Piece18



「……そういえば、学校では何か収穫がありましたか」
「……」
 冷静にえぐられるならまだしも、無言は一番こたえた。お陰で話の接ぎ穂を見失っていると、ワイズマンは誰にともなしに話し始める。
「……久々に人の中に入るといけませんね、面倒なことが多くて」
「……はあ」
 ワイズマンは研究に没頭するあまり、外界とはほとんど没交渉になっていた。買い物や何かしらの手配は全て、ロマが執り行っている。確かに、ワイズマンが学校のような不特定多数の人間の中に赴くのは、本当に久しぶりのことだ、とロマは思い出した。
「まるで菓子にたかる蟻のように、有象無象が突っかかってくるんだから始末が悪い」
 ロマは言葉に不穏な空気を感じ取り、茶葉をポットに入れる手を止めた。
「……何をしたんですか?」
「人聞きの悪い」
 ぼんやりとしていたワイズマンの顔が引き締まり、いつもの鋭い目がロマを見据える。
「いつものことですよ。勝手にやって来て勝手に自滅していく、お馬鹿さんたちが例によって例の如く……」
 言いながら、思い出したように大きく嘆息する。
「喧嘩も自己顕示も独りでやっていればいいんです。しかし、それが外に向けられると厄介なものだと、今日思い出した次第です」
「……先生、また何かやったんですか……」
 へなへなと力が抜け、ロマは茶葉の入った缶を置いた。
 ワイズマンと魔法学校の間の軋轢は根深い。もちろん、不法に間借りしていることは大いに問題であるし、研究のための実験を行った結果が大迷惑という、元から深かった溝を更に掘り下げているような状態だが、もう一つ、軋轢の種となることがあった。それが、ワイズマンと魔法学校の生徒たちによる決闘である。
 決闘と言えば聞こえはいいが、一方では、不意に現れたワイズマンへ生徒たちが挑戦しているだけと言った方が現実に近い。ワイズマンの存在は生徒たちの一部では有名であり、その実力もいくらかの脚色を添えて語られていた。そのため、ワイズマンに会えたものなら千載一遇、挑戦して名をあげたいと思う生徒が僅かながら存在していた。
 またもう一方では、ワイズマンの歪んだ性格の犠牲者たちが雌伏の時とばかりに、逆襲よろしく襲い掛かるという現実もある。
 どちらもかつては魔法学校の外でも行われていたことで、街中では大いに迷惑がかかるからと、学校の敷地内に家を建てることにした理由の一つに数えられる。
 ここしばらくは、実験による植物の異常発生によって双方、敬遠していたために平和なものだったが、ワイズマンが境界を越えた途端のこれである。時間が経てば経つほど事は複雑さを増し、解決の糸口など絡まりあって見えそうにもない。
「またしばらく外に出づらくなるじゃないですか……」
「出れなくなるわけじゃないでしょう」
「嫌がらせのように結界が増えるんですよ」
「それでも君は出れるでしょう」
「だからっていらない種をまかないでください」
「いずれ芽が出た時に楽しめるようにと、せっせと育てているんです」
「その芽に今回は随分と手間を取らされたようですが」
「むしり取る喜びというものもあるんですよ」

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