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終焉のアリア(番外編集)
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EMS軍本部食堂――――

「キャハハハ!見た見た見た〜?木偶達の間抜け面!EMSをクビになってポカーンだったあの顔チョーウケたー!キャハハハ!」
例の新人軍人9人しか居ない食堂。ケリーが甲高い声で笑う。その向かい側の席では頬杖を着いているライト。
「隊長とケリーと縁と翡翠とキティ、チョーうらやまなんだけど。俺らがMADぶっ殺してる間に眼鏡君達追っ払うとかさぁ。俺らも眼鏡君達の間抜け面見たかったよ〜なぁハルク!」
ガシッ!とライトが隣のハルクの肩を組んでもハルクはいつものボーッとした調子でお茶を啜っているだけ。
「別に。つまらなそうだよ」
「ハルクお前なーッ!全ッ然分かってねー!」
「でーでー!他の奴等も追っ払ったんだろ?じゃあ芋クサイ野郎2人以外の他の4人の男はどうだったんだよケリー?」
褐色の少女アリシアが男口調で聞く。ケリーは肩を竦めてつまらなそう。
「あいつら以外は居なかったし。確か任務とオフでどっか遠征中じゃなかったー?てかそれ以前にボクそーいうの興味無いし〜。アリシアお前どんだけ男好き?マジキモいから〜キャハハハ!」


ダンッ!

テーブルを叩いて立ち上がるアリシア。
「はぁ!?うざいんだけど。イーぜ、ケリーお前の秘密EMS中に暴露してやっから!」
ギロッ。頬杖を着きながら、アリシアを睨み付けるケリー。
「は?ざけんなよ露出狂女」























ギャーギャー煩い2人を気にもせず、巨漢のボイキンスは2人分の椅子に腰掛けて、フォークとナイフを持った両手をテーブルにダンダン叩いて鳴らす。まるで子供が、ご飯が出るのを待ちきれないよう。
「ハハハハ早くタタタタ戦いたいネネネ。ドドドドどれだけツツツ強いのかナナナナ」
騒がしい面々の中、黒軍服を羽織っているこの部隊の隊長エリはやはり無表情のままポツリ呟く。
「…エリは戦いたくないな」


バァンッ!!

「!?」
「な、何!?」
突然食堂の扉が吹き飛び、壊された扉の破片が9人に飛散する。驚いた9人が食堂の入口に顔を向ければ…ケリー、アリシアが機嫌悪そうに睨み。ライトが頬杖を着きながら楽しそうに笑み。翡翠とボイキンスが待ってましたとばかりに狂ったように興奮する。
「なぁに?まーだ何かご用?リストラされた元EMS軍人さぁん?」
其処には、たった今食堂の扉を吹き飛ばして破壊した風希を先頭に、空、鵺、月見、鳥が立っていた。風希と鵺と鳥は彼らを睨み付けているが、一方の空と月見は…
「何でわざわざ喧嘩を売るんすかね」
「空君もそう思いますか?わたくしもです〜!ど、どうしてでしょう…はうぅ…」
ただ単に風希達の売る喧嘩の道連れにされただけのようだった。






















「一般ピーポーは部外者認識されて軍本部を追い出すのがボク達EMS軍人の決まりだからぁ〜。攻撃しちゃうけどイーって事だよねー?」


タンッ、

ケリーはテーブルを跳び越え、5人に歩み寄る。いつもの自信たっぷりで意地悪そうな笑みを浮かべた上から目線で。
ぐっ、と右手の親指で後ろを指差す。
「じゃあ中庭訓練場。今から来なよ。相手してや、」
「うおぉーーっ!チョー可愛い子達居るじゃん!」
「ちょ、ライト何やってんの!?」
ケリーを押し退けてライトもまたテーブルを跳び越えると、女子3人の前に駆け寄る。目をキラキラ輝かせて。するとライトは女子3人の前にひざまづき、辺りにキラキラの星屑を散りばめながら左手を胸に、右手を差し伸ばす。
「おぉ!これはこれは愛らしきレディ達!レディ達が居らしたとは知りもせず俺の仲間が度重なる無礼を致しました。ここはお詫びに俺とディナーでも如何でしょうか!」
「え、えっと〜もっ、申し訳ありませんっ!!」
「そ、そんなぁ金髪美女!じゃ、じゃあそこの藤色髪美女は!?」
「あたし好きな子いるから」
「ガーン…!じゃあ黒髪美女!俺と是非ディナーを、」
「私…チビは嫌い…」
「…!」
風希の一言で、今の今までにこやか貴公子スマイルだったライトは目を見開き、下を向いてしまった。























「あぁそうですか…へぇ…そうですかぁ…」
握り締めた拳をわなわな震わせるライトの雰囲気が変わった。ライトが右腕を挙げて右手人差し指を天井に向かって立てると…


ドガァン!!

「!!」
雲一つない快晴。なのに突然外では落雷が。しかも宿舎が大きく揺れる程の。さすがに空達もビクッ!としてしまった。それを、ゆっくり顔を上げたライトはニィッ…と笑う。その背後で、腰に手をあててケタケタ楽しそうに笑うケリー達。
「あ〜あ、丑三つ時女、ライトの地雷踏んじゃったね。ってーコトで!部外者は追い出さなきゃ…ね!!」


ゴポゴポッ!!

「なっ…!?」
ケリーがそう言った瞬間、食堂のあちこちからゴポゴポと泡が浮き上がり、大量の水が空達目掛けて勢い良く流れ込む。
「いけよッ!!」


ゴポゴポッ!!

「ちょ…!?」


バシャァン!!

寸前で大量の水を避けた空達。水圧で食堂廊下の窓はガシャン!と割れてしまった。

























「な…何だよ…何なんだよ…!?何でこの空間にいきなり大量の水が現れる、」
「これで終わったと思ってるとかやっぱ木偶達はバカじゃん!?」
「!」


ドドドド!!

再び大量の水が地鳴りを上げて、何とカクッと90度曲がって廊下に流れ込んできた。その様はまるで水が空達を追っているかのよう。
「どうせこいつらの能力らろ!こんげ水ぐれぇ俺の魍魎でぶった斬ってやるて!!」
そう言って魍魎を構えて前に出た鵺の服を後ろから思いきり引っ張る空。
「バッ…!バカ野郎!!ぶった斬れねぇし!その前に水圧で殺られるだろド田舎者!!逃げるぞ!!」


ガッ!

「わっ!?引っ張んなて雨岬!!」
鵺の服を引っ張って逃げる空。一方の小鳥遊3姉妹も逃げる為に廊下を走り出すが…
「あ…あぁ…」
腰が抜けて座り込んでしまっている月見。
「月見ちゃん!」
「姉様は私が守る…」
風希は月見をおぶると、鳥と共に逃げて行く。生きているかのように廊下をカクッカクッと曲がりながら追い掛けてくる大量の水から。

























3階、応接間―――――


バタン!!

「はぁ…はぁ…扉を閉めれば…大丈夫…」
何とか追い付かれる前に3階まで駆け上がり、応接間の扉を閉めて逃げ込んだ5人。


ガクッ、

「月見姉様…」
「月見ちゃん!」
「ふ…ふぇえ…ごめんなさい…ごめんなさいわたくしまた…また何もできずにご迷惑をおかけする事しかできずに…!」
再び座り込んでしまい、自分の無力さにポロポロと涙を流してしまう月見の両手を、風希と鳥が握り締めてあげる。
「また何もできないとか迷惑をかける事しかできないとか意味分かんないよ月見ちゃん」
「ふぇ…?ひっく…、ひっく…」
「月見ちゃんはみんなが傷を負ったら治してくれる。月見ちゃんにしかできない事じゃん」
「そう…。それに迷惑ばかりかけているのは私達の方…」
「え…?そんな…ひっく、事は…ひっく、」
「怪我ばかりして…いつも月見姉様に治してもらっているでしょ…」
「そんな事ありません!わたくしは戦えない無力な人間で…!」
「ま、そんなに責める事無いんじゃないっすか。現に俺達だって何もできなかったですし」
まさかの空の優しい一言に、4人は顔を上げて目を丸める。空は4人に背を向けているが。
「雨岬が良い事言ったて…」
「メガネ君キャラ違くない?」
「キモッ…」
「は!?キモッとかあんたらいい加減に…、」
空が振り向くと其処には目をぎゅっと瞑りながらポロポロ涙を流している月見が、空に何度も何度も頭を下げていた。
「なっ…!?」
「ありがとうございますありがとうございます…!わたくしを励ましてくださり本当にありがとうございます空君!!」
「べ…別にそんな、礼言われるような事じゃ、」


ドガァン!!

「なっ…?!」
そんな束の間の刻も爆音に壊される。応接間の扉をぶち破って室内へ流れ込んできた大量の水によって。






















「リストラ木偶達見ぃっけ」
水の後ろにはニヤリ…悪魔のように笑むケリーの姿が。
応接間室内に流れ込んできた大量の水が室内を埋め尽くしていく。今は調度、一番身長の低い鳥の胸辺りまで水嵩がきている。
「やばっ…!このままじゃ…!」
青ざめた空が出入口を見るが、其処にはケリーが居る。普通に出入口からは逃げられない。
「…っ、くそっ!」


ガシャァン!!

「雨岬!?」
空は右肘で応接間の窓を割るから、鵺達は目を見開く。
「窓の外から逃げるしかないだろ!!」
割った窓から女子達を先に逃がし、最後に鵺、空の順で逃げれば、応接間の窓の外にほんの30cmある敷居を伝って5人は隣の部屋へ逃げて行った。
「チッ!ウッッザ!!」


バシャァン!!

逃げられた怒りを、操っている水に八つ当たりしたケリー。耳に装着している通信機を仲間へ繋げる。
「木偶達チョーウザッ!そっち逃げたから殺っちゃって!!」
「…了解」





























一方の空達―――――

隣の部屋へ窓の外から逃げていたが、すぐに見つかってしまう事を恐れ、隣の部屋からは出て今は2階へと階段を駆け降りていた。5人分の足音が響き渡る。


カン!カン!カン!

「雨岬手ぇでぇじょぶらけ!」
「月見…さんが治してくれたから」
「そうけ!ありがとな月見さん!」
「はいっ!」
「はぁ、はぁ…ていうか!あいつら何なの!?何で追い出すだけであんなに本気で攻撃してくるの!?殺す気満々じゃん!!」
「それ以前に…どうして私達が…突然EMSをクビにされたの…」
「そう!まずそれだよね!」
階段を駆け降りながら息を荒げて話す5人。
「そうらよ!だって将軍から言われたわけじゃねぇねっか!俺達が邪魔だからあいつらが勝手に除籍書を作って俺達をクビに見せ掛けたんじゃねぇんけ!?」
「鵺お前珍っっしく頭冴えてるな」
「おめさんはクビにされた方が良いて!!」


ピシッ…ピキッ…、

「…何、この音…」
すると、どこからともなく家鳴りのようなピシピシという音が辺りから聞こえ出した。5人は立ち止まり、辺りを見回す。





















ピシッ…ピキッ…

「それに何か急に寒くなってきたような気がしませんか…?」
「うん。まだ秋なのに超寒…きゃあ!?」
足元を見れば何と、廊下が徐々に徐々に凍り付き始めているではないか。家鳴りのようなピシピシいう音は氷が張る音だったのだ。
「見て!壁もだよ!」
鳥が指差せば、壁も天井も階段も氷が張り出し、たちまち凍り付き始めていた。
「くっ…、またあいつらの能力…。逃げよう…」
風希が一番に階段を降りる。


ピシピシッ!!

「!?」
「風希ちゃん!!」
階段を一段降りた瞬間、階段を降りた風希の右足が階段を這って浮かび上がった氷に包まれて凍り付いてしまったのだ。
足を動かして氷を引き剥がそうとするが、まず足が凍り付いてしまい動けない。その間にも氷は風希の右足首…太股…膝…上へ上へと貼り付いていき、風希の右半身が凍っていく。
「くっ…!」
「風希ちゃん大丈夫ですよ!わたくし達が今この氷を割りますから!」
「でも叩いても全然割れないよ月見ちゃん!この氷、鉄みたいに硬いよ!」
「だからって魍魎で斬るわけにはいかねぇろ!?」
「そんな事したら足ごと斬れるだろ!」
「刀じゃ斬れないよその氷は」
「…!」
淡々とした低い声が聞こえて5人が振り向けば、階段の上段から5人を見下ろす無表情のハルクが居た。その隣には縁。
右手だけ黒い手袋を外しているハルクの右手に氷が張っている姿を見た途端、鳥はキッ!と睨み付けると両手から蝶の大群を繰り出す。
「君が風希ちゃんの右足を!!小鳥遊流奥義、乱舞!!」


バサバサッ!!

鳥の手の平から繰り出された大量の蝶がハルクと縁目掛けて飛んでいく。


バツッ!バツッ!

「嘘!?」
しかし、ハルクと縁に届く手前で蝶達は、突然現れた巨大な蜘蛛の巣に捕まってしまった。
「何で!?蜘蛛の巣なんて今まで何処にも…、」
「にゃー!」
「上…!?」
声が聞こえた頭上を見上げると、何と、いつの間にか天井に貼り付いていたキティがまるで蜘蛛のように天井から降りる。キティが蜘蛛の糸を手繰り寄せていけば、蜘蛛の巣に捕まった蝶達も手繰り寄せられていき…


ゴクンッ!

「っ…!?」
キティは蜘蛛の巣に捕まえた蝶達全てを飲み込んでしまった。
その不気味さに5人は真っ青になる。
「にゃーにゃーにゃ?」
「っ…!猫なのか蜘蛛なのかはっきりすれば!?」
鳥がキティに立ち向かう。だが…、


ガクン!ガクン!

「な…、何で…!?」
「急に力が抜けていくて…!?」
突然5人はその場に崩れ落ちてしまい、立てなくなってしまった。























呆然とする5人。
「コンッ!」
「!!」
小狐の鳴き声にハッ!とした5人が顔を上げれば、階段上段から見下ろしているハルクの隣の縁が抱えている小狐の腹が丸々と膨らんでいる。さっきまでこんなではなかったはずだ。
「よしよし。たくさん喰ろうたようだな」
「コンッ!」
「お主ら何が起きたか分からぬようだから説明してやろう。コイツが今お主らの体力を吸いとった。それ故、お主らは力が抜けて立てなくなったのだ」
縁がそう言った後、小狐の口からキラキラとした光が噴き出され、その光はハルク、縁、キティに降り注ぐ。そうすれば、心なしかハルク、縁、キティの3人は先程より力がみなぎっているようにも見える。
「っ…!おめさんは、相手の体力を奪う能力らな…!」
「ご名答。低知能の分際でよく分かったな」
「うるせぇてばこのっ…!」
「鵺!無理だ!」


ピキピキッ!!

立ち上がった鵺の両足に、階段から浮かび上がった氷が貼り付いてしまい、鵺はその場に倒れ込んでしまった。


バタン!

「あ"っ!」
「鵺!!」





















ピキ、ピキッ…ピシピシッ…

力を吸いとられて動けないし、蜘蛛の糸も体に絡み付けられていて動けない5人に、床や階段から浮かび上がった氷が貼り付いていく。
「くそっ…!」
「うぅ"…月見ちゃん風希ちゃん…寒くなってきたよ…」
「足の感覚が無くなってきてしまいました…」
「っ…!どうすれば…、」


ゴオオッ!!

「!?」
すると突然辺りが真っ赤に明るくなったかと思えば、床や天井や壁に貼り付いた氷が炎によって溶かされていく。そうすれば、辺りの炎の熱で、空達に貼り付いていた氷も溶けていく。身動きがとれるようになった空達は今の内に、階段を駆け降りて逃げて行く。
一方のハルク達は目を丸めて驚いている。
「…!?何処からこの炎がきたのかな」
「分からぬ」
「にゃにゃにゃー!?」
「俺の氷を溶かすなんて」
「さっきの奴らでは無さそうだな」
「にゃにゃにゃ!」
「キティ。分かった。話している暇は無いな。ハルク。奴らを追うぞ」
「うん」
「にゃにゃにゃー!」
縁を先頭に、ハルク、キティは空達を追う為に階段を駆け降りて行った。


バチバチッ…

辺りの氷を全て溶かした炎が燻る音もやがて消え、凍り付いた場所は元通りに。


フッ…、

その様子を階段上段から見届けた1人の人影が走り去って行った。


































2階―――――


カン!カン!カン!

階段を駆け降りて行く5人分の足音。
「このまま一気に1階に行こう!」
「あいつらから逃げるなんて…」
「仕方ないよ風希ちゃん!ムカつくけど、あいつらはあたし達を殺しにかかってるもん!5VS9じゃ分が悪いよ!ここは一先ず逃げよう!」
「……」
「どうしたんすか月見さん」
「は、はい。あのですね空君。さっきのあの炎は…もしかしたら…」


カン!カン!カン!

階段を駆け降りて行く足音。


ドスン…、ドスン…、

「な、何!?この音!?」
5人分の足音をも掻き消す大きくのっそりのっそりした低い音が階段下から聞こえてくる。音が聞こえてくる度に辺りも揺れるから、5人は階段の手摺に捕まる。


ドスン…ドスン…、

すると、音が聞こえてくる階段下からユラリ…巨大な影が見える。
「ドドドド何処に居ルルルの〜」
「何…この声…、」


ドスン!!

「なっ…!?」
「きゃあああ!?」
「うわああああ!?」
大きく地面が揺れたかと思えば、同時に、5人が立っていた階段がガラガラと崩れ落ちていく。


ドサッ!ドサッ!

「痛っつ…」
「痛たた…」
崩れ落ちた階段と共に1階まで落下してしまった5人は、衝撃でぶつけた腰を押さえる。
「見ィ付けタタタタ」
「…!!」
目の前には、今、壁を殴っただけで階段を崩した巨漢ボイキンスがニタァ…と笑って立って居た。


























「見付けタタタタ!見付けタタタタ!戦おウウウ!戦おウウウ!僕と戦おウウウ!」


ドスン!ドスン!

戦える事の喜びで興奮しているボイキンスはその巨大な拳で壁や地面をドスドス殴るから、壁や地面が破壊され、コンクリート片がバラバラと辺りに舞う。
「くっ…!鵺は月見さん達を連れて先行け!」
「なっ…!?何言うてるんら雨岬!?そんげ言い方、おめさんだけ此処に残るみてぇだねっか!」
「そう言ってるんだよ!!」
「そんげ事させねぇて!おめさんだけかっこつけんな!!」
「じゃあお前は女3人だけで逃がすのかよ!」
「そんげ意味じゃねぇて!全員でこいつと戦えば良いねっか!」
「こいつらは全員で9人。まだ5人しか現れていないっつー事は残りの4人は何処かで待ち伏せしているか此処にまとめてやって来るだろ!此処で全員共倒れになるより、お前が月見さん達を連れて逃げろ!」
「そ、そんげ事…!」


ガシャッ!

「な、何するんら!」
空は、鵺が携えていた魍魎を奪い取る。そうすれば空は空らしかぬ別人の表情をしている事に鵺が気付く。
「…ハッ!おめさんもしかして雨岬じゃねぇな!?」
しかし空は返事はせず、魍魎を振り上げてボイキンスに跳びかかる。
「戦おウウウ!戦おウウウ!」
「でけぇ図体のクセして赤ん坊みてぇな喋り方してんじゃねぇよデブ野郎!!」
空の意識より前に出てきた鳳条院空はそう叫ぶと、ボイキンスと戦い始めた。
「っ…!月見さん!風希さん!お鳥さん!行くて!」


ぐいっ!

鵺は3人の手を引っ張ると、名残惜しくもこの場から駆け出して行った。





























ドスン!ドスン!

「くっ…!」
「どうして逃げるノノノ?僕と戦おウウウ!戦おウウウ!」
威勢良く飛び出した空と鳳条院空だったが、ボイキンスが一発殴るだけで壁は木っ端微塵。階段も木っ端微塵。その強大な力を前に、鳳条院空はただただ逃げる事しかできずにいた。
「何だよあの怪力デブ!?あの一発喰らっただけで即死じゃねぇか!!」
《あんたなら隙を狙って斬りかかれるだろ!》
中に意識のある空が鳳条院空に話し掛ける。
「おいぃいい!雨岬てめぇえ!!てめぇが戦うっつったんだから俺に任せねぇでてめぇが戦え!!こんなブルドーザー相手に俺を戦わせるんじゃねぇ!!さすがの大剣豪鳳条院空様でもこんな人間ブルドーザー相手に1人じゃ死んじまうわ!!」
《お前の意識が前に出なきゃ俺は魍魎を持てねぇんだから仕方ないんだよ》
「くっそー!いつかてめぇの体借りて女子共にあんな事やこんな事してやるから覚えとけよ!!」
《はあ!?それはやめ、》


ドスッ!!

「うぐあ"あ"あ"あ"あ"!!」
「捕まえタタタタ!捕まえタタタタ!」
鳳条院空は頭を掴まれ、そのまま壁に叩き付けられる。壁にめり込んだだけでも体の骨という骨が砕けてしまいそうなのに、頭を掴まれたままドスッ!ドスッ!と何度も何度も壁に叩き付けられるから、意識が朦朧としていく。


ビチャ!ビチャッ!

叫ぶ度に口からは真っ赤な血が噴く。ボイキンスは鳳条院空から飛散する真っ赤な血をかぶると、ペロッ、と血を舐めて更に興奮して叩き付ける力を強くしていく。























「楽しイイイ!美味しイイイ!楽しイイイ!」


ドスッ!!ドスッ!!

「ぐ…、ぁ"…、」
もう痛みによる叫び声すら上げられなくなった鳳条院空。
《おい…お、おい!聞こえるか鳳条院空!今俺が前に出る!だからお前の意識を後退させろ!》
「はっ…、うっせ…。今頃になって…代わるだ…?かっこ…つけてんじゃねぇぞ…雨岬…、」
「トドメメメメ!!」
「…!」


グワッ!

ボイキンスが振り上げたトドメの右手拳が見えるのに、もう体は動かない。
「悪りぃ雨岬…てめぇの体だっての、に…、」
《そんな事…!!》


ピキーン…!!

続くはずの空の言葉も。空にトドメをさす為に振り上げたボイキンスの右手拳も。何もかもが止まった。まるで刻が止まったかのように。


タンッ、

すると、止まっている2人に歩み寄る1人の人影。止まっている空の体を避難させると、止まっているボイキンスの振り上がった右手拳を…、


スパン!!

「うっ…?ぎゃアアアア!?痛イイイ!痛いよオオオ!?何でデデデ!?何が起きたノノノ!?」
切り付けたと同時に、再び動き出したボイキンス。まるで刻が動き出したかのように。
痛い痛いと赤ん坊のように泣き喚き、ドスン!ドスン!と暴れるボイキンスの傍には既に誰も居らず、足元には1枚の黒い羽が落ちていた。


















































同時刻――――――

「はぁ!はぁ!でぇじょぶらけ!?」
「平気…。でも月見姉様が…」
一方の鵺、月見、風希、鳥。空に言われたように先に軍本部を出る為、1階の長い長い廊下を走っていた。
元から体が弱い月見は走ったせいと先程受けた凍り付けの攻撃により、呼吸が荒く顔は真っ青。
「はぁ…はぁ…」
「でぇじょぶらけ月見さん!?俺がおぶるすけ!」


パシッ、

月見に差し出した鵺の手は風希に振り払われる。
「いい…私がおぶる…」
「だろも、女のおめさんじゃてぇへんらろ!?俺は男だすけ平気ら!」
「MADの血が半分入ってる鵺に…月見姉様は触れさせない…」
「っ…!」
「風希ちゃん!こんな時にそんな言い方ないよ!」
鳥の言葉も無視をして、風希が月見に歩み寄る。
「私が守る…。月見姉様は私が…、…!!」
ハッ!と何かを感じ取った風希が階段の上を見上げる。


キィン!!

見上げたと同時に巨大な2本のノコギリが振ってきたが、風希の鎌がそれを受け止める。
「ヒャヒャヒャ!よく気付いたねぇ!」
「貴女…殺気出し過ぎ…」
「気付かなければ今頃お前はバラバラに切り刻まれていたってのにねぇえ!!」


キィン!キィン!

現れた翡翠は風希ばかりを狙って、間髪空けずにノコギリで攻撃をしてくる。しかもすばしっこい上、高い位置にある窓の燦に跳び移ったりと並外れた身体能力の持ち主。だから、あのクールな風希の顔にも苦痛の表情が浮かぶ。





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