GDP)合計は約80兆ドル(17年度)。株主還元額は3%弱に相当する規模で、10年前の2%弱から比率が高まっている。
従来は企業の主要な資金振り向け先だった設備投資額は伸び悩む。17年度に2兆2554億ドルと直近ピーク(14年度)比6%減の水準だ。一方で企業はより長期の成長分野を探る研究開発費は増やしており、世界全体の研究開発費合計は17年度に過去最高の0.67兆ドルだった。それでも設備投資と研究開発費の合計でみても、10年前に倍以上離れていた還元額との差は直近で2割程度まで縮小した。
底流には産業のけん引役の交代がある。かつてのモノづくりからデジタル技術へと主戦場は移った。
企業の稼ぎ頭は多額の設備投資を行う鉄鋼など素材や自動車・電機など加工・組み立て業から、米「GAFA」に代表される巨大IT企業群に替わった。知識集約型で多くは大規模な生産設備を必要としない。
設備投資に回らない企業部門の資金は、高株価を武器にしたM&A(合併・買収)などに向かい、市場のカネ余り感を一段と強めている。
株主還元という選択は他に有望な投資先のない消去法の側面もある。
米アップルは18年度に595億ドルの純利益を稼ぎ出したが、それを上回る規模の727億ドルを自社株買いに回した。他に18年度に自社株買いを増やした企業の上位にはバンク・オブ・アメリカやウェルズ・ファーゴなど銀行も目立つ。成長企業に資金を回すという銀行の本来の役割を果たせていない。
企業部門には還元を増やしても使い切れないお金が積み上がる。世界合計の企業の手元資金額は17年度に初めて5兆ドルを突破した。
お金がたまると、投資家は資金効率の観点からさらなる還元姿勢を強める。本来、成長分野にお金を回す役割を担う株式市場で投資家が株主還元ばかりを重視するようになれば「特定の企業にお金が集中し、富が偏在しかねない」(みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミスト)との指摘がある。
市場を通じた格差拡大の弊害も無視できず、米国では一部で行き過ぎた自社株買いを規制する議論も浮上している。