(土誕/銀土銀/原作設定)



大型連休の真っ只中。
世間では浮かれモードの日だろうが、真選組には暦通りの祝日などない。
むしろ、浮かれモードになるこの時期こそ、頭の湧いた馬鹿な奴らがテロだのなんだの企てるため、真選組の煩雑期と言っても過言ではないだろう。

そこに不満を持ったことなど一度もない。
土方にとっては暇を持て余すくらいなら攘夷浪士どもを追い掛けている方がはるかにマシだ。尤も、ほとんどの隊士はそうでもないようだが。
しかし、そんな考えとは裏腹に、土方は部屋に篭ったままカリカリと書類を片付けていた。
己の現状に土方は深い溜息を零す。
ややこしい書類などではない。むしろあと数時間もあれば終わるであろう単純な事務作業。
それが土方にとっては苦痛で仕方なかった。

事の発端は数時間前に遡る。
いつも通り見廻りの準備をしていた土方の前に、ばたばたと慌てた様子で姿を表した近藤が土方に指を刺しこう告げた。

『トシ!お前、今日休み!』

唐突に告げられたその言葉に反論する間もなく、局長命令だから!と告げた近藤はぐいぐいと背中を押し、土方の自室に追いやると、いつも快活の良い笑顔をこちらに向けたのだ。

『誕生日おめでとうな!』

今日はちゃんと休むんだぞ、と釘を指すように付け加えるとぱたんと襖を閉められてしまった。

そうして見廻りすら行けないまま今に至る。
書類仕事は山崎に無理矢理持ってこさせた僅かな譲歩だ。
近藤の気持ちが有難くない訳じゃない。
祝ってくれる気持ちは純粋に嬉しいが、如何せん土方にとって仕事をしている方が楽しい訳で。


「…仕事の虫が聞いて呆れるな」

「まったくだよ。休みまで働いちゃうって。もう仕事馬鹿どころかただの馬鹿だよバーカバーカ」


ぽつりと呟いた一言に対して聞こえた背後の声に土方はピシリと固まった。
そのまま眉間に皺を寄せ振り返れば、頭の悪そうな髪を持つ男がのそのそと部屋に入ってきた。
腐れ縁、どころか、ひょんなことからそれ以上の関係を持つようになってしまった万事屋、坂田銀時だ。


「…毎度毎度どっから入ってきやがる不法侵入者」

「失礼なこと言うな。ちゃんと正面から入ってきましたァ。副長さんにタバコぱしられたつったら一発だったね。いやージミーはちょろいちょろい」

「山崎あとで殺す」

「殺人予告?今時流行らねーって」


ぐだぐだとくだらないことを話しながら、銀時はドカリと腰を下ろす。
なんだか文句を言うのすらめんどくさい。
ナチュラルに居座る気満々の銀時に眉を寄せ溜息を吐き出した。

そうして再び書類仕事に取り掛かる。
部外者が真選組幹部の私室に居座っているというのに、追い出すこともせず、この対応はどうなのか。
案外、山崎のことを言及できないのかもしれない。
信用をあっさり勝ち取る銀時がずるいのか、それを許す己が甘いのか。

腹立たしさと呆れを綯い交ぜにした溜息を零し、土方は目の前の紙にペンを走らせた。
溜息一つで銀時をスルーして再び仕事に戻った土方に、銀時は面白くないとばかりに口を尖らせる。
そのまま四つん這いで、少し丸くなった背中ににじり寄ってきた。


「今日はオメーはオフだって聞いたんだけど」

「…誰に聞いた」

「ゴリさん」


後ろで髪をいじってくる銀時をそのままにしながら面白味もない書類に目を通す。
ウザイ、と引っぺがすのは簡単だが反応を返すのも銀時の思う壷なので無視に限る。
なんてことはない、くだらない意地だ。


「そういや、こないだ知り合いから白玉粉もらってよ。そんで昨日、暇すぎて柏餅大量に作っちまった」

「働けニート」

「これが超うまくてよ。俺天才?って思ったね。生まれ変わったら和菓子職人になるわ俺」

「今すぐ死んで生まれ変わってこい」

「しかしざんねーん。土方くんの分の柏餅はもうありませんー。いやーほんっと残念だね!銀さんの柏餅食えねーとか可哀想!」

「興味ねぇ」

「でもどうしてもっていうなら作ってやるけど。いやー優しいね銀さん。旦那の鏡だね」

「…つーか少しは黙れもじゃもじゃ」


仕事の邪魔だ、とべらべら喋り続ける銀時を遮るように言い放つ。
どうせまた、天パ馬鹿にすんじゃねぇだのなんだの言い返してくるんだろう。確信もなくそう思った。


「…………。」


しかし、土方の予想は裏切られ、返ってきたのは無言の返事。
拍子抜けする反応に振り返ろうとしたその首は、腹に回された腕によって遮られてしまった。

唐突な行動に文句を言う暇もないまま、銀時はぎゅうと土方の身体にさらに密着し、その肩に額を埋める。
肩越しにほんの少しの振動が伝わる。
振り返るまでもなく、銀時が笑っているのだと悟った。


「……タバコくせー」

「………うるせーよ」


だったら離せ、という言葉を飲み込んで、土方はタバコの煙を灰皿に押し付ける。
首筋にかかる銀時の髪がくすぐったくて腹が立つ。
そんな感想を浮かべながら、銀時の腕を軽く抓ってやれば楽しそうに笑う気配がした。


「…土方ー」

「…なんだよ」

「……………。」


またもだんまりを決め込む銀時を背に新しく咥えたタバコの煙を吐き出す。
余計なことをべらべらよく喋る口は閉ざしたまま、回された腕がさらに強くなる。
これでは仕事もできやしない。そう、不満に思うのに。


「…仕事の邪魔してんじゃねーよ」

「邪魔じゃねぇ。嫌がらせだ」

「なお悪いっつーの」


ぐだぐだと繰り返される応酬に肩にかかった銀時の頭を小さく小突く。
そうして、おめでとうすら言えない馬鹿な男を笑ってやった。


(無言のハッピーバースデー)


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