ひやりと冷たい風が頬を撫でた。ついこの間まで、ほんのり暖かかったというのに、街はもう冬の気配を醸し出している。
 冬の、とくに朝のこの澄みきった空気が、土方は好きだった。キンと冷えた風にあたるたび、少しずつ頭が冴え渡るような感覚。


「ちょ、さみーよこれ」

「………。」

「ふざけんなよなーちょっと前まで暖かかったくせによ」

「………。」

「こう段階を踏んで寒くなることはできねーのか空気読めよ地球」

「………。」

「つか、ほんとさみーんだけど。耐えられねーや俺どっちかっていうと寒がりなh…」

「―――ウルセェェェェ!!!」


 ぐだぐだと続く意味を為さない言葉に、土方が怒声とともに振り返ると、いつも以上に眠たげな目をした銀時と視線がぶつかる。
 ふあぁと緊張感も欠片もない欠伸をこほす銀時。なんていうか、何もかも台無しだ。
 もれそうになる溜め息を飲み込んで、土方は前を向き直り足を進める。その数歩後ろに銀時が続く気配がした。


「なにもこんな朝早くから出ていく必要ねーだろ。まだ時間余裕なくせに」

「ほっとけ。俺はこの朝の空気が好きなんだよ」

「はー、変わってんね土方くん。俺なら寝れるだけ寝ときたいけど。睡眠は大事だよ。」

「お前のは睡眠じゃねェ。惰眠だ。」


と、いうか。


「そんなに文句いうならお前はまだ寝てればいーだろ」


 わざわざついてくる必要もないだろうに。そう呆れたような口調で告げれば、背後で銀時が立ち止まる気配がした。
 不審に思い振り返ると、恨みがましげに銀時がこちらを睨み付けている。


「…お前は、ほんっと人の気持ち考えないつーか究極の鈍チンつーか、」

「ああ!?テメェ、けんか売って、」

「ちょっとでも一緒にいたいっていういたいけな男心が分かんねーのかコノヤロー」


 罵倒ともとれる台詞に言い返そうとした言葉は、銀時が一息に放った言葉に遮られる。
 それを理解する前に銀時はふいと目をそらして、つーかこんなこと言わせんなボケ、と拗ねたように吐き捨てた。


「………………バカか。」

「うるせーなバカつったほうがバカなんだよバーカバーカ」

「小学生かァァ!」


 ひゅうと何度となく撫でる風は、容赦のない冷気を含んでいる。身を切るような寒さの中、土方は誤魔化すように、ぐい、と自分の頬をぬぐった。
 それでも温度は変わらない。くそ、と誰に言うでもなく呟いた。

 寒いのに熱いってなんだコレ。


(いっそ冷製スープなんていかがでしょう)


←戻る





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -