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短文・散文
螺旋階段を緩やかに降りる


子供のようにセックスをすると、揶揄されたことがある。
子供は性行為を行わないから、本当にただの揶揄だ。
それを言った本人、僕の兄は、まさに子供をあやすように僕を受け入れる。
僕が焦れば頭を撫で、僕が縋り付けば背中に腕を回し、僕が果てる時にはその足をしかと絡ませ僕を奥の奥で受け入れようとする。

兄との行為で、僕はゴムを使わない。
この行為は勿論、子作りの為に行うものではない。僕は男で、兄も男だから。
しかしこれは、性的欲求を処理するだけの行為でもない。厳密に言えば、性欲解消は副産物だ。


重要なのは、僕が兄を抱き、兄が僕に抱かれること。
僕が僕自身を兄の中に埋め、兄の中に僕の精を吐き出すこと。
兄が、僕を受け止めてくれることが、何より重要なのだ。

兄の熱を手で感じ、肌で感じ、口で感じ、屹立で感じ、僕は兄に受け入れられていることを感じる。兄が僕を好いて、僕を感じて熱を持つことを感じる。
そのことを幸せに感じながら、僕は兄の中で果てるのだ。



きっかけは、いつだったか。

ただ、兄が僕の傷痕を見咎めたことが原因だった気がする。

腕に残る、数本の切り傷。

不安定さの果てに行った自傷。

悲しい顔で問う兄を、僕はただ求めた。泣きながら求めた。許しを求めた。


気が付いたら、裸の僕と、僕の下で啼く裸の兄がいた。
兄の艶やかな身体が何度も跳ね、僕が兄を蹂躙すればするほど、兄は美しくその身をしならせた。


その日以来、兄は僕に抱かれるようになった。
そして僕は、兄を抱くようになった。



僕が兄を抱きたくなれば、兄は拒絶すること無く僕を抱きしめる。
兄がそうやって僕を拒まないことが、とても嬉しかった。


だからって、僕が自傷を繰り返すことは治らなかった。


確かに、兄を抱いている時は、僕は幸せの絶頂だ。
兄に受け入れられることで、僕は自分に自信を持てる。


だけど、どうだ?
その行為の最中は満たされて、幸せかもしれない。
でも、それはいつまで続く?

行為が終われば、僕はただの僕だ。
自分の欲の為に、自分が救われる為に兄を抱く、ただの矮小で卑怯で汚い男だ。
憎くて気持ち悪くて大嫌いな、僕だ。

兄を、最も苦しめる存在だ。

そんな僕が、兄を求めるなんておこがましい。

そう思う度に、こんな存在は失くなれば善いと思う。


「どうかしたの?」


後ろから声が聞こえて振り返る。兄が笑っていた。


「また、難しいこと考えてた?」

兄の指が、僕の唇をなぞる。その指が、優しく顎を持ち、そのまま口づけが落とされる。
求めるように、求め合うように舌を絡め、名残惜しげな銀糸をひきながら唇が離れていく。

「疲れてるなら、シようか?」

――ああ。
そうやって、兄が僕を誘う。
僕は、もう一度唇を重ねることで兄の誘いに応えた。



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2012.01.31


あきゅろす。
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