Piece5



「虫呼ばわりか」
「それを良しとして住み着いてる連中だ。自分が人間だと思いたいなら、さっさと出て行きゃいいんだよ」
 解体された棺桶は数枚の板へと変わり、車にくくり付ける為に使用していたベルトでさっとまとめると、後部座席に放り込んだ。
「そんな街に、お前の言う老人は住んでいるのか……」
 遠い目で街を見つめるサムナへ、ギレイオは指を指して抗議した。
「あのな、あのじじいは好き好んでここに住んでるんだよ。居場所がなくなって泣く泣くここに流れ着きました、なんて美談じゃねえ」
 先刻から、ギレイオが言うところの「じじい」への風当たりは強い。サムナの件がなければ、進んで行きたいと思うような場所ではないようだ。現に、車へ再び乗り込んだギレイオの顔は暗い。
「行きたくないのか?」
 助手席に乗り込みながら問うと、ギレイオはハンドルにもたれかかって答えた。
「ああ行きたくねえな。どっかの馬鹿がぶち切れなけりゃ済んだ話だ。余計に行きたくねえよ」
「……すまない」
 違う、と言ってギレイオはエンジンをかける。
「馬鹿は俺だ」
 無言で車を発進させ、市街を走った時よりもゆっくりとした速度で車は進む。
 今の言葉の意味を問おうと、サムナはしばらくギレイオを見ていたが、やめて前方へ視線を向けた。言葉そのものの意味はわかっても、その背景にあるギレイオの心情を汲み取る能力は、サムナにはない。そしてそれは文字通り、「機能」として自身に備わっていないことを、サムナは常に感じているのだった。
 とろとろとした速度で車は進み、その間もサムナはずっと街の様子を観察していた。どこまで進んでもギレイオが評した通りの街並みではあるが、人の姿は見えない。時折、物が動いたと思えば、そこにいるのは猫や犬の類であり、大方が車の音に驚いて逃げていく。どこにも人の姿はなかった。
「この周辺に人は住んでいないのか」
「住んでるよ。いるだろ」
 どこに、と聞こうとして、流れる風景の中に光る物を見止める。それはガラスを失った窓の下の亀裂から光を反射していたが、ガラスなどのように透き通った光ではない。黒く、悪意に満ちた塊が、亀裂の向こうから光を放っている。
 だが、ゆっくりと通り過ぎる車を見送るだけで、光の先が表へ現れ出ることはなかった。

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