△夕暮れ時、貴方へ、△
「2人で一緒に海へ行かないか」
突然だった。
鎮也さんが現れた、その事だけでも驚いていたのに。
俺はポカンとしたままひとつ頷いて、鎮也さんの運転する車に乗り、海まで来た。
夕日が海も空も染め上げまるで溶け合っているような、温かい綺麗な景色だった。
海なんて、いつぶりだろう。
近くにあるのに見に行くことなんて…。
そんなほんの少しのワクワクと、隣にいる鎮也さんの考えている事への不安と、何をしたらいいのか判断し得ぬ申し訳なさと、俺の気持ちは油と水の様にぶつかり合い落ち着くことができなかった。悟られまいと息をひそめ、静かに響く波音の間に意識を潜らせる。
僅かの沈黙の後、不意に鎮也さんが俺の名を呼んだ。ハッと開いた視線だけを、そのまま隣へ向ける。
陽の光に照らされた優しい笑みがそこにあった。
「あの夕日のように、斎の心が帰ることができる海になりたい」
思いがけない言葉に、トンっと跳ねる心臓。顔が赤くなっているだろう事が自分でもよく分かる、とても熱い。
それと同時に、小さな疑問が鼓動と共に生まれてきた。
鎮也さんの心が帰る場所…それは、その場所は、あるのだろうか。
あるとしても、なぜ鎮也さんは常々心許無い表情をしているのか。
いつもの、俺の考えすぎ、それならばいいのだけど。
「……」
でも、でもそういう風に考え方を割り切ることができず、かといってやはり俺には訊ねる勇気もなく、身勝手な熱りと虚しさに居心地の悪さを覚えながら、俺は鎮也さんの顔を見つめ返すばかりだった。
鎮也さんside→「夕暮れ時、あなたへ、」
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「こころわけ」では、慶龍と鎮也さんとで同じ記事を上げることがあります。
でも、人の心は十人十色。
同じ時間と場所を共有していても、気持ちや感じていることは必ずしも一致するものではありませんね。そういった違いをちょこちょこっと、お互いに加えていますので、鎮也さんsideも一緒に見ていただけたら幸いです。
こんばんは、めのこです。
こころわけ、前回の「夕暮れ時、貴方と、」の続きになります。
慶龍が鎮也さんに海へ連れて行ってもらい、そこであった二人の心の動きのお話…。
海を見に行ったこの日のことは、二人にとって転換点になったと思います。この日があってよかった。今はそう思えるわたし達です。
鎮也さんの勇気に感謝…。
Rinaちゃん、ふみやんありがとう!
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