番外編 王城狂想曲



「わ、私の親……母親のと、えーと……」
「無理矢理、慣れぬ言葉を使おうとするな。必要な時に出来ればいい。今は普段通り話してくれなければ、何を言いたいのかわからんぞ」
 何度目かの溜息をつくエンヌの横で、シャイムはほっとしたような顔で頷いた。
「……おれの、母さんは父さんとよく喧嘩するけど、おれは見ていて嫌な気はしなくて、まあうるさいけど、ちょっと楽しそうだなって思うんです。母さんと父さんの喧嘩は二人だけにしか出来ないものだから、おれもいつかそういう風に出来れば楽しいかなあって」
 イークは微笑む。
「いい親だ」
「だから……陛下は、もしかしたら喧嘩するのが嫌なのかなって思ったんですが……仲直りするのも大変だし」
「お前の両親はどうする」
「あー……」
 シャイムは苦笑いしつつ答える。
「大体、一晩でお互い普通の顔に戻りますけど。ひどいと挨拶もしないし、物を置く時に大きな音をたてるし……勝手にやっててくれって思いますけど、でも何日か経つと挨拶もするようになって、普通に戻っていくんです。どうやって仲直りしてるのかわからないけど」
「そういうものなのですよ。大抵は時間が修復してくれるものです」
「エンヌ様もですか?」
「それとこれとは関係ありません」
 笑いながらそのやり取りを聞いていたイークは、少しだけ息を吸い込んだ後に、口を開いた。
「そうだな、お前の言葉を借りれば、私は仲直りすることが大変だから、嫌だという部分がある。時間をかければどうにかなると言ってもな……私にはその時間が冗長に感じるのだよ。要する時間に飽きを感じる瞬間がある。それは喧嘩した相手を放棄するようなものだ。悪意はないが、そう思ってしまう」
「やってみなければ、わからないと思います」
「これでも努力はしている。人相手にはいささか難しいと悟ったが、国相手には飽きることもない。何せ、民は一人ではないからな。百年かけても、飽きることはないだろう」
「……では、百年かけた後はいかがです?」
 ふと思い立ったエンヌが問いかけると、イークは表情を変えずに答えた。
「その時の自分に聞くしかない」
「……じゃあ、答えはわからないですね」
 そうだな、とシャイムに向かってイークが投げかけた笑みを、エンヌは黙って見つめた。
 しかし、一つ息を吐いて気持ちを切り替えると、話の軌道を戻すべく、律した口調で言葉を紡いだ。

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